3.来年のリヴィアの誕生日の演奏会の計画
冬の終わりのリヴィア嬢のお誕生日には、わたくしとセリーヌ嬢とリヴィア嬢で演奏を披露した。
三人でホールに用意されたピアノの前で一礼して、セリーヌ嬢はピアノの椅子に座り、リヴィア嬢はバイオリンを構え、わたくしはピアノの前に立つ。
三人で視線で息を合わせて演奏が始まった。
ミュージカルで対立する家の女性が男性を想う甘く切ない旋律。
わたくしの歌にピアノとバイオリンが重なる。
歌い終えると、ピアノとバイオリンも伴奏を最後まで弾いて終わり、聞いていた方たちからは拍手が上がる。
「リヴィア嬢のバイオリンの素晴らしかったこと」
「セリーヌ嬢はさすがロズベルク侯爵家のご令嬢ですね。ピアノが素晴らしい」
「セラフィナ殿下の澄んだ高音の響きも素晴らしかったです」
称賛の声を浴びてわたくしたちは満足してお茶会の席についた。
お茶会の席に着くと、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が声をかけてくださる。
「セラフィナ、リヴィア嬢、セリーヌ嬢、とても美しい演奏だったよ」
「わたくし感激いたしましたわ。あのミュージカルの名曲を実家で聞けるだなんて思いませんでした」
アンリエットお義姉様にとってはここ、アルマンドール公爵家は実家である。ラファエルお兄様と結婚して宮殿に入っていたが、実家が懐かしいこともあるだろう。
「お兄様とアンリエットお義姉様にそのように褒めていただけて嬉しいです」
「ミカエル殿下も練習をされています。ミカエル殿下のお誕生日のお茶会ではもっと豪華な演奏を聞けると思いますよ」
「ルクレール公爵領にいるお姉様に聞かせることができなかったのは残念ですが、ラファエル殿下とアンリエット皇太子妃殿下にそう言ってもらえたら嬉しいです」
リヴィア嬢はミカのことを話してくれていて、セリーヌ嬢はユリウス様と結婚したレティシア夫人のことを考えていたようだった。
猛練習していた演奏も終わってほっとしていると、アルベルト様がわたくしに聞いてくる。
「セラフィナは歌うのがとても上手だけれど、それを将来の仕事にしたいとは思わないのかな?」
「歌、ですか?」
わたくしはミカのような情熱はないし、歌もピアノよりは上手だから引き受けているに過ぎない。
歌うことを将来の夢にすることなど考えたこともなかった。
「セラフィナには色んな道があるということだよ。候補の一つとして考えておいたらいいのではないかな」
わたくしが以前に将来のことで相談したのをアルベルト様はしっかりと覚えていてくれたようだった。
冬の終わりなので、雪はもう溶けて、寒さが残っているだけになっている。
お茶会が終わると、わたくしはリヴィア嬢に誘われて、セリーヌ嬢と一緒に庭に出ていた。冷たい風が吹いているが、コートを着れば何とかそれも防げる。
「わたくしたち、今回も演奏が成功しましたね」
「たくさん褒めていただいたし、拍手もいただきました」
リヴィア嬢とセリーヌ嬢の言葉に、わたくしはその通りだと頷く。
リヴィア嬢とセリーヌ嬢は考えていることがあるようだった。それをわたくしに打ち明けてくれる。
「来年のわたくしのお誕生日では簡単な短いミュージカルメドレーを披露するのはどうでしょう?」
「メドレーですか?」
「ミュージカルを短くしたようなものを歌と演奏だけで表現するのです」
「男性パートにはミカエル殿下に入っていただいてはどうでしょう?」
わたくしとリヴィア嬢とセリーヌ嬢だけでなく、ミカにも入ってもらって、ミュージカルを短く仕上げる。それはとても面白そうだった。
「楽しそうですね」
「毎回一曲で終わってしまうのがもったいなくて」
「どうせなら、演奏会のようにしたいのです」
夢のあるお誘いに、わたくしは喜んで賛成した。
冬でまだ椿が少しだけ咲き残っている庭を歩いて、わたくしたちは計画を立てた。
「歌劇団でミュージカルを見て予習しなければいけませんね」
「オトテール先生にメドレー曲を作っていただきましょう」
「ミカエル殿下にも相談しないと」
話しながら歩いているのは少し寒かったがとても楽しかった。
お茶会の会場に戻ると、もうお開きになっていて、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様、それにアルベルト様がわたくしを待っていてくれた。
「セラフィナ、友人たちとは楽しくお話しできたかな?」
「はい、アルベルト様」
「馬車まで送って行くよ」
アルベルト様はわたくしを馬車まで送ってくれて、馬車に乗り込むのに手を貸してくれた。
ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様と一緒の馬車で宮殿に帰った。
宮殿に帰ると、ミカが待ちきれない様子でわたくしに迫ってきた。
「お姉様、演奏会はどうだったの?」
「大成功でしたよ。誰も間違えなかったし、たくさんの拍手もいただきました」
