17話 いろいろと奇抜で
俺はジルドの頭に刺さる矢を見ながら、大きく溜め息をひとつ吐いて怒りを鎮める。
やっと敵の情報を聴き出せると思ったら死人に口無しとは、まったく余計なことをしてくれる。
矢で思い当たるのは奴しかいない、目的は何だ、俺への嫌がらせか、それとも仕事上のトラブルか、なんとも腹立たしい、実に不愉快だ。
少しはマシな奴だと思っていたが、邪魔立てするなら悪魂とみなし、容赦なく狩らせてもらう。
そんな仏頂面の俺を下から覗く朱鬼は、嬉しそうに瞳を輝かせて話す。
「リュ、リュカ様の稀人なる勇姿を拝見でき、ぼ、僕は光栄の極みです!」
「勇姿? ああ、神には見えるんだっけ。ただの目眩しさ、朱鬼のほうが凄いと思うよ、重そうな金棒をあんなに軽々と振り回せるんだからね」
「そ、そんなご謙遜を……確かに金棒は重いですが、鬼は生まれながらの怪力がございますゆえ、特に誇るものではないかと、はい……」
生まれながらか、俺は与えらてばかりだ。どんな力でも神に優るものはない、たとえそれが小さき者でもだ。
俺は元人間で亡霊、神からしたらただの凡人、力もなければ誇れるものもない。
だからどうということではないが――
そこへ、呆れ顔のマスターと、困惑したレオンが辺りを見回しながら近づいてくる。
「リュカさん、爆音の正体はこれですか……」
「まあ見ての通りだ」
「やれやれ、後片付けをせねばな」
そう言ってマスターは唱える。
「《消滅》」
転がる死体があっという間に塵となり、跡形もなく消えて無くなった。これが俺とマスターの差だ。
俺はこの剣《不滅の蟻地獄》がなければ魂の消滅すらできない、だからこその神託なんだろうが、この差を埋めようなんて思ってもいないし、できるとも思えない。
だってマスターは神なのだから――
「マスターありがとう。あ、この子がマスターの言っていた従者の朱鬼だ。とても優秀な子だよ」
俺は邪念を誤魔化すように朱鬼を引き合いに紹介すると、朱鬼はひれ伏して挨拶を始める。
「御久しゅうございます、神鬼の朱鬼にございます。この度の件につきましては、快諾とお力添えを賜り、恐縮至極に存じます。及ばずながらこの朱鬼、尽力を惜しまぬ所存にございます。何卒よろしくお願い申し上げます」
硬いなあ、硬すぎて何言ってるかわからん。そんなに謙らなくてもいいと思うけど。
隣りでレオンは人間消滅という衝撃的な光景に、未だ顔が強張ったまま固まっている。
仕方がないので先に進もう――
「挨拶はそのくらいにして、マスター、ここにいても待ち人は来らずだ」
「そのようだな、供養所も傀儡は見当たらなかった。だが他の融合体はおるようだ、なあ朱鬼よ」
朱鬼はすっくと立ち、胸に手を添えて言う。
「流石は死神様、仰る通りにございます。無縁仏ゆえ人形と融合させましたが、置いてくるわけにもまいりませんでしたので、お許しください」
「当然の処置だ。ではレオンくんよ、車の運転をよろしく。ほらリュカ、地下基地へ戻るぞ」
そう言ってマスターは朱鬼の手を引いて歩き出した。俺とレオンは何がなんだかわからずその場に立ち尽くす。
「なあ、どういうこと?」
「……それをオレに聞きます?」
「……だよな、ごめん」
レオンはマスターに手招きされて駆け足で車へ、俺は破壊された待合室の瓦礫を見て、仕方なく無限袋から札束を取り出し、近くの木の根に置いて車へと走った。無限袋が財布化していると思いながら。
すると、レオンが車の後部座席の前で、
「パ、パ、パン……」
と言って、手から車のキーを落とした。パンの幻でも見たのかと車を覗いて俺は驚愕した。
あろうことか、「パンドーラ」の女盗賊が後部座席に座っている、しかもラパがそこにいるかのように小ぢんまりとして。
しかしレオンは思考が追いつかないのか、リーダーを前に咄嗟に身構え声を荒らげて訊く――
「そこで何をしている! 話があるならオレに連絡しろと言われたはずだ!」
そんなレオンをマスターが静止する。
「おいおい、まあいったん落ち着け。小さきものが余計に小さくなっているではないか」
マスターの言葉に、俺とレオンはいったん身を引いて気を落ち着かせる。そして改めてリーダーを見ると、座席が黒い壁のようで、いかにリーダーが小さいかを知る。
俺達は眼を見開き、
「……人形?」とレオン――
「あ、動いた」と俺――
しばらく食い入るように観察していたら、マスターがクスクスと笑って言う。
「これ朱鬼よ、ちゃんと説明してやれ」
「あ、はい。失礼しましたリュカ様、それと、レオンさんとお呼びしてもよろしいですか?」
朱鬼の問いに、レオンは小っさいリーダーを凝視したまま生返事で返す。
「ああ、うん……」と。
一方、平然としたマスターと朱鬼の様子に、俺はようやく話の内容を理解した。
詳しいことはわからないが、おそらく、無縁仏とは佐伯の恋人のミライで、融合とは傀儡が憑依したフィギュアとミライの魂を合体させたことだと。
ここに女盗賊団のリーダーが居るということは、ミライが「パンドーラ」のリーダーで佐伯の恋人ってことになるが……。
何というか、いろいろ奇抜で頭が混乱する。朱鬼の言った問題は山積みとはこのことなんだろうが、やらかしてくれたな、としか言いようがない。
ということで、朱鬼の説明会に俺は渋々と、レオンは興味津々と車へ乗り込んだ――




