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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
四章 セラフィナと音楽

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4.アルベルト、十七歳

 ラファエルお兄様のお誕生日の一週間後にはアルベルト様のお誕生日がある。

 わたくしはアルベルト様の婚約者なので、お茶会の主催であるアルベルト様のお手伝いをしたかったのだが、それはアルベルト様に止められてしまった。


「セラフィナはまだ社交界の教育を受けていないからね」

「社交界の教育ですか?」

「どんな方をお茶会にお招きして、どのような席順にするか、貴族の序列が頭に入っていないと難しいだろう?」

「わたくしは、貴族の全員を把握しているわけではありません。アルベルトお兄様は把握できているのですか?」

「貴族の末端まで把握できているわけではないけれど、ある程度、どの貴族がどのような仕事をしていて、どのような評判が立っているのかは確認しているよ」


 お茶会一つにしても貴族社会をよく知らなければいけないのだとわたくしは学んだ。


「それに、お茶会や夜会の招待状は手書きをするのがマナーだからね」

「全部アルベルトお兄様が書くのですか!?」

「わたしだけでは間に合わないときには手伝ってもらうことはあるけれど、サインは必ず自分でしているよ」


 お茶会、侮れない!

 お茶会の招待状は原則自分で書かなければいけないし、招待する相手も厳選しなければいけない。

 わたくしは六歳の誕生日のお茶会は全部お父様とお母様に任せていたが、今後はそれでは行けなくなるのだろうと覚悟しなければいけなかった。


 アルベルト様のお誕生日のお茶会の準備はアルベルト様がほとんどされたが、いくつかアルベルト様はわたくしに相談してくださった。


「苺のムースとババロア、どっちを出そうか?」

「どっちも美味しいです」

「おいちい! おかわり!」

「タルトは苺とカスタードのものと、苺とヨーグルトクリームのものとどっちがいいと思う?」

「どちらも捨てがたいです」

「おいちい! おかわり!」


 真剣に悩むわたくしに、一緒に試食していたミカは試食の分を全部食べ終えてお代わりを要求していた。

 結局、苺のムースと、タルトは苺とカスタードが乗ったものが出されることになった。

 試食して選ぶだけだったが、少しでもアルベルト様のお力になれたのならばわたくしは嬉しかった。


 アルベルト様もお誕生日で十七歳。

 前世のわたくしが初めて出会った七歳の年から十年も経って、背は高く、体付きもがっしりとして来て大人の男性の雰囲気が出ている。

 小さくて細くて華奢で声変わりもしていなくて、美少女のようだったアルベルト様。最初に出会ったときとは全く違う姿になっている。


 メイドのクラリッサとしてわたくしはアルベルト様の成長を見守っていきたかった気持ちももちろんあったが、皇女セラフィナとしてアルベルト様の成長を見られることは純粋に嬉しかった。


 アルベルト様のお誕生日の前に、わたくしは薄茶色のリボンで作ったリボン造花のコサージュを差し上げた。プレゼントするとアルベルト様はとても喜んでくれた。


「セラフィナが作ってくれたの? とてもかわいいリボンの薔薇だね」

「わたくしが作って、お母様が手伝ってくださいました」

「誕生日にはこれをつけるよ」

「わたくしの作ったリボン造花でいいのですか?」

「婚約者の作ってくれたものをつけられるのは嬉しいよ」


 約束通り、アルベルト様はお誕生日のお茶会でわたくしの作ったリボン造花のコサージュをつけてくださった。わたくしもお母様に手伝ってもらって作った薄茶色のリボンの薔薇を胸に付けていたので、お揃いだった。


 ベルンハルト公爵家にわたくしが行けば、アルベルト様はすぐに駆け寄ってわたくしを席までエスコートしてくださった。

 ベルンハルト公爵家のお茶会は、お父様とお母様は出席できなかったが、わたくしとラファエルお兄様は出席した。

 席はわたくしとアルベルト様が隣で、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が正面に座った。ベルンヘルと公爵家の叔父様と叔母様は一番奥の席に座っていた。


「本日はわたしのお誕生日のお茶会に出席してくださってありがとうございます。わたしも今日で十七歳になりました。来年にはわたしも成人の年となり、学園卒業の年ともなります。学園卒業後はアカデミーに進学して、より一層精進していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 爽やかにアルベルト様が挨拶をすれば、出席していた貴族たちが拍手を送っている。

