27.セラフィナ、八歳
わたくしのお誕生日のお茶会に出たいとミカは我が儘を言わなかった。
リヴィア嬢とセリーヌ嬢との打ち合わせのときに出すメニューを全部食べてしまったからだろう。食いしん坊のミカは食べ物で満足するのかと笑ってしまった。
お誕生日の当日にはアルベルト様とお揃いにした。
アルベルト様が薄茶色の上品なフロックコートで、わたくしが薄茶色のドレスにしたのだ。
リボンはアルベルト様の髪の色に合わせて金色を選んでいた。
わたくしも大きくなってきたので、生まれたときから一度も切っていない長い前髪を切ろうかとも思ったのだが、お母様が細い三つ編みにしてくれて横に流してくれたので切らずに済んだ。
お客様が来ると、わたくしに挨拶をしていくが、わたくしも挨拶を返す。
招待されている貴族の数は把握していたが、わたくしは皇女なのでかなりの数がいて、わたくしは忙しかった。
「セラフィナ殿下が無事に八歳のお誕生日を迎えられたこと、お祝いいたします」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます、叔父様、叔母様」
「これからもアルベルトのことをよろしくお願いしますね」
「アルベルト、セラフィナ殿下をお支えするのですよ」
ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様と話していると、リヴィア嬢とセリーヌ嬢が歩み寄ってきて笑顔で挨拶をしてくれる。
「素敵なお誕生日のお茶会になったようでよかったです」
「衣装はアルベルト様と色を合わせているのですね。とてもお似合いです」
「ありがとうございます、リヴィア嬢、セリーヌ嬢。お二人が相談に乗ってくれたおかげでお茶会のメニューも決まりました」
「それくらいお安い御用ですわ」
「いつでも相談してください」
学友として頼もしい二人にお礼を言えば、力強い言葉が返ってくる。
わたくしは二人が学友でよかったと思っていた。
お茶会が始まると決められた席につく。この席順も、お茶会の主催であるわたくしが決めなければいけないのだが、まだ小さいのでお父様とお母様に頼っている。
アルベルト様とはお隣で、正面がラファエルお兄様とアンリエットお義姉様、同じテーブルにはリヴィア嬢とセリーヌ嬢といういつもの並びなので安心する。
「アルベルト、アカデミーの入学式の衣装は決めた?」
「決めたよ。そんなに形式ばった服でなくてもいいかと思ったんだけど、父上と母上が、最後の入学式になるだろうからきちんとしてほしいと言って、フロックコートを着ることになった」
「わたしも同じような感じだね。わたしはアンリエットと一緒に出るけれど、アルベルトは?」
「わたしは父上と母上が来てくれるよ。もう成人しているのだから、来なくても大丈夫なんだけどね」
話しているラファエルお兄様とアルベルト様に、わたくしはそわそわしてしまう。
わたくしはアカデミーに進学できるか分からないし、一度アカデミーがどんなところか見ておきたい気持ちがあった。
「アルベルト様、わたくし、入学式を見に行ってはいけませんか?」
「特に面白いことはないと思うのだけれど」
「アカデミーを一度見ておきたいのです」
わたくしがアカデミーに進学できるようになったとしても、それは十年後のことになる。その前にわたくしはアカデミーを見ておきたかった。
わたくしがお願いすると、アルベルト様は少し考えていたが、答えを出してくれた。
「セラフィナが来たいのならば招待するよ。退屈にならないといいけれど」
「セラフィナが来てくれるの? わたしも気合が入るなぁ」
「わたくしもいいところを見せなければいけませんね」
アルベルト様と話しているのを聞いていたラファエルお兄様とアンリエットお義姉様がわたくしがアカデミーの入学式に行くことについて喜んでいる。妹にはいいところを見せたいものなのだろうか。
アルベルト様とラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が正装をして入学式に参加するのはきっと華やかだろう。
想像するだけでわたくしは幸せな気分になる。
「セラフィナには父上と母上が付き添ってくれるように頼んでおこう」
「ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様なら安心だね」
わたくしは一人では参加できないので、ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様と同席することになりそうだった。
「アカデミーは何年なのですか?」
「学科によるね。わたしとアンリエットは政治と経済と歴史の学科だから四年、アルベルトは医学の学科だから六年だね」
六年もアルベルト様はアカデミーに通うのか。
ラファエルお兄様に教えてもらってわたくしは驚く。
六年といえば学園と同じだけの年数である。
学園も長かったと思うのだが、アカデミーでも六年間学ぶ学科があるだなんて知らなかった。
「医学科は一番長いからね。ひとの命を預かるのだから、それだけ勉強しておかなければいけない」
真面目な表情になったアルベルト様に、わたくしも頷く。
アルベルト様がアカデミーを無事に卒業して医者になったら、たくさんの領民が救われることだろう。
アルベルト様の輝かしい未来に、わたくしは期待していた。
わたくしのお誕生日のお茶会が終わってから、わたくしはお母様に相談していた。
アルベルト様のアカデミーの入学式に出席するのだが、場にそぐわない格好では行きたくない。
「アルベルト様のアカデミーの入学式に招待されました。アカデミーはお茶会と違い、学習をする場です。それに合う衣装を一緒に考えてください」
わたくしがお願いすると、お母様は紺色に白い小花柄のワンピースを手に取った。シックな色合わせだと思うが、