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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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28.ミカエルのおねだり

 ルカ様の家庭教師は子爵家の出身で、ユリウス様の家庭教師だった人物をものすごくライバル視していて、自分もユリウス様のような優秀な人物を育てなければいけないと焦っていたらしい。それでルカ様につらく当たっていたのだ。

 理由は何であれ、公爵家子息のルカ様にそんな態度を取るのは許されないから、クビになって、新しい家庭教師が選ばれたと聞いた。


 新年のパーティーから一週間後、ユリウス様とルカ様が宮殿にやってきていた。ちょうどアルベルト様も来ていたので、ラファエルお兄様とミカとわたくしと一緒にお茶をする。


「母からルカの家庭教師の件を聞きました。セラフィナ殿下はルカの話を聞いてくれて、家庭教師にルカがされたことを母に伝えるように助言してくれたのですね」

「わたくし、ルカ様が教育を拒んでいると聞いて、どうしてだろうと思っていたのです。ルカ様には理由があったのです」

「その理由をルカに聞いてくれて、母に訴えるように伝えてくださってありがとうございました。ルカはずっと我慢していたのですね。わたしは兄なのに何も気づかなかった。ルカには申し訳なく思っています」

「兄上のせいではないです。あの家庭教師が悪かったのです。でも、わたしにとっては初めての家庭教師だったし、家庭教師はみんなそんなものかと思っていました。セラフィナ殿下が教えてくれて、そうじゃないって分かったんです」


 わたくしが助言したことは無駄ではなかったようだ。

 ルカ様は洗濯したハンカチと、新しい刺繍入りのハンカチをわたくしに差し出した。


「これ、ありがとうございました。後、お、お礼です」

「かわいいハンカチですね、ありがとうございます」


 新しくもらったハンカチにはウサギとタンポポが刺繍されていた。

 大事に受け取って、マティルダさんに渡すと、マティルダさんが部屋に持って行ってくれる。


「ルカが勉強を嫌がるのは、勉強が嫌いだからだと思っていた。ルカの気持ちも知らないでわたしはルカを追い詰めていたのだね」

「兄上……」

「ルカはわたしの大事な弟だよ。今後こんなことがあればいつでも教えてほしい。兄として相談してほしいよ」


 ルカ様とユリウス様の関係も良好になってきている様子だった。

 わたくしが大満足で話を聞いていると、ミカがぽてぽてと歩いてきて話を聞いていたラファエルお兄様の膝の上に乗った。ラファエルお兄様はいつものことなので普通に膝の上に乗せていたら、ミカがラファエルお兄様の頬にキスをする。


「にぃに、わたち、あれ、たべたいの」

「み、ミカエル!?」

「ちゃいろくて、みんながたべてる、あれ」


 ミカにはまだチョコレートは解禁されていない。わたくしたちはミカの前ではチョコレートは食べないようにしているのだが、ミカは気付いていたようだ。


「ど、どうしよう、ユリウス、アルベルト。わたしはミカエルに誘惑されている!?」

「にぃにぃ」

「ミカエル、あれは大人の食べ物だから、もう少し待とうね」

「ねぇねはたべてうの」

「えーっと、セラフィナはもう大きいから」

「わたちもねぇねとおなじくらいおおきい!」


 身長ではわたくしと変わらなくなったミカが必死に言っているが、ラファエルお兄様はアルベルト様とユリウス様とわたくしに視線で助けを求めている。ラファエルお兄様はミカがかわいいので、無碍にできないのだ。


「ミカ、あれはとても甘いのです」

「あまい! おいちい!」

「虫歯になってしまうかもしれません」

「むちば?」

「虫歯菌が歯を溶かして、とても痛いのです!」


 わたくしが説明すると、想像したのかミカが青くなって自分のふくふくの頬っぺたを押さえている。震えるミカに、わたくしは続けて言う。


「歯磨きがしっかりできる年齢にならないとチョコレートは食べられないのです」

「わたち、はみがきじょーじゅ!」

「いいえ、字がしっかりかけるくらい手首が安定しないと歯磨きが真に上達したとはいえません」


 毅然としてわたくしが対応していると、ミカも納得してくれたようだ。ふくふくのあどけない頬を押さえて、必死に考えている。


「わたち、はみがきれんしゅうつる」

「はい、ミカ、頑張りましょう」


 これでミカがチョコレートを食べたがるのは落ち着いたようだ。

 今日のお茶菓子はアイスクリームだった。儚く溶けるアイスクリームは、雪のある季節しか作れない。皇族は氷室に冬の間に氷を切り出してしまっておいて、夏に使うこともあるのだと知っているが、そんな贅沢は子どもにはできない。

 冷たく喉を通り過ぎるアイスクリームを食べて、焼きたてのアップルパイも食べて、ミルクティーを飲んでいると、席に戻ったミカも大人しく食べていた。

 チョコレートだけが害悪というわけではないが、あまり小さい子には与えないのがこの国の風習だ。味覚が形成されていない時期にチョコレートの濃い味に慣れてしまうと、問題があるし、消化器官が未発達な時期に食べると腹痛の危険もある。

 ミカにはもう少し待ってもらおうとわたくしたちは思っていた。


「わたち、よっちゅになったら、あれ、たべう」

「四歳になったらいいかもしれませんね」

「ねぇね、わたち、おべんきょうちたい」


 チョコレートの話から急に話題が変わってしまって驚いたが、ミカの言葉にわたくしたちは耳を傾ける。

 ミカは真剣に話をする。


「わたち、じがよめるようになりたい。じがかけるようになりたい」


 ラファエルお兄様は三歳になる前から字が読めたと聞いている。わたくしも二歳から字が読めたことになっている。ミカもそういう年頃になったのだろう。


「読みたい本があるのですか?」

「ち!」

「詩!?」


 それはやめてほしいと思うが、ミカが学習に意欲的になったのは嬉しいことだ。


「わたくしが時々、字を教えてあげましょうか?」

「ねぇね、いーの?」

「わたしも教えてあげるよ」

「にぃに!」


 わたくしとラファエルお兄様が申し出れば、ミカは両手を上げて喜んでいた。

 わたくしとは事情が違うので、ミカは幼いときから家庭教師をつけられることはないだろう。家庭教師をつけるとすれば、五歳くらいからではないのだろうか。

 わたくしはそう思っていたが、お父様とお母様の見解は違ったようだった。

 夕食のときにミカが「じをよめるようになりたい。かけるようになりたい」と言えば、お父様とお母様は話し合っていたようだった。

 話し合いが終わって、お父様とお母様がミカに向き直る。


「ミカエルにも、家庭教師をつけようかと思う」

「父上、早すぎませんか?」

「難しいことを教えるのではないのです。文字の読み書きと簡単な踊りの基礎を教える家庭教師です」


 ラファエルお兄様は驚いていたが、わたくしのときのバロワン先生のような本格的に勉強を教える家庭教師ではなくて、字の読み書きを教えたり、踊りの基礎を教えたりする先生のようだ。


「小さい子を預かる施設の先生もいるそうだ。遊びを中心として、運動や簡単な文字を教えてくれる」

「そういう方に来てもらった方が、ミカエルも日中楽しく過ごせるのではないかと思っていたのです」


 平民は出産後も働かなければいけない家庭が多かったので、上の子が下の子を負ぶって学校に来ていたり、下の子は専門の小さな子のための施設に預けられていたりすることをわたくしは前世で聞いていた。

 ベルンハルト公爵家に働きに来ている使用人の中には、小さな子どもを預けて働きに来ているものもいた。


 そういう小さな子どもと専門的に遊ぶ職業の教師ならば、ミカも日中楽しく過ごせるだろう。


 わたくしもバロワン先生の授業の時間が長くなっていて、なかなかミカと遊ぶ時間が取れないのは気になっていた。


「ミカ、先生が来るようですよ」

「てんてー!」

「優しい方だといいですね」


 ルカ様のときのような酷い先生に当たったら、わたくしは何としてでもミカを守ろうと思っていた。


読んでいただきありがとうございました。

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