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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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29.ギマール先生とオトテール先生

 ミカの家庭教師の先生は、薄茶色の目に薄茶色の髪の若い女性だった。年齢は二十代前半くらいだろう。

 初めての授業の日は、わたくしもラファエルお兄様もお父様とお母様にお願いして同席させてもらった。


「ミカエル殿下、ドリアーヌ・ギマールと申します。ギマールとお呼びください」

「ギマールてんてー?」

「はい、どうぞよろしくお願いします」


 ギマール先生はミカに教えるために教材やハープを持ち込んでいた。

 まずは文字を教えるための絵本のような教材をミカに渡す。ミカはページを開けて読んでいた。


「こえ、あり」

「そうです。それが蟻の『あ』です」

「あ!」

「はい、『あ』です」


 「あ」から始まって、「い」「う」「え」「お」と犬、牛、鉛筆、鬼などの絵が描かれた本のページをミカが捲っていく。


「こえは?」

「貝の『か』ですね」

「か!」


 楽しそうに声に出してミカは読み上げていた。

 文字を読む練習が終わると、ギマール先生は手持ちの小さなハープを取り出してミカのために曲を弾く。


「曲が鳴っているときには、歩いてください。曲が止まったら、しゃがんで止まってください」

「あい!」


 ハープの音を聞きながら音に合わせて子ども部屋を歩くミカ。曲が止まると、はっとしてその場にしゃがみ込む。


「とても上手ですよ、ミカエル殿下」

「わたち、じょーじゅ!」

「もう一度やりましょうか」

「あい!」


 ギマール先生の授業はとても易しく、ミカは楽しんで授業を受けられているようだった。


「今日の授業はこれでお終いです。ありがとうございました、ミカエル殿下」

「ありがとうごじゃまちた、ギマールてんてー」

「ご挨拶まで上手にできましたね。素晴らしいです」

「わたち、すばらちい!」


 ミカはまだ小さいので、文字の練習が三十分、音楽を聞いて遊ぶ授業が十分くらいで終わった。ギマール先生が挨拶をして帰って行くと、ミカはさっそくもらった教材の本を見ながら、絵本を読んでいた。


「こえが、『あ』で、こえが『か』……にぃに、ねぇね、こえ『あか』ってかいてある!」

「そうですよ、そこには赤と書いてあります」

「『赤いリンゴ』だね。ミカエル、上手に読めているよ」


 習ったことを早速復習しているミカに、わたくしもラファエルお兄様も、ミカはいい先生に出会ったのではないかと思っていた。

 お茶の時間にはお父様とお母様がご一緒して、わたくしとラファエルお兄様にミカの先生について聞いてきた。


「ミカエルの先生はどうだった?」

「ギマール男爵夫人でしたが、ミカエルに合っているようでしたか?」

「ミカはとても楽しそうでした」

「先生が帰った後で、ミカエルは教材を見て自分で本を読んでいました」


 ミカの先生がよい方だと分かったようでお父様もお母様も安心していた。


「ミカエル、先生の授業は楽しかったかな?」

「あい! わたち、じがよめるようになったの」

「先生は遊んでくれましたか?」

「あい! ハープをひいて、おとがとまったら、わたち、とまるの。たのちかった!」


 文字を読む練習と、ハープを使っての音楽に乗せた遊びはミカの心に響いたようだった。これからもギマール先生がミカが楽しんで学べるようにしてくれればいいとわたくしは思っていた。


 バロワン先生とわたくしとの授業には、新聞を読むことも入ってきていた。

 新聞に載っていた記事に、わたくしの目は釘付けになる。


『セルフィナ伯爵家とルナール男爵家の繋がりが明らかになる。ルナール男爵家の手配した暗殺者に襲われたベルンハルト公爵家の馬車。ルナール男爵はセルフィナ伯爵家に命じられて暗殺者を手配したと供述していたが、ついにセルフィナ伯爵家からルナール男爵家との繋がりが発見される。その証拠を元に、セルフィナ伯爵家は断罪されて、当主は北の収容所で強制労働、子どもたちは平民に落とされ、セルフィナ伯爵家はお取り潰しとなることが決まった』


