30.セラフィナの学友
冬休みが終わるのがわたくしは少し寂しかった。
冬休みの間はラファエルお兄様が毎日宮殿の皇帝一家の住まう棟にいてくださったし、アルベルト様の訪問も盛んだった。それが終わってしまう。
六歳になったわたくしにとって、宮殿の皇帝一家の住まう棟だけでは刺激が足りないと感じるようになってしまったのだ。
前世で生きた年月は十五年。それに今世で生きた年月を足すと二十一年になる。
セラフィナとして生きた年月は、体が幼かったのでそちらに引っ張られて、どうしても言動が幼くなってしまっていたことがあったが、六歳にもなると体もかなり活発に動かせるし、体力もついてくる。
子ども部屋についている庭だけでは物足りなくなってしまうし、もっと色んなひとたちと話したいと思うようになっていた。
そんなわたくしに気付いていたのか、お母様がわたくしに提案してくれた。
「そろそろ、セラフィナの学友を選んでもいいころですね」
ラファエルお兄様にはアルベルト様とユリウス様という学友がいる。学園に入学する前には、一年間、宮殿に通って来てラファエルお兄様と一緒に勉強していたのをわたくしは覚えている。
わたくしにも学友ができる。
それは大きな変化だった。
皇族の学友となると、長じれば側近になったり、親子で交流するようになったりする仲になるものだ。
わたくしは女性なので、学友に選ばれるのは女性だと分かっていた。
「一人は決まっているのです」
「誰ですか?」
「アルマンドール公爵家のリヴィア嬢です。セラフィナはリヴィア嬢と仲がいいので、彼女が最適だと思います」
「わたくしも、リヴィア嬢が学友だと嬉しいです」
「もう一人は悩んでいたのですが、ロズベルク侯爵家のご令嬢はどうでしょう?」
「ロズベルク侯爵家……ユリウス様の婚約者のレティシア様の生家ですね」
ロズベルク侯爵家と言われて、わたくしはすぐにユリウス様の婚約者のレティシア嬢が浮かんだ。ロズベルク侯爵家に、わたくしと同じ年の令嬢がいたのだろうか。
ロズベルク侯爵家に関して、わたくしは詳しくなかった。
「ロズベルク侯爵家の次女のセリーヌ嬢がセラフィナと同じ年ですよ」
「セリーヌ嬢……」
どんな女性かは分からないが会ってみたい気はする。
「顔合わせの日程を調整しましょう」
「お願いします」
わたくしの学友はリヴィア嬢とセリーヌ嬢に決まりそうだった。
顔合わせの日、ティールームでわたくしたちは会った。リヴィア嬢はわたくしもよく知っているので久しぶりに会った気がするが、セリーヌ嬢とは初対面だった。
レティシア嬢はダークブラウンの髪にダークブラウンの目だったが、セリーヌ嬢も同じ色彩の持ち主だった。
セリーヌ嬢がわたくしに挨拶をしてくれる。
「セリーヌ・ロズベルクです。よろしくお願いします」
「セラフィナ・アストリアノスです」
「セラフィナ殿下の学友に選ばれて嬉しいです」
「わたくしもセリーヌ嬢とお会いできて嬉しいです」
挨拶をしてから椅子に座ると、セリーヌ嬢がわたくしに話しかけてくる。
「セラフィナ殿下は最近ピアノを始められたと聞きました」
「セリーヌ嬢はもっと小さなころから弾いているのですか?」
「我が家は音楽教育に力を入れていて、二歳のときからピアノを始めました」
「それでは、大先輩ですね。難しい曲も弾けるのではないですか?」
「それなりに弾けると思います。セラフィナ殿下、よろしければ連弾しませんか?」
「れんだん?」
「はい、ピアノ一台を二人で弾くのです」
学友とは連弾をすることができるのか。
それは面白そうだと思っていると、リヴィア嬢が話に入ってくる。
「わたくし、バイオリンを習っております。お二人の連弾に合わせて弾きましょうか?」
「いいですね! 三人で演奏してみたいです」
わたくしはピアノ初心者だが二歳からピアノを弾いているセリーヌ嬢が導いてくれるのならば、連弾もできそうだ。それにリヴィア嬢のバイオリンの演奏も加わるとなると、さらに楽しくなりそうだ。
「せっかく演奏するのならば、どこかで発表したいですね」
わたくしが言えば、リヴィア嬢が手を上げて発言する。
「もうすぐわたくしの誕生日のお茶会があります。そこで披露しませんか?」
「いいですね!」
「素晴らしいと思います」