「おめでとうございます」
「リヴィア嬢とセリーヌ嬢と話していたのですが、来年はミュージカルメドレーを演奏して、男性役をミカに頼もうかと言っていました」
「わたしも一緒に演奏できるの?」
「はい、ミカにお願いしたいのです」
「嬉しい!」
飛び上がって喜んでいるミカに、わたくしは微笑みを浮かべる。
ミカは歌には熱心なので指定されたパートはしっかりと練習するだろう。
それに、男性パートでもミカの音域はまだ高いので、一オクターブ上げて歌えば問題はないだろう。
「どんな演目のミュージカルになるのでしょう?」
「それはこれから調べて、見に行って決めないといけませんね」
「わたしもミュージカルを見に行けるのですか?」
「ミカにも見てもらわないと決められないでしょう?」
「わたし、ミュージカルに行ける! 嬉しい!」
大喜びするミカを見て、ミカを誘ってよかったと心から思った。
オトテール先生には後日、相談してみた。
わたくしのピアノと声楽の稽古のときに、話してみる。
「来年のリヴィア嬢のお誕生日では、ミュージカルのメドレー曲を演奏して、短いミュージカルを見てもらったようにしたいのです」
「それは演目と曲を選ばなければいけませんね」
「オトテール先生、ミュージカルをメドレー曲にしてくれますか?」
「ミュージカル曲は相手役と歌う場面もありますが、どうなさいますか?」
「それは、ミカに相手役をしてもらおうと思います」
「それなら、ミカエル殿下のために一オクターブ高い楽譜を作らなければいけませんね」
忙しくなりそうな気配はしていたが、オトテール先生は興味津々に見えた。
「オトテール先生はこういう仕事を頼まれるのは嫌ではありませんか?」
「こういう仕事はとても楽しいのですよ。わたしの性に合っています」
楽しいと言ってもらえてわたくしは安心した。
夕食の席ではお父様とお母様にも話を通しておいた。
「来年のリヴィア嬢のお誕生日のお茶会では、ミュージカルのメドレー曲を演奏しようと計画しています。ミカももうお茶会に参加できる年になっているので、男性パートはミカにお願いしようと思っています」
それに関して、興味を持ったのはお母様だった。
「ミュージカルはコーラスも必要ですよね」
「は、はい、もちろん」
「わたくし、コーラスをさせてもらえませんか?」
「お母様がしてくださるのですか?」
「わたくしも一緒に歌いたいのです」
お母様の申し出にわたくしは感謝してそれを受け入れることにした。
「リヴィアとセリーヌの演奏に、ミカエルとセラフィナとセレナの歌か。それはわたしも見に行かなければいけないな」
「お父様、来てくださるのですか?」
「わたしもぜひ聞いてみたいと思っているよ」
お父様とお母様のなれそめは、お父様がお母様の歌を聞いたところから始まっている。その後でお父様はお母様の声楽の発表会に出向いて、お母様の歌を正式に聞いている。
お父様はお母様の歌声に心惹かれたのだろう。
そんなお母様が歌うとなればお父様も聞かないわけにはいかないのかもしれない。
「お父様の前で披露できるのは嬉しいです」
「わたしもセラフィナとミカエルとセレナの歌を聞けるのは嬉しいよ」
「わたくし、親子で歌うのが夢だったのです。それが叶いそうで嬉しいです」
お父様もお母様もわたくしたちの演奏会を楽しみにしてくださっている様子だった。
演奏会の予定は決まったが、まだ一年近く先のことである。
その前にミュージカルの歌う演目も見に行かなければいけない。
それに関しては、アンリエットお義姉様が請け負ってくれた。
「セラフィナとミカエルとお義母様が歌うのに相応しい演目を選んでチケットを確保しておきますわ」
アルマンドール公爵家は歌劇団に寄付もしているので、チケットが手に入りやすいのだ。アンリエットお義姉様はそれでこれまでの公演のチケットを手に入れていた。
「アンリエットお義姉様、お願いがあります」
わたくしが申し出ると、アンリエットお義姉様はわたくしに向き直って聞いてくれる。
「アルベルト様の分のチケットも確保できませんか?」
「セラフィナはアルベルト様と一緒に行きたいのですね。分かりました、人数に入れておきます」
歌劇団の観劇に行くのは、わたくしとリヴィア嬢とセリーヌ嬢とミカとアルベルト様と、チケットを取ってくれたアンリエットお義姉様とその夫であるラファエルお兄様の七人になるのだろうか。
それだけの大人数となると、確保できる日程は決まってくるだろう。
「日程はわたくしとラファエル様とアルベルト様を優先して考えていいですね」
「はい」
わたくしもリヴィア嬢もセリーヌ嬢もミカも、まだ学園に通っていないので日程はどうとでも合わせられるだろう。わたくしが返事をするとアンリエットお義姉様はアカデミーの授業日程を確認していたようだった。
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