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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
四章 セラフィナと音楽

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5.ミカエルの願い

 成長するのが待ち遠しくて、色々とできないことが多くて困っていたが、わたくしの小さな手は少しずつ思い通りに動くようになって、勉強では問題なく文字や数字が書けるし、ピアノも弾けるようになったし、縫物も少しずつ上達していた。

 縫物を教えてくれるのはお母様だ。

 お母様がわたくしとの時間を作って教えてくださる。


「ラファエルにはヘリオドール様が剣の稽古をつけていたのです。わたくしはそういうことはできなくて。わたくしに娘が生まれたら、わたくしの得意なこと……縫物や声楽を教えようと思っていました」


 わたくしの部屋でソファに座って一緒に縫物をしてくれるお母様は、優しくわたくしにそう語りかけてくれた。ラファエルお兄様が生まれてから十年間、お母様は子どもに恵まれず、下の子を諦めていたというから、その分わたくしが生まれて嬉しいのだという。

 針の動かし方から、縫い方まで、わたくしはしっかりとお母様に教えてもらう。


 わたくしは今、手縫いで小さな巾着袋を縫っていた。

 わたくしの分とラファエルお兄様の分とミカの分とお父様の分とお母様の分がある。

 同じものをいくつも作る方が、縫い方を覚えるのにはいいということで、家族の分を作ることになったのだ。


 艶のあるビロードの生地で作った巾着袋はラファエルお兄様とお父様とミカに渡すととても喜んでくれた。


「これにブローチを入れて保管することにしよう。ありがとう、セラフィナ」

「わたしはアンリエット嬢が作ってくれたお守りを入れようかな」

「わたち、えーっとえーっと……リボンのおはな、いれう!」


 それぞれに入れるものを考えてくれて、わたくしは上手に作れたことが誇らしかった。

 家族なので全員同じ色で作っていたが、作り終えて渡してから、わたくしはお母様に相談しに行った。


「わたくし、別の色でも巾着袋を作りたいのです」

「分かっていますよ、アルベルト殿の分ですね?」

「はい、お母様」


 お母様は分かっていてくださって、アルベルト様の分も布を用意してくれた。

 巾着袋を作って紐を通して結んで完成させると、わたくしはアルベルト様にプレゼントした。


「今、縫物の練習をしているのです。練習の一環として作りました。よろしければもらってください」

「大事に使わせてもらうよ、セラフィナ」


 微笑んで受け取ってくれたアルベルト様に、わたくしは胸を撫で下ろす。

 お誕生日お祝いも上げたすぐだったので、上げすぎかと思っていたが、アルベルト様は受け取ってくれた。


「セラフィナに渡したいものがあったからちょうどよかった」


 巾着袋を渡すためにアルベルト様を呼び出したわたくしに、アルベルト様は小さな箱を手の上に乗せた。開けてみると、ガラスの粒が金属の上に乗って飾られたウサギの形のブローチが入っていた。


「とてもかわいいです。ありがとうございます」

「どういたしまして。セラフィナが胸にリボン造花をつけているのを見て、ブローチもいいんじゃないかと思ったんだ」

「とても嬉しいです」


 ブローチは透明のガラスがはめられていて、目の部分には赤いガラスの粒がはめられていた。

 白うさぎだ。

 わたくしが目を輝かせていると、アルベルト様がわたくしのワンピースの胸にブローチをつけてくれる。針が布地を通るときにはドキドキしたが、丁寧に付けてくれて針が刺さることもなかった。


「よく似合っているよ」

「ありがとうございます」


 アルベルト様に付けてもらったブローチを外したくないような気がして、わたくしは胸が弾んでいた。


 アルベルト様と会った後に子ども部屋に行ってミカに会うと、ミカはすぐにブローチに気付いた。


「おねえたま、うたぎたん! かわいー!」

「アルベルトお兄様にいただいたのです」

「わたちもうたぎたん、ほちい!」

「ミカにはまだ危ないかもしれません」


 ミカはまだ急に走ったり、転んだりするので、針のついているブローチは危ないかもしれない。そう言われて、ミカは唇を尖らせて拗ねていた。


 夕食の席で、お父様とお母様とラファエルお兄様とご一緒することになって、夕食後に家族で寛いでいると、ミカがお父様の膝の上に座った。それ自体はいつものことなので気にしていなかったが、ミカはお父様の膝の上に座って、お父様の頬にキスをしたのだ。


