24.セラフィナ、六歳
わたくしの六歳のお誕生日は特別な日だった。
この国においては六歳の誕生日を迎えるということはとても特別なのである。
今より医療技術が低くて乳幼児死亡率が高かったころ、六歳まで生きれらたら一区切りとしてお祝いをしていたのが今に残っていて、平民が学校に入学するのも六歳になってからだし、貴族や皇族がお茶会デビューするのも六歳になってからと決まっている。
秋の始めに来るわたくしのお誕生日のために、お父様もお母様も準備をしてくれていた。
お母様はわたくしの衣装やお誕生日のお茶会のメニューを考えてくれている。お父様は招待客を考え、招待状を作ってくださっている。
「セラフィナ、菫色のドレスも似合いますが、薄茶色のドレスもいいですね。どちらにしますか?」
「薄茶色の方がアルベルトお兄様の目の色に似ているので、こちらにしたいです」
「お茶会にはモンブランとスイートポテトとかぼちゃのプリンを出そうと思っていますが、それ以外に用意したいものがありますか?」
「梨のタルトはどうでしょう?」
「果物もあった方がいいかもしれませんね。梨のタルトと柿のタルトを厨房で作らせてみましょう」
お母様がてきぱきと采配していくのにわたくしも一生懸命意見を言う。
お母様はわたくしのさらさらの銀髪を手に取って、リボンも合わせてくれた。
「薄茶色のドレスは華やかさが少し足りないので、金の縁取りをして、金色のリボンを合わせましょう」
「はい、お母様」
お母様はさすが皇后を十六年以上しているだけはある。的確に物事を進めている。
わたくしはお母様の言う通りにしつつ、意見を求められたときには自分の気持ちを口にしていた。
わたくしの六歳の誕生日のお茶会当日、参加できないミカが駄々をこねるようなことはあったが、何とか宥めて、わたくしはお茶会に参加した。
婚約式のためにラファエルお兄様とアルベルト様のお誕生日のお茶会に参加したことはあるが、正式にお茶会に参加するのはこれが初めてだ。
わたくしが緊張した面持ちで紹介を待っていると、お父様がわたくしの手を引いてくださる。
「今日はわたしの娘、セラフィナのために集まってくれて感謝する。セラフィナは今日六歳の節目を迎えた。この国で六歳と言えば、子どもの成長のひと段落ともいえる。この年をセラフィナが健康で迎えられたことを本当に幸せに思う。どうか今日はセラフィナを祝ってやってほしい」
お父様に言われて、わたくしは一歩前に出る。
「セラフィナ・アストリアノスです。わたくしは周囲の皆様の支えがあって、六歳という年齢を迎えられました。わたくしを愛し、導いてくださる、父、母、兄、そして、今日は参加できませんでしたが、わたくしと共に育ち、わたくしの愛する弟、それに、わたくしの婚約者。わたくしは大切な家族に囲まれて幸せです。この幸せを皆様と共に分かち合える一日にしたいと思います。本日は、わたくしのためにお集まりくださり、ありがとうございます」
頭を下げると拍手が沸き起こる。
「本当に六歳なのですか?」
「あの立派な挨拶」
「さすがは皇帝陛下と皇后陛下のお子ですね」
誉め言葉が聞こえてわたくしは誇らしく胸を張った。
挨拶が終わるとアルベルト様がわたくしを迎えに来てくれる。アルベルト様に手を引かれてお茶会の席に座ると、ラファエルお兄様が深くため息をついていた。
「アルベルトが婚約者でなければ、あそこはわたしがエスコート役だったのに」
「残念ながら、わたしが婚約者だからね」
「セラフィナを大事にしないと許さないぞ!」
「分かっているよ」
いつものラファエルお兄様の弟妹大好きすぎる姿に苦笑していると、ラファエルお兄様の隣にアンリエットお義姉様が座る。
「ラファエル殿下、セラフィナ殿下にご執心のようで」
「アンリエット嬢、あなたのことは誰よりも大事に思っていますよ」
「セラフィナ殿下に過保護なのではないですか? 過保護な兄は嫌われますよ」
