19話 港街のボスと軍警のトップ
久々にふたりきりで魂の回収に出掛け、しかも、マスターと一緒に風呂に入った俺は、幸せいっぱいで眠りに就いた。
朝起きて気づく、いつの間にかマスターの枕元で寝ている邪魔なモフモフ妖精ネコと、疲れたのか俺の横で朱鬼とミライが寝息を立てて眠っている現状に。フィギュアも寝るのかと思いながら。
俺は起こさないようにそっと起き上がり、休憩所へ行くと、奈來とレオンが揃ってテーブルに着いていた。
「おはよう、レオンに奈來」
「リュカさんもう昼過ぎですよ、いったい何時に帰ってきたんですか?」
「えっ、もうそんな時間か……」
前で茶をすすりながら奈來が言う。
「まったく、夜中にお前たちがいないって大変だったんだぞ、朱鬼とかいうガキんちょは人形片手に寝ぼけて徘徊するし、ラパは死神ちんが回収がってイジけてたし、ちゃんと説明してから行けよ」
なるほど、だからお子様はまだ眠ってるのか、いちおう朱鬼には会ったようだし、騒がしくなる前に、奈來にはこれまでの経緯を報告しておこう。もちろん、奇抜な発想は伏せて――
話が終わると、奈來はテーブルにおでこを着けてもごもごと独り言を呟く。
「そんなことが……傀儡って……フィギュアって……いや、でも俺だけ蚊帳の外ってのは……」
蚊帳の外のほうがいいこともある、それにうろちょろされるとこっちが迷惑なんでね。
「仕方ないさ、お前は軍警の要人、連れて歩くわけにはいかないだろ。それより、何か奴らを突く材料みたいなものはないか?」
「組織の下っ端から潰す作戦ですね? ならこの間のガレージへ行ってみましょうか」
レオンの提案に、そういえばあそこは組織の荷物置場だったことを思い出す。警戒は強くなっているだろう、いろんな意味で。
「そうだな――」
「――俺はまた留守番かよ」
奈來が顔を上げて捨て台詞のように言う。どうやら何かの役回りを与えたほうが良さそうだ。
その前に――
「あのさ、奈來、お前とラストタバリオンのボスとは知り合いなのか?」
「ん? 大河のことか、俺がまだ軍警に入る前の話だが、応援部隊の中に傭兵だった大河も一緒だったことがあるんだよ。あいつ、俺を庇って頬に傷なんかつくりやがって……まあ悪い奴じゃないさ」
これはこれは、予想外の善人者か。それでも幹部を殺ったんだ、何かしら問題を抱えているんだろう。それと、奈來は大河に怪我をさせてしまったという負目がある、多少の温情をかけることもあるだろう、まあ俺には関係のないことだが。
「ふ〜ん、今も交流はあるのか?」
「いや、特には。ただ、ミライが亡くなって、しかもフィギュアになったなんて、大河にどう伝えたらいいか悩ましいところだ」
「え、どういうことだ?」
「ミライは大河の妹なんだよ」
「「……ええっ!」」
突然の告知に、俺とレオンは思わず叫んでしまった。まさかミライと大河が兄妹だったとは……。
俺はレオンに口パクで――『お・ま・えー!』と威嚇すると、レオンはひたすら頭を横に振る。
そんな俺達を奈來は呆れ顔で言う。
「何やってんだお前ら――まあレオンが知らないのは当然だ、昔のことだからな。兄妹といっても孤児だったミライを大河が親代りとして育てたんだよ。だが大河にとってミライは大切な家族だからな」
朱鬼がミライを無縁仏といったのはそういうことか。隣りで訳を知ったレオンは項垂れている。事情が事情なだけに悩むのも仕方ないが……。
そこへマスターが仮の姿で現れた。
グッドタイミング!
「お、おはようマスター!」
「おはようリュカ。なんか辛気臭い雰囲気だが、何かあったのか?」
俺は今の状況をマスターに話した。するとマスターは奈來の前に座り毅然と話を始めた。
「この件に関して我々は手を貸す側だ、奈來くんならどうすべきか、言わずともわかるであろう」
「――はい、承知しております。ただ少し時間を頂きたいと、思う次第です」
「うむ、感情に流されなければそれで良い。では我もリュカ達と共に行くぞ。ああ奈來くん、またラパ達をお願いする」
「わかりました、考えるお時間を頂けるということで、あとはお任せください」
うーん、流石はマスターお見事です。
ということで、俺達は地下基地を出ると、陽はもう沈み始めていた。
車に向かう際、レオンが申し訳なさそうにマスターに話し掛ける。
「すみません、オレも知らなくて……」
「レオンくんが謝ることはない、誰にだって昔話はあるものさ。では運転を頼んだよ」
「ありがとうございます! お供します!」
やれやれ、レオンはすっかり舎弟気分だな。
俺達は軍警のワゴン車に乗り込み、さっそくラストタバリオンのテリトリーにあるガレージへと向かった。
少し離れた空き地に車を止めて、俺達は歩いて進む。あの時は気づかなかったが、錆びたシャッターの閉まっている店が並んでいる。スラム街といったところか。
あのギャングチルドレンが無断で住んでいそうだが、まあどうせ空家なんだろうから、誰の物かなんて関係ないんだろう。
未だ灰色の多い街の景色、犯罪が横暴する中、それでも所々にある商店街は、住民の努力と協力で成り立っているに違いない。
しかし、その輪に入れない孤児や不労者は、生きるために犯罪を犯す。平和なんて言葉は程遠い。
俺たち死神に狩られないことを祈ろう――