「おとうたま、わたち、うたぎたん、ほちーの」

「ウサギさん? ウサギのぬいぐるみか?」

「おねえたまがつけてる、うたぎたん!」


 そこで初めてお父様はわたくしが胸にブローチをつけていることに気付いたようだ。

 少し考えて、ミカに提案する。


「同じウサギは手に入らないかもしれないな」

「うたぎたん、ないの!?」

「それにセラフィナと全く同じものを持っているというのもおかしいかもしれない」

「ほちーの!」

「そしたら、狼のブローチはどうかな? エリカそっくりの」


 狼と聞いてミカの金色の目がきらりと光る。


「エリカのブローチ?」

「そうだよ。エリカそっくりのブローチを注文しよう」

「おとうたま、だいすち!」


 もう一度頬にキスされて、お父様はメロメロになっている様子だった。


「ヘリオドール様は子どもに甘いのですから」

「ミカエルがかわいすぎるのだから仕方がない」

「すっかりミカエルもおねだりの仕方を覚えてしまいましたよ」


 呆れるお母様に、お父様は反省した様子も全くなかった。

 何もないのにプレゼントするのはミカの教育にもよくないということで、狼のブローチはミカの誕生日までは渡さないという話でまとまった。


 ミカは誕生日を心待ちにしていた。


 ミカの誕生日にはベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様とアルベルト様、アルマンドール公爵家の夫妻とアンリエットお義姉様とニコ様とリヴィア嬢、ルクレール公爵家のユリウス様とルカ様と伯父様と伯母様、ロズベルク侯爵家の夫妻とレティシア嬢とセリーヌ嬢が来てくださった。

 お誕生日お祝いに狼のブローチをもらったミカは、しっかりと自分の胸に付けて参加した。

 胸を張ってみせるたびに、「狼ですか?」「素敵なブローチですね」といってもらえてミカは満足している様子だった。


「セラフィナ殿下にお会いしたらお伝えしなければいけないことがあったのです」

「なんですか?」


 アンリエットお義姉様に呼び止められて、わたくしは席につく前に足を止める。

 アンリアっとお義姉様は嬉しそうに微笑んで教えてくれた。


「帝国劇場で開催されている歌劇団のチケットが取れました。ボックス席です。わたくしとリヴィアとラファエル殿下とセラフィナ殿下とアルベルト様でひと席、ユリウス様とレティシア嬢とセリーヌ嬢とルカ様でひと席で見るのはどうでしょう?」

「歌劇団のチケット! わたくし、行きたいです!」

「皇帝陛下と皇后陛下には許可をいただいております」

「ありがとうございます、アンリエットお義姉様!」


 ボックス席が広いとはいっても、全員では座れないようだ。

 わたくしとアルベルト様とラファエルお兄様とアンリエットお義姉様とリヴィア嬢でひと席、ユリウス様とレティシア嬢とセリーヌ嬢とルカ様でひと席と、分かれて座ることになりそうだが、わたくしはアルベルト様とリヴィア嬢とご一緒できるのが嬉しいし、セリーヌ嬢は姉のレティシア嬢がいるから安心だろう。

 問題はルカ様なのだが、ルカ様は歌劇団の舞台に興味があっただろうか。


「わたしは、歌劇団には行かなくていいです」

「せっかく誘っていただいているのに」

「わたしは、よく分からないので」


 困った顔になっているルカ様に無理強いはできないと考えていると、元気よくミカが手を上げた。


「わたち、いきたいでつ!」

「ミカが!?」

「ミカエル殿下が、ですか?」


 わたくしもユリウス様も驚いていると、ルカ様がミカに声をかけている。


「わたしの代わりにミカエル殿下が行けばいいですよ」

「でも、席が微妙になりますわ。わたくしたちの席に入れると狭くなるし、ユリウス様たちの席に行くと、セラフィナ殿下もラファエル殿下もいません。ミカエル殿下お一人では不安かもしれません」


 ミカの要望を受けて、わたくしたちは席を入れ替えることにした。


「わたくしとアルベルト様とリヴィア嬢とセリーヌ嬢とミカでひと席、お兄様とアンリエットお義姉様とユリウス様とレティシア嬢でひと席で座るのはどうでしょう?」

「そちらの席にアルベルト様以外の大人がいなくて困るのではないですか?」

「わたしは平気ですよ。セラフィナ殿下は賢いし、リヴィア嬢もセリーヌ嬢も大人しいレディです。ミカエル殿下とも交友があります」

「頼めるか、アルベルト」

「任せてください」


 アルベルト様が請け負ってくださったので、わたくしたちはアルベルト様と学友であるセリーヌ嬢とリヴィア嬢、それにミカと一緒に歌劇団の舞台を見に行くことになった。

読んでいただきありがとうございました。

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