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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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26.ファーストダンス

 秋が過ぎ冬が深まるにつれて宮殿は寒くなってくる。

 暖炉に火がともされて、部屋は暖かく保たれているのだが、問題は新年のパーティーだった。

 大広間にも暖房器具が設置されるが、広いので全体を温めることができない。


「セラフィナ、毛皮の上着を誂えましょう」

「毛皮ですか!?」


 お母様の言葉に、わたくしは驚いてしまう。

 毛皮など前世では高すぎて手が届かないものだったし、たった六歳の小さな体に合わせて毛皮の防寒具を作るなんて、とんでもないと思ってしまう。


「わたくしは白の毛皮の肩掛けを持っています。セラフィナは何色にしましょうか」

「色まで選べるのですか!?」

「暖かく肌触りがいいウサギの毛皮がいいでしょうね。色は薄茶色にしますか?」

「は、はい」


 わたくしが毛皮を身に付けないという選択肢はないようだった。

 六歳なのに毛皮の肩掛けを所有する。皇帝一家としては当然なのかもしれないが、前世の貧乏で親に見放された子どもだったクラリッサの記憶がわたくしにあるだけに、それはものすごく贅沢なことのように思われた。


 わたくしのサイズで毛皮の肩掛けが誂えられて、手元に来たときにはわたくしはそれに触れて感動した。

 柔らかくふわふわで肌触りがよく温かい。

 お母様がわたくしに毛皮の肩掛けを誂えてくれようとした気持ちが分かる。

 こんなに寒い冬、冷える大広間で少しでもわたくしが暖かいようにと考えてくれたのだろう。

 豪華な毛皮の肩掛けをわたくしは感謝して受け取ることにした。


 六歳のわたくしが参加できるのは、新年のパーティーの中でも昼食会とお茶の時間だけだった。

 昼食会とお茶の時間の合間には休憩時間があるので、そのときに着替える貴族もいるようだが、お父様もお母様も着替えることはない。お父様とお母様は皇帝と皇后でありながら、公の場では美しい姿を見せなければいけないが、最低限以上は豪華にすることはないようだった。


 昼食会に向かうわたくしをラファエルお兄様が手を引いてエスコートしてくださる。靴も今日のために新調したので、慣れていなくて歩きにくいところがあったので、ラファエルお兄様が助けてくれることにわたくしは感謝していた。


 昼食会の席は、皇帝と皇后であるお母様とお父様が真正面の席で、そこから直角に伸びるテーブルにわたくしとアルベルト様、正面にラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が座った。それから、ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様、正面にアルマンドール公爵家のご両親とニコ様とリヴィア嬢、その向かい側にルクレール公爵家の皆様と続いている。

 そこまでが皇族と親戚のテーブルで、テーブルが別になって他の貴族たちも着席した。


 お父様とお母様が葡萄酒の入ったグラスを持ち上げて挨拶をする。


「また新しい年が始まった。この年もまた、我がセレスティア帝国にとって豊かさと繁栄をもたらす年にしていきたいと思っている。皆のものにも、協力してもらいたい」

「セレスティア帝国は、今、変わろうとしています。貴族だけでなく平民にももっと教育を行き渡らせて、人材を育てることこそがこの国を強くしていくのです。そのための国策に皆様には協力していただかねばなりません。新しい年がセレスティア帝国の躍進の年となりますように」

「乾杯!」


 お父様とお母様の挨拶が終わって、お父様が乾杯の音頭を取った。グラスが触れ合う音が響く。

 わたくしのグラスには葡萄酒とよく似た色の葡萄ジュースが注がれていたが、成人していないラファエルお兄様もアルベルト様もアンリエットお義姉様も、ニコ様もリヴィア嬢もユリウス様もルカ様もそれは同じだった。

 葡萄ジュースで乾杯をして、わたくしたちは運ばれてくる料理を食べる。

 温野菜と鶏肉のゼリー寄せ、肉団子のコンソメスープ、魚のパイ包み、牛のテールの煮込み、デザートと、次々と出てくる料理をわたくしは全部は食べられなかったが、食べられなかった分は使用人にお下げ渡しとなるので安心して残すことができる。


 昼食会が終わって、休憩時間にわたくしは一度部屋に戻ってお手洗いを済ませて、寒くないように毛皮の肩掛けを身に付けた。

 昼食会のときは集まっていたし、暖房器具も近くに設置されていたので寒さはそれほど感じなかったが、お茶会では会場を歩き回ることがあるし、毛皮の肩掛けはそのために誂えてもらっていたので、しっかりと肩にかけた。

 柔らかく肌触りのいい毛皮の肩掛けはとても暖かい。

 わたくしがお茶会の会場に行くと、アルベルト様がすぐにそばに来て手を取ってくれた。


「セラフィナ殿下、一曲踊りませんか?」


 よく見ればお茶会の会場の一角に、音楽隊が演奏をしているスペースがある。そこではダンスを踊っているひとたちの姿が見えた。


「わたくし、踊るのは初めてです」

「ダンスは習っているのでしょう?」

「習ってはいますが、実践するのは初めてです」

「わたしに合わせてください」


 公の場でアルベルト様がわたくしに敬語を使っているのと、わたくしを「殿下」と呼んでいるのに胸がドキドキしてしまう。

 アルベルト様に手を引かれて踊りの輪に入ったが、わたくしは小さすぎて場違いではないかと思ってしまった。俯いてしまったわたくしに、アルベルト様が微笑みかける。


「セラフィナ、胸を張って。セラフィナが一番かわいいよ」


 耳元に囁きかけられて、わたくしは頬が熱くなるのを感じていた。


 クラリッサとして初めて出会ったころには、まだ声が高くて少女のようだったアルベルト様。いつの間にこんなに声が低くなったのだろう。

 わたくしが気付かない間にアルベルト様の声は低く、それでいて甘く優しい響きになっていた。


 クラリッサが知ることなく死んだアルベルト様の声を、セラフィナに生まれ変わったわたくしが聞いている。


「アルベルトお兄様、わたくし……」

「セラフィナ?」

「わたくし、アルベルトお兄様と踊れて嬉しいです」


 初めてのダンスをアルベルト様と。

 この喜びがクラリッサのものなのか、セラフィナのものなのか、わたくしにもよく分からない。

 分からないが、わたくしはアルベルト様の成長を喜び、アルベルト様に幸せになってほしいと思っている。

 それは、クラリッサとセラフィナの共通の思いだった。


 アルベルト様とわたくしが一曲踊り終わると、ラファエルお兄様がものすごい勢いでわたくしたちのところにやってきた。ラファエルお兄様はアルベルト様を睨み付ける。


「セラフィナのファーストダンスを……アルベルトが……」

「踊らせていただきました。婚約者ですから」

「わたしがセラフィナと踊ろうと思っていたのに!」

「婚約者ですから!」

「わたしはセラフィナの兄だよ?」

「わたしは、婚約者です」


 何度も「婚約者」を強調するアルベルト様に、ラファエルお兄様ががっくりと肩を落とす。わたくしは背伸びをしてラファエルお兄様の手を取った。


「ラファエルお兄様、踊りますか?」

「踊る!」


 ラファエルお兄様は即答して、わたくしを連れて踊りの輪に入って行った。それを見てアンリエットお義姉様が笑っている。


「わたくしという婚約者がいながら、ラファエル殿下ったら、セラフィナ殿下に夢中なのですから」

「それだけかわいい妹なのでしょう。わたしも気持ちは分かります。セラフィナと婚約していなかったら、セラフィナのファーストダンスを誰かに譲るのは許せなかったでしょう」

「アルベルト様まで。セラフィナ殿下が魔性の女のようではないですか」

「魔性と言うと人聞きが悪いですが、セラフィナ殿下は愛らしいですからね。わたしたちを夢中にさせる可憐さがあります」

「本当にアルベルト様はセラフィナ殿は特別なのですね」

「セラフィナ殿下を見ていると、昔好きだった相手を思い出します」


 ラファエルお兄様とダンスを踊りながら、わたくしはアンリエットお義姉様とアルベルト様の会話に耳を澄ましていた。

 アルベルト様の昔好きだった相手。

 それはクラリッサのことだろう。

 アルベルト様はクラリッサを忘れられていないのか。


「セラフィナ、どこを見ているの?」

「すみません、お兄様」


 ラファエルお兄様の足を踏んでしまって、わたくしは慌てて謝った。ラファエルお兄様は笑って許してくれる。


「始めて踊るのだものね。失敗もするよ。わたしでよければ何度でも練習台になるよ」

「ありがとうございます、お兄様。でも、アンリエットお義姉様が嫉妬します」

「そ、それは……わたしとセラフィナは兄妹だし……」

「アンリエットお義姉様とも踊ってくださいね」


 わたくしが言えば、わたくしと踊った後、ラファエルお兄様はアンリエットお義姉様をダンスに誘っていた。

読んでいただきありがとうございました。

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