20話 推しですので!
ガレージ付近に着くと、レオンがさっそく何かを発見したようだ。
「リュカさん見てください、ガレージの周辺に組織の奴らが陣取ってます」
レオンが立ち止まってガレージを指差す。やはり警戒は強化されていたか。
「ふむ、子供たちの泣き声が聞こえる、捕えられているかもせれんな。それと、大河というボスが妹の死を知っているかどうかだ、どうするリュカよ」
人質か、俺の予想ではラストタバリオンの連中が見張っていると思ったんだが、状況がよくわからない。マスターの言う通り、もし大河がミライの死を知っていたら、状況は良くないと思ったほうが良さそうだ。
「ちょっとガレージの様子を見てくる、マスター達は組織の連中を見張っててくれ」
俺は姿を消す――
《亡霊》
ガレージの裏側に回ると、骨董品の山と、隣りに食糧だろうか、袋がいくつも重なって置かれている。
それらを前に、大河と組織の幹部らしき男が、何やら言い争っていた。
大河が言う――
「倉庫に骨董品は置かない約束だ、その代わりガレージを無償で貸してやってるんだ」
幹部の男が言う。
「そうだったんだが、こちらも食料品を安く提供している側としてお願いしているんだよ。どうも小ネズミの他に野良犬がうろつき始めてるようでね、ガレージより倉庫のほうが安心なのだよ」
大河も引き下がらない。
「ならお前たちとの取引きは解消する、とっととガレージがら出ていってくれ」
幹部の男は大河の申し出にさほど気にする様子もなく、話を続ける。
「困ったなあ、最近は女盗賊団も仕事をしていないらしく、骨董品を売りに来てくれないんだよ、だからリーダーにある物を探すように頼んだんだが、さっぱり連絡がなくてね」
「ある物? 何を探させているんだ?」
「つまらない人形だよ、君には関係のない話さ。さてと、いつまでも小ネズミに我々の物を盗まれるわけにはいかないので、駆除をしようかと」
男はそう言って服のホコリを叩きながら、澄ました顔で大河をチラリと見る――
「お前ら、まさか子供たちを……」
なるほど、人形とはおそらく傀儡、ミライが傀儡を探していたのは奴に頼まれたからだ。ならふたりの仲を知っていた? だがもう今更だ。
なんにせよ、兄妹揃って組織と関わりがあるのはわかった。それと、大河の様子からして、ミライの死にはまだ気づいていない、それは組織も同じだ。
さあ、大河はどう判断するだろうか。相手は根っからの悪党、薄ら笑いを浮かべ余裕を見せる。
そこへ銃声音が連続して轟く――
「ククッ、駆除が始まったようだ。君に選択肢などないのだよ、取引きも今日で終わり、君も用済み、さようなら、タバリオンのボス」
男が言うと、手下が一斉に銃を構える。俺は咄嗟に剣を構える、と次の瞬間――
月光を背に黒い大きな影が組織の連中を覆うと、一陣の風と共に巨大な鎌が横一直線に振られた。
血飛沫が舞う、幹部ともども、男たちの体は真っ二つに裂かれ、ドサッと肉の塊が転がった。
黒い魂は浮かぶことなく塵と消えた――
俺は思わず息を呑む、大河は腰を抜かし地べたに座り込む。マスターの低い声が耳をかすめる――
「リュカよ、今日の狩りは終わった――」
「リュカ……だと?」
俺は瞬時に大河の腹を殴打し昏倒させた。
「……ごめんマスター、出遅れた」
「なに、ついでに片付けたまでだ、カッカカ!」
本来の姿でマスターは笑ってるけど、俺はその影に一瞬鳥肌が立った、足がすくんで怖いとさえ思った。これが死の神――
「ハァ、やっぱりマスターには敵わないな。死体はそのままでいいの?」
「見せしめだ、ここは寺とは違うからな」
「そっか、ところでレオンは?」
「子供たちを宥めておる、何が起こったかわからないようだったから余計に怖かったのだろう」
そりゃ、銃声の後に血溜まりと肉片が転がってたら誰でも泣くよ。レオンはよく平気だったな、さすがに2度目なら耐えられるか。
これで子供たちも自重してくれるといいが。
「リュカ、その男がタバリオンのボスか?」
「うん、大河・フェルモントだ。どうやらミライの死にはまだ気づいてないみたい。咄嗟に気絶させちゃったけど、どうしようか……」
「うむ、ここへ放っておくわけにもいかんだろう、住処まで運ぶぞ」
「それよりマスター、元の姿に戻ってるよ。あ、ちょっと待って、仮の姿になる前に、充電……」
俺は思い切ってマスターの手を取る。何となくそうしたかった。
「おいで、リュカ――」
言ってマスターが俺を抱きしめてくれる。ああ、もう死んでもいい、死んでるけど。
「お前が甘えるなんて初めてだな。実はちょっとノームが羨ましかったのだ、なぜ我には甘えてくれないのかと。我慢してるのか?」
そりゃあ俺の推しですからね、遠くで見守るのが親衛隊ですので、我慢は当たり前です。
これ以上甘やかすとつけ上がるので、ファン以上の感情が湧いてきたら困るので、惑わす言葉はお控えください。でも今はもう少しだけ……。
「ハァ、充電完了。我慢はしてないよ」
「なら……」
マスターが不意に躊躇いを見せる。
「――なら?」
「なら、神託はどうだ? お前にとって神託はどう映っているのか、少し不安でな」
マスターも少しは気にかけてくれているんだ。正直なところ、最後の神託は俺には必要ないんじゃないかと思ってる。なぜなら俺はヒーローでも善人でもないからだ。あまり期待されても困るしね。
「ただ俺は、このままずっとマスターの弟子でいたいなって思ってるだけ」
「そうか、では魂の回収に付き合え」
「……へい」
相変わらず空気の読めないマスターだった――