 アルベルト様暗殺未遂事件の決着がついについたのだ。

 調べるのに六年もかかってしまっているが、それも仕方がないだろう。貴族社会の闇の中で有耶無耶にされてきた事実が、白日の下に晒された。

 わたくしはバロワン先生に問いかける。


「北の収容所とはどのようなところですか?」

「一年の半分以上を雪に閉ざされた場所です。とても厳しい環境で、罪人たちが鉱山に閉じ込められて、強制労働をさせられています」

「鉱山……北には鉱山があるのですか?」

「はい。この国で必要とされる鉄鉱石はほとんどがその鉱山から掘り出されています。環境は厳しいですが、北の領地は鉱山のおかげで豊かなのです」


 北に鉱山があったなんてわたくしは知らなかった。

 強制労働をさせられるセルフィナ伯爵家の当主は当然の罰を受けるのだろうが、鉱山では労働者が増えてありがたいのかもしれない。


「他に、そのような強制労働をさせる場所がありますか?」

「南に、岩塩が取れる山があります。非常に山が険しい上に、暑さが厳しいので、労働者がなかなかおらず、犯罪を犯した者の強制労働所となっています」


 南には岩塩が取れる山があるのか。

 それもわたくしは知らなかった。


「岩塩……塩ですよね。塩は生活に欠かせません。その地域で、この国の何割くらいの塩を賄っているのでしょう?」

「その地域でこの国の六割の塩を賄っている計算になりますね」


 北の鉄鉱石の鉱山も大事だが、南の岩塩の取れる山も大事だ。

 わたくしはしっかりと頭に刻み込んだ。

 地理の勉強もしつつ、わたくしはその日の授業を終えた。

 授業が終わって帰り支度をしているバロワン先生に、わたくしは聞いてみる。


「ギマール男爵夫人をご存じですか?」

「はい、存じ上げております。どうかなさいましたか?」

「ギマール男爵夫人が、弟のミカエルの家庭教師になったのです。ハープを使った珍しい遊びをしてくれて、ミカエルは楽しんでいました」


 わたくしの言葉を聞いて、バロワン先生はギマール先生について教えてくれた。


「ギマール男爵夫人は、音楽がとても得意なので有名なのですよ。ハープもお上手ですが、ピアノもバイオリンもとてもお上手だと聞いています。ミカエル殿下の情操教育には最適な人材でしょう」

「ピアノも、バイオリンも!」

「この棟の中にも、ピアノが設置された音楽室があります。セラフィナ殿下もそろそろピアノの指南を受けてもいいころですね」


 貴族や皇族の子息令嬢には、音楽教育も行われるのだ。

 わたくしはまだ始めていなかったが、ピアノやバイオリンを弾くようになるとは聞いていた。

 確か、ラファエルお兄様もピアノが弾けたのではないだろうか。


「わたくし、ピアノを弾いてみたいです」

「皇帝陛下にお伝えして、ピアノの教師を手配してもらうようにしましょう」

「バロワン先生ではいけないのですか?」

「わたくしは教えられるほどピアノを弾けるわけではありませんので」


 バロワン先生は万能のような気がしていたが、音楽は教えられないようだ。

 わたくしはお父様とお母様にピアノの先生を手配してもらうことになりそうだった。


 わたくしのピアノの先生は、ラファエルお兄様にピアノを教えていた先生が担当してくれることになった。


「ドミニク・オトテールと申します。ラファエル殿下にもピアノを教えさせていただいておりました」

「セラフィナ・アストリアノスです。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ピアノの椅子の高さを変えるところから、オトテール先生は教えてくれた。椅子の後ろのつまみを握って、わたくしの身長に合うようにピアノの椅子を高くする。オトテール先生は自分の椅子を高さ調節していた。


「ピアノは簡単な楽器なのですよ。押せば音が出ます」

「弾くのは難しくないですか?」

「練習していけばできるようになります」


 最初は簡単な運指法から教えてもらう。

 わたくしの手は小さくて力が弱いのでなかなか音が出せないが、オトテール先生は根気強く教えてくれた。


「毎日三十分練習をするようにしてください」

「はい」

「それで慣れてきたら、一時間に増やしましょう」


 ピアノの練習は前世ではしたことがなかったので、一から始めることになる。

 わたくしはピアノが上達する日を夢見ていた。


読んでいただきありがとうございました。

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