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21話 ミライの居場所


 あれから大河を背負う俺をマスターが背負い、大河を住む映画館の中に放り込んで、そのあとマスターと一緒に魂を回収している最中、レオンを置き去りにしていたことを思い出したが、まあどうにかするだろうと放置した。

 そしてマスターと至福のお風呂タイムを過ごし、充電事件を思い出しながらニヤついた顔で眠りに就いた。

 


 翌朝――


「ムムムッ! リュカちん、ズルいのだ! 


 朝からラパの激が飛ぶ。予想はしていたが、マスター争奪戦に関しては譲れないので無視で。


「こら! お風呂係はラパなのだ!」

「いいかいラパ、お風呂も仕事のうちなのだよ」

「お風呂は仕事じゃないのだ!」


 わかってるわそんなこと、俺だってできればマスターのお風呂係りなりたいわけで、アヒルのオモチャにまたがってるだけのお前にとやかくいわれたくない。お前は俺が洗面台で洗ってやるから諦めろ。

 

 それよりも――なぜか横で朱鬼が涙目に……。


「んー、なんで朱鬼はそんな顔してるのかな?」

「リュ、リュカ様は、死神様と……その、お風呂に入られて……ぼ、僕は、僕は……」

「……ああうん、今度いっしょに入ろうな。それより、奈來のおじさんとは話したかな?」

「えっと、奈來さんが警察の知人を連れてくると言ってましたが、そのことですか?」


 どうやら奈來は仕事の意味をわかってくれたようだ。そう、俺は奈來にある役回りを与えていた。

 凶悪事件が多発してからは主に警察が必要とされている、それでも少なからず派閥はある。

 

 そこで軍警のトップである奈來の出番だ。この国は軍事国家ではないが、爆弾を扱う敵にはやはり爆弾に慣れた軍が適役だ。なので奈來には信用のおける警察関係者をピックアップするよう頼み、連携して組織と関わりのある連中を(あぶ)り出す作戦だ。


 それと、今後も大河達が組織に狙われる可能性はある。なら、彼らを取締る警察を見張りに付ければ良い、簡単な話だ。


「そうそれ、朱鬼にはその優れた頭脳と戦闘力で奈來を助けてやってほしいんだ。外の情報を調べてもらいたいんだけど、やってくれる?」


 朱鬼は満面の笑みを見せるも、すぐに暗い顔をした。どうしたんだろう――


「どうした? 何か問題でもある?」

「あ、あのう……ミライに問題が……」


 そうだった、あまりにも存在感がなさ過ぎてすっかりミライのことを忘れていた。


「ミライに何かあったのか?!」

「『蟲喰(むしく)い』にやられました……さほど危険なものではないので心配ないと思いますが……」

「蟲喰い? なにそれ、いつごろ?」

「寺で車に乗ったときではないでしょうか、邪気に誘われて紛れ込んだかと。話が終わった後は随分と穏やかになったので」


 そういえば組織の話に口を挟むこともなく黙っていた……ん? 穏やかなら良いのでは?

 と疑問符を掲げていたらマスターがむくっと起き上がり、朱鬼に質問をする。


「それはあれか、邪念を喰うという神蟲(しんちゅう)か?」

「死神様はご存知でしたか。怨念や邪念に囚われた記憶を喰う蟲で、寺や神社を棲処にしているんですが、特に人形の怨念を好んで喰らいます」

「我も閻魔王(えんまおう)に聞いたことがある、人々は神職の者が取り憑いた邪気を祓うと信じているが、神蟲が喰っているのだとな」


 何だろうこのやり取り、それってめちゃくちゃ使える話なのでは?

 傀儡はもう一体ある、その神蟲を利用できれば、呪符を貼られた人形を退治できると思うのだが。

 

 その前に、ミライの記憶チェックだ――


「なあミライ、女盗賊団とかイントルーダーとかに聞き覚えはある?」

「あなた……誰?」


 チッ! 俺は怨念かよ、まあいい。


「俺はリュカと言って、朱鬼の友達なんだよ。じゃあさ、奈來とか大河は覚えてる?」

「奈來さんに大河兄さんですよね? はい覚えてますが、それが?」


 奈來と大河は覚えてるのか、さぞかし素晴らしい記憶なんだろう――まったくどうでもいい。

 さて問題はここからだ――


「ではもうひとり、佐伯匡孝はどう?」

「……昔の知人だったような……」


 昔の知人か……随分と小っぽけな存在になったものだ。だがこれで、愛しい人の死を嘆くこともないだろう。ただ小っぽけでも、佐伯という男がいたことを忘れないでほしいと願う。

 

 では最終チェックだ――


「ミライはこの先も人形のままで居たい?」

「どういうことでしょうか、私は人形として生まれ変わったのでしょ?」


 ミライの問い掛けに、俺はどんな言葉を返せばいいか迷った、今さら人形に取り憑いたなんて言えない。そんな俺を見兼ねてマスターが訊き返す。


「ではミライよ、お前が人形に生まれ変わったと言うならば、人形として振る舞い、人形として生きていかねばならないが、それで良いのだな?」

「はい、もちろんです。ここへ置いて頂けるなら何でもします、だから放り出さないでください……」


 もう人間は懲り懲りだと言いたげだ。しかもあの強気なリーダーが慈悲を乞う。どうやら俺達に捨てられると思っているようだ、残された曖昧な記憶に怯えているんだろう。何かに(すが)りたい、そう眼が訴えている。

 だったらミライに家事全般と連絡係を任せようじゃないか、ここに居る意味を持たせる。何でもする宣言したしね。

 

 あとは……あ、まだ朱鬼から返事をもらっていなかった。


「なあ朱鬼、さっきの話なんだけど……」

「も、もちろんお受けいたします! リュカ様のためなら風呂掃除もトイレ掃除もやります!」


 ものすごく有難い申し出なんだが、子供にそんなことをさせたら鬼畜扱いされるのが落ちだ。

 それに比べ妖精ネコときたら……いやちょっと待てよ、もしかしたらラパを餌に食い付く悪党がいるかもしれない。

 そのためにローブがある、もう甘えもわがままも許さない――いやもう本当に仕事してください。


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