 ティーカップに紅茶が注がれて、テーブルの上のお茶菓子をそれぞれに取り分けて食べながら貴族たちが話しているのが聞こえる。


「暗殺未遂事件から七年、アルベルト様も無事に立派に成長されましたね」

「暗殺首謀者のセルフィナ伯爵家も断罪されて安心されたことでしょう」

「セラフィナ殿下とも婚約して、ベルンハルト公爵家もこれで安泰ですね」


 暗殺未遂事件。

 それはクラリッサが死んだ事件でもあった。

 あれからもう七年も経つのだとわたくしは複雑な気分になる。

 あの事件がなければわたくしはセラフィナとして生まれ変わらなかったし、アルベルト様の婚約者にもならなかっただろう。

 前世のクラリッサをアルベルト様は好きだったというようなことを仰ることがあるが、クラリッサとアルベルト様にはあまりにも身分の差がありすぎた。アルベルト様が望んでもクラリッサとの婚約や結婚は叶わなかっただろう。

 それを考えると、わたくしは皇女として生まれ変わってよかったと思うところなのだろうか。


 クラリッサとしてアルベルト様の成長を見守りたかった気持ちはあるが、それは果たせなかったので仕方がない。


 紅茶に牛乳をたっぷり入れて飲んでいると、アルベルト様がわたくしの方を見ていた。どこか寂しそうな顔をしているのは、暗殺未遂事件の話を耳にしたからだろうか。


「アルベルトお兄様、わたくしはアルベルトお兄様のおそばにずっといます」

「セラフィナ……」

「わたくしは……」


 クラリッサのようには死なない。

 そう告げようとして、これは言ってはいけないことだとわたくしは口を閉じた。

 クラリッサはアルベルト様を庇って死んでいったが、わたくしはたくさんの護衛に守られていて、狙われても殺される可能性は低いだろう。そうでなくても、わたくしは死にたいとは思わない。

 もう一度死んだとして、また生まれ変われる保証などどこにもないのだ。


「セラフィナの七歳の誕生日にはポニーを贈ろうか?」

「ポニーですか?」

「セラフィナも乗馬を習ってもいい年頃じゃないかな」


 明るく言ったアルベルト様に、わたくしはポニーについて考えてみる。ポニーは小柄な馬のことをさす。わたくしのような体の小さな子どもが最初に乗馬の練習をするのがポニーなのだろう。


「わたくし、アルベルト様のようになれますか?」


 学園の体育祭で見たアルベルト様の乗馬は見事だった。

 それを思い出して言えば、アルベルト様が頷く。


「わたしよりも上手になるかもしれないよ」

「本当ですか?」


 わたくしとアルベルト様が話していると、ティーカップを置いてラファエルお兄様がこちらを見て来た。


「宮殿には厩舎も馬を走らせるコースもある。セラフィナが乗馬を始めたいというのならば、すぐにでも乗れるようにできるよ」

「わたくし、乗馬をしてみたいです。学園に入学したら、体育祭の競技は乗馬にしたいです」


 アルベルト様のように体育祭でわたくしも活躍したい。

 乗馬をしたいという思いは強くわたくしの心に生まれていた。


 アルベルト様のお誕生日のお茶会が終わって数日後の週末に、ミカのためにラファエルお兄様とアルベルト様の合同のお誕生日が宮殿で私的に行われた。

 出席しているのはベルンハルト公爵家のアルベルト様と叔父様と叔母様、アルマンドール公爵家の公爵夫妻とアンリエットお義姉様とニコ様とリヴィア嬢、ルクレール公爵家の伯父様と伯母様とユリウス様とルカ様、それにロズベルク侯爵家の侯爵夫妻とレティシア嬢とセリーヌ嬢だった。ロズベルク侯爵家には嫡男でレティシア嬢のお兄様もおられるようだが、今は留学中で不在だった。


 わたくしはラファエルお兄様に赤と金のリボンで作ったリボン造花のコサージュを渡した。


「これは、わたしに?」

「はい、お兄様にお誕生日お祝いにお母様と作りました」

「嬉しいな、今すぐ胸に飾ろう」

「今すぐですか!?」


 いそいそと箱から取り出してラファエルお兄様が胸にコサージュをつけるのを、アンリエットお義姉様が微笑ましそうに見ている。ラファエルお兄様が胸にコサージュをつけると、胸にリボン造花をつけていたミカが金色の目を大きく見開いた。


「これ、わたちとおなじ!」

「お揃いだね、ミカエル」

「おにいたまとおなじ! わたち、おたんじょうび?」

「ミカエルのお誕生日はもう少し後だよ」

「ちがった!」


 胸に同じ造花をつけているので、自分もお誕生日かと勘違いするミカがかわいくて、ラファエルお兄様もわたくしも笑ってしまった。

 和やかにラファエルお兄様とアルベルト様のお誕生日は祝われた。


読んでいただきありがとうございました。

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