22話 信頼と新たな仲間
俺は全く仕事らしい仕事をしないラパに、必殺おとり作戦を考えた。
「よーし、ラパの外出禁止令を解こう」
俺の企みを察知したのか、マスターが素知らぬ顔のラパをむんずと掴んで言う。
「ふむ、ラパもそろそろ外へ出たいだろう、それに我らチームの一員だ、身を挺してでもやってもらわねばならないこともある」
おお、容赦なしですか、良いと思います。さすがは冥界の重鎮、使えるものは使えない妖精も使う。
捨てる神あれば拾う神あり、ですな。
「フッ、ラパくん、そういうことなので、必ず俺のフードで大人しくしていたまえ」
「わ、わかったのだ! 大人しくしてるのだ!」
絶対ウソだろ。もうあとは自己責任ということでよろしくどうぞ。
ベッドミーティングを終えて休憩所へ行くと、重く淀んだ空気を纏うレオンがテーブルに着いていた。
これはあれだ、地獄絵図から生還した犠牲者だ。なんとも声を掛けずらい雰囲気である。
「おはよう、リュカ」
「――はい、おはよう奈來」
「ウッス……」
「う、うん……おはようレオン」
後ろからマスターが仮の姿でレオンを励ます。ああ眩しい……。
「お疲れだねレオンくん、若い時の苦労は買ってでもせよというだろ、何事も経験だよ」
マスターがいうと重みがあり過ぎて余計に滅入ると思う、だからやめていただきたい。
「それで、あの後レオンはどうしたんだ? 子供達は? 大河が様子を見に来たとか?」
「ああはい、血と涙と鼻水だらけの俺に引いてましたけどね、子供たちは全員無事です。それと、ボスの大河がリュカさんと話がしたいとのことです」
まあ当然そうなるだろうな――
そんなレオンと会話中の俺に、奈來が身を乗り出して言う。
「おい、俺の話も聞けって。今日は俺の信頼する男を呼んであるんだ、表の車で待たせている、少し付き合ってくれないか」
そうだった、また忘れるところだった――
俺は奈來に、朱鬼を頭脳戦力として奈來のパートナー兼ボディーガードにすると言ったら、子供のお守りかよ、と言われたので、地獄で一番強い鬼なんだぞ、と脅かしたら、ふたつ返事で承諾した。
そんな奈來も努力して地位を勝ち取った実力者、揶揄いはすれど、馬鹿になど到底できるはずもなく、遠慮などしなくても命令すればいいものを、お人好しというか、根は単純で優しい男なのだろう。
だから妖精のラパも懐く。違った、奈來が懐く。
ということで、ここは上司を立てて奈來に従おう。
「わかった、レオンは少し休め。マスターも一緒にきてもらえるかな?」
「了解した」
今度はレオンに留守番を頼んで地下基地を出た。脇道に黒いワゴン車と護衛だろうか、スーツの男たちが彼方此方に立っている。あまり目立たないでほしいところだ。
奈來は朱鬼の手を引いて急ぎ足で車に乗り込む、俺達もあとに続く――
車に乗ると、後部座席を対面にして、黒縁の眼鏡を掛けた男が座っていた。奈來は朱鬼を膝の上に乗せ男の隣りに、俺とマスターは前の席に座る。
男は俺達のローブ姿を怪訝そうにジロジロと見るも、特に構うことなく挨拶を始めた。
「私は公安特務課の夜上浩志と言います。朱鬼くんに、リュカさんとマスターさんですね?」
「「えっ?」」
俺とマスターは、夜上がマスターにさんを付けたことに驚いた。
前で奈來が天井を見上げそっぽを向く。おそらくマスターを死神とは言っていない、ということは、奈來は俺達が何者なのかを教えていない。
たぶん奈來と冥界の間で秘密厳守の誓約でもあるのだろう、その辺は俺もよく知らない。
しかしこのままでは色々と面倒なことになる、いつまでも隠し通せるとも思えない、マスターはどう判断するだろうか。
すると突然マスターが高らかに笑う。
「クハハハッ! これは愉快だ! なあ奈來くん、君はこの男を信頼しているから我らに会わせようと思ったのだろ? なら我らも奈來を信じようじゃないか、なあリュカよ、お前もそう思うだろ?」
やはりそう判断したか――
「俺はマスターに従うまでだ。奈來、マスターに認められたってことだ、だがしっかり釘は刺しておけよ、お前のためにも、彼のためにもな」
「死神様、ありがとうございます……」
「お、おい、どういうことだ? 死神って?」
夜上は困惑する、当然の反応だ。秘密を話せばお互いの命綱を握ることになる、約束事に罰則は付きもの、神が相手ならそれなりの報いは受けるだろう。はてさて、奈來はどうするのか。
俺とマスターは成り行きを見守る――
「なあ夜上、唐突で悪いが、お前は命を賭け、死ぬまで秘密を守る覚悟はあるか?」
「おいおい、随分と物騒なことを言うな、たかだかギャングの見張りだろ? 大袈裟だなぁ」
「――俺はお前を一番に信頼している男だ、だが、軽々しく返事をしてほしくないのも本音だ。ちゃんと説明してから会わせたかったんだが、頼めるのはお前しかいなくてな……すまない」
「訳アリか、ハァァァ……」
夜上は苦悶の表情で大きく溜息を吐き、腕組みをして暫し考える。
どうやら断れない状況に置かれているようだ。俺もその手に引っかかったからね、厄介な戦法だよ。奈來も上手く考えたものだ、まあ悪気はないんだろうが。
腹を括ったのか、夜上が口を開く――
「私に覚悟を問うということは、お前は既に命を賭けて秘密を守っているんだろう。お前にできて私にできないことなどない、運命共同体になってやろうじゃないか、私が独身で良かったな、フン!」
独身だから選んだとも言える、どうでもいいか。
「ありがとう夜上。では改めて紹介しよう、こちらの大柄で麗しい方が冥界の死神様、隣りの色男が死神様の弟子のリュカ・アークス、そして朱鬼くんは閻魔様の従者だ。くれぐれも粗相や失礼のないように」
「はあ?! 死神に閻魔って……ハァァ、随分と豪華絢爛じゃねえか、お前って奴は……」
「まあそういうことだ、よろしく頼むよ」
紹介を受けた夜上は、驚きと困惑と後悔を通り越して意気消沈と項垂れてしまった。
頑張れ、公安だかなんだかの夜上くん。