セリーヌ嬢も賛成してくれて、わたくしとセリーヌ嬢とリヴィア嬢は練習の約束をしてお茶の時間を終わった。
翌日から、セリーヌ嬢とリヴィア嬢が宮殿を訪ねて来てくれて、音楽室でオトテール先生の指導のもと、合奏の練習が始まった。
最初はわたくし、セリーヌ嬢、リヴィア嬢と別れて練習して、最終的に合わせて弾いてみる。
連弾には難しい方のパートと、簡単な方のパートがあって、セリーヌ嬢が難しい方のパートを担当して、わたくしが簡単な方のパートを担当した。ピアノを習い始めてすぐだったが、簡単な方のパートは練習をしていたら何とか弾けるようになった。
集中して練習して、疲れたところで練習が終わりになり、お茶の時間になった。
「皆様、とても上手でした。今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」
「オトテール先生、今後もよろしくお願いします」
「明日も頑張ります」
それから毎日リヴィア嬢とセリーヌ嬢が宮殿にやってきて、ピアノとバイオリンの演奏をしていたので、わたくしは楽しく過ごせていた。
練習の後のお茶の時間もわたくしのお気に入りだった。
リヴィア嬢はお洒落で、今の流行のドレスや髪飾りについて教えてくれた。セリーヌ嬢は音楽を中心に教養が深く、色んな曲や音楽の歴史を教えてくれた。
「今の流行りは、サテンのリボンですよ。髪に飾るなら、造花よりもリボンです」
「今日演奏した曲は、今一番人気の作曲家が作曲したものです。最新の曲なのですよ」
お茶をしながら二人の話を聞いているのは楽しい。
わたくしとリヴィア嬢とセリーヌ嬢がお茶をしていると、ミカも仲間に入りたそうにしているので、ミカも一緒にお茶をするようになった。
ミカはセリーヌ嬢を見て立ち尽くしていた。
「あなたのうつくちたは、たいてつにそだてられたくろばらのよう。そのあまいかおりで、わたちをゆうわくつるのでつ」
「ミカ!?」
「ミカエル殿下、それはなんですか?」
「不思議な響きですね」
「ちでつ! セリーヌじょうをみていると、むねからちがわきでてくるのでつ!」
ミカの口からこぼれ出た詩に、わたくしは頭が痛くなってしまう。
やめてほしい。
ミカにこんな詩を吹き込んだストラレイン王国が本当に憎かった。
「リヴィア嬢、セリーヌ嬢、ミカの言ったことは気にしないでください」
「血とおっしゃいましたか?」
「血、ですか?」
「ちがいまつ! ち、でつ!」
「血?」
上手に「詩」と発音できないので、それが「詩」だと認識されることはなかった。
冬の終わりのリヴィア嬢のお誕生日のお茶会で、わたくしとセリーヌ嬢とリヴィア嬢はピアノとバイオリンの演奏を披露した。
お父様とお母様は残念ながら忙しくて参加できなかったが、ラファエルお兄様からも、アルベルト様からも、アンリエットお義姉様からも、ニコ様からも、ユリウス様からも、ルカ様からも、惜しみない拍手と賛辞が送られた。
「とても素晴らしかったよ! セラフィナ、兄として誇らしいよ」
「セラフィナ、リヴィア嬢、セリーヌ嬢、とても上手でしたね」
「リヴィア、なんて素晴らしかったこと! セラフィナ殿下もセリーヌ嬢も素晴らしかったです」
「お誕生日にこんな素敵な演奏ができてよかったね、リヴィア」
「素晴らしい演奏でした、セラフィナ殿下、リヴィア嬢、セリーヌ嬢」
「すごかったです!」
わたくしたちは、それを誇らしく受け止めていた。
演奏が終わると、わたくしの前にレティシア嬢が歩み出た。
「セラフィナ殿下、素晴らしい演奏でしたね。セラフィナ殿下の学友となってから、セリーヌは毎日セラフィナ殿下とリヴィア嬢のことを話しています。お二人と仲よくなれて本当に嬉しいようです」
「わたくしもセリーヌ嬢と仲良くなれて嬉しいです」
「これからもセリーヌのこと、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
微笑むレティシア嬢はセリーヌ嬢とよく似ていた。
わたくしは学友を得て、これからできることがもっと広がるのではないかと期待していた。
これで三章は完結です。
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