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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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27.ルカの家庭教師

 新年のパーティーの席で、リヴィア嬢もルカ様も大人しく座っていたようだが、お茶会の時間になって、お母様とアルマンドール公爵家の公爵夫人とルクレール公爵家の伯母様が話しているのを聞いた。ルクレール公爵家はお母様の生家で、ルクレール公爵はお母様のお兄様なので、ルクレール公爵家の伯母様はお母様の義姉になる。


「最近リヴィアが変なことを覚えてしまって困っていますの」

「どんなことですか、アルマンドール公爵夫人」

「旦那様のお膝の上に抱っこされて、頬っぺたにキスしたらなんでも我が儘を叶えてもらえると思っているのです」

「それは大変ですね。わたくしもお膝の上に抱っこされたセラフィナやミカエルがおねだりをしたら、叶えてしまうかもしれません」


 お母様が扇で口元を隠していると、アルマンドール公爵夫人は悩まし気にため息をついた。


「新しいワンピースがほしいとか、エナメルの靴がほしいとか、有名店の焼き菓子を食べたいとか、かわいいおねだりなのですが、あまり甘やかしすぎるのもどうかと思うのです」

「そうですわね。躾というものが必要ですものね」

「ルカにはもっと厳しい躾けが必要ですが……」

「ルカ様もお困りですか?」

「あの子は六歳になるのに敬語もちゃんと使えないのですから」


 ため息交じりのアルマンドール公爵夫人に、ルクレール公爵家の伯母様も声をあげる。

 子どもを育てるのはそれぞれに悩みがあるようだ。

 お茶会会場を歩いていると、わたくしは隅の方で小さくなっているルカ様を見つけた。ルカ様にご挨拶しようとすると、ルカ様がわたくしを見つめて困ったような顔になっている。


「ルカ様、新年おめでとうございます」

「おめでとうございます」


 不承不承と言った様子で返事をしてくれるルカ様に、わたくしはなにか困っていることがあるのではないかと思っていた。

 ルカ様はルカ様なりに、教育を受けたくない理由があるのではないだろうか。


「ルカ様、家庭教師の先生とは仲良しですか?」

「おれ、あいつ嫌い……」


 小さく呟いたルカ様の喋り方がなっていなかったとしても、それを指摘する大人は今はいない。周囲に大人はいるのだが、誰もわたくしとルカ様が話していることに気付いていない。

 わたくしはどうしてルカ様が家庭教師の先生を嫌いというのか気になった。


「ルカ様はどうして家庭教師の先生が嫌いなのですか」

「優秀なセラフィナ殿下には分からないよ」

「分からないかどうかは、聞いてみないと判断できません。ルカ様とは長い付き合いです。ルカ様がお困りのことがあったら教えてください」


 わたくしが言ってからルカ様が話し出すまで待っていると、ルカ様はぽつぽつと話し出した。


「家庭教師は、兄上とおれを比べるんだ」

「どのように比べるんですか?」

「兄上は優秀だったのに、おれは全然ダメだって。それで、おれがルクレール公爵家の嫡男でなくてよかった、嫡男だったらルクレール公爵家は終わりだって言うんだ」

「それはひどい」


 ルカ様にも苦手なところがあるだろうし、できないこともあるだろうが、ルカ様はまだ六歳なのである。平民だったら学校に通い始める年齢だ。それを考えると、ルカ様が多少できないところがあっても、それをフォローしつつ教えていくのが家庭教師の役割であって、ルカ様の悪口を言うのが家庭教師の仕事ではない。


「わたくし、伯母様に言ってきます」

「信じてもらえないよ。おれが勉強が嫌だと思って反抗してるだけと言われるだけだ」

「ルカ様、まず、言葉遣いを直しましょう」

「言葉遣いを……」

「自分のことは『わたし』と言って、敬語で話すのです」

「それ、面倒くさくて」

「面倒くさくても、貴族社会では必要なことです。礼儀正しくマナーを守れることが、貴族社会でルカ様を助けるのです」


 わたくしが言えば、ルカ様は薄い色の目を瞬かせていた。


「礼儀正しく、マナーを守れば、おれ……じゃない、わたしの話も聞いてもらえるのですか?」

「そうです。ルカ様がマナーを守って真摯に訴えれば、伯母様も理解してくださると思います」


 ルカ様の手を引いて、わたくしはお母様とアルマンドール伯爵夫人とルクレール家の伯母様が話しているところまで歩いて行った。

 ルカ様は最初は躊躇っていたが、なんとかルクレール家の伯母様に話しかけられた。


「母上、わたしは、家庭教師に嫌なことをされているのです」

「ルカ、勉強は嫌なことではありませんよ。勉強が嫌だからと言って、そんな風に言うものではありません」


 最初は理解を示してくれないルクレール家の伯母様に、わたくしからも言葉を添える。


「伯母様、ルカ様の話を聞いてください。大事なことなのです」

「そうなのですか。ルカ、何があったか教えてください」

「家庭教師は、わたしに、『ユリウス様はもっと立派だった』『ルカ様は落ちこぼれだ』『ルカ様が嫡男だったらルクレール家は終わりだったかもしれない』と言うのです。その言葉を聞くたびに、わたしは勉強が嫌になって、家庭教師と顔を会わせるのも嫌になるのです」


 切々と訴えるルカ様に、ルクレール公爵家の伯母様が身を乗り出す。


「そんなひどいことを家庭教師が言っていたのですか?」

「はい、そうです」

「ルカが勉強を嫌がるとは思っていましたが、家庭教師に嫌がらせを受けていたとは知りませんでした。これは立派な嫌がらせです。ルカは態度はよくないかもしれないけれど、聡い子です。ユリウスと比べられて、嫌味を言われ続けただなんてなんてひどいのでしょう」

「母上……」

「気付かなかったわたくしを許してください。ルカの家庭教師はきちんと調べてから、別のひとを雇うようにします」

「本当ですか?」

「ルカもわたくしのかわいい息子。かわいい息子を貶して学習意欲を失わせるような相手は許せません。ルカ、よく言ってくれました。あなたのことはわたくしが守ります」


 ぎゅっとルカ様を抱き寄せるルクレール公爵家の伯母様に、ルカ様が涙ぐんでその胸に顔を埋めているのが分かった。

 これまでルカ様は無作法だし、マナーがなっていないと思っていたがそのような理由があったのだ。

 わたくしも家庭教師にラファエルお兄様と常に比べられて、「ラファエルお兄様より劣っている」「落ちこぼれだ」「セラフィナ殿下が次期皇帝でなくてよかった」など言われ続けたら、きっと勉強が嫌になっていただろう。


「ルカ殿に対してそのようなことを言う家庭教師だったのですね」

「ルカ様はそれに耐えて来られたのですね」


 お母様もアルマンドール公爵夫人も同情的な声になっている。ルカ様の目から涙が零れて、ルクレール公爵家の伯母様はルカ様を強く抱き締めていた。


 リヴィア嬢のおねだり癖もこまったものだが、ルカ様の家庭教師はそれとは比べ物にならないくらいの大問題だった。

 公爵家の子息にそのようなことをするのだ。公爵家の子息の家庭教師が貴族から選ばれるとしても、公爵家よりもずっと格下の相手だ。ルカ様を酷く扱っていいわけがない。

 泣いているルカ様にハンカチを差し出すと、ルカ様は「ありがとうございます……」と小さな声で言ってハンカチを受け取っていた。


 これからルカ様の家庭教師が変わり、教育方針が変われば、ルカ様は品行方正に育っていくのかもしれない。今のちょっと変わったルカ様も嫌いではなかったが、貴族社会では生きにくいと思っていたので、ルカ様が今後貴族社会で生きやすいようになればいいと思った。


 ルカ様の悩みを聞けて、今回の新年のパーティーはとても有意義だったと思う。

 お茶会が終わると、わたくしは部屋に帰されたが、アルベルト様が部屋まで送って行ってくれた。

 アルベルト様にルカ様の話をすると、アルベルト様もルカ様の家庭教師に怒っていた。


「ユリウス様と比べるだなんて酷すぎる。ルカ様にはルカ様の教育方針があってしかるべきなのに」


 ユリウス様と同じことができなかったからと言って出来損ないとか落ちこぼれとか言うのではなく、できるところを伸ばし、ルカ様なりのペースで勉強していけばいい。

 アルベルト様の言葉に、わたくしは深く頷いていた。

読んでいただきありがとうございました。

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