「セラフィナに嫌われてしまう!? セラフィナ、わたしを嫌いじゃないよね?」
「大好きです、お兄様」
「よかったー!」
わたくしの一言に左右されるラファエルお兄様に、アンリエットお義姉様は苦笑していた。
お茶菓子が出されて、カップにお茶が注がれる。わたくしはミルクティーにしたが、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様とアルベルト様はストレートで飲んでいる。ストレートの紅茶は、わたくしはまだ苦みが強いので美味しく飲めない。
モンブランとスイートポテトとかぼちゃのプリンと梨のタルトと柿のタルト、どれを食べようか迷ってしまうが、どれも小さいので三個くらいなら食べられそうだった。
悩んでいるわたくしに、アルベルト様が小声で問いかける。
「スイートポテトとかぼちゃのプリンだったら、少しだけ分けることが可能かもしれない」
「分けてくださいますか?」
「いいよ」
わたくしは小さなモンブランと梨のタルトと柿のタルトをお皿の上に取り分けてもらった。スイートポテトとかぼちゃのプリンは、アルベルト様から一口分ずつ分けてもらう。
どれも食べたかったので、味を確かめられて満足していると、ラファエルお兄様が咳払いをする。
「婚約者とはいえ、お茶菓子を分けるのはどうかと思うけれど」
「セラフィナの誕生日に出されたお茶菓子は、全部皇后陛下がお選びになったものでしょう? 皇后陛下のお気持ちをセラフィナは大事にしているのです」
重々しくお母様のことを持ち出すアルベルト様に、ラファエルお兄様は何も言えなくなってしまう。
「ラファエル殿下の負けですね」
「アンリエット嬢!」
「セラフィナ殿下の婚約者が、頼りになる方でよかったではないですか」
「わたしのセラフィナが……」
「ラファエル殿下にはわたくしがいるでしょう」
アンリエット嬢に言われて黙ってしまうラファエルお兄様も、将来はアンリエット嬢にお尻に敷かれそうな雰囲気だった。
お茶の時間が終わると、アルベルト様がわたくしの手を取ってお父様のところまで送り届けてくださる。
お父様は来客の皆様に挨拶をしていた。
「今日は来てくれた皆のおかげでセラフィナも楽しいときを過ごせただろう。本当に感謝する。今後ともセラフィナのことをよろしく頼む」
「わたくしもお茶会にデビューするようになりました。今後は皆様と顔を会わせる機会が増えると思います。どうぞよろしくお願いします」
わたくしも挨拶をして、お茶会の会場を後にした。
アルベルト様がわたくしを送ってくれた。
わたくしはそのまま自分の部屋に帰るのではなくて、子ども部屋に顔を出していた。
わたくしたちが出発するときにはふくれっ面だったミカが、お茶菓子を食べてミルクティーを飲んで満足そうにしている。
「ねぇね! おかえりなたい!」
「ただいま戻りました、ミカ」
「ねぇね、おたかい、たのちかった?」
「皆様がわたくしが六歳になったことを祝ってくださって、幸せでしたよ」
「ねぇね、おめめとうございまつ」
「ありがとうございます」
会場ではリヴィア嬢やルカ様には会えなかったけれど、二人も六歳になっているのでお茶会にデビューしているはずだ。リヴィア嬢は心配ないが、ルカ様は教育が順調に言っているのか少しだけ心配だった。
「次のお茶会は新年のパーティーだね」
「そのときもエスコートしてくださいますか?」
「もちろんだよ、セラフィナ」
アルベルト様と約束をして、わたくしは自分の部屋まで送ってもらった。
わたくしの部屋の前で、アルベルト様はわたくしの手を取って、指先に軽くキスをした。手の甲や指先へのキスは、敬愛を示すので、何歳でもしてはいけないということはない。
アルベルト様の琥珀色の瞳が優しく笑んで、わたくしは熱くなる頬を押さえていた。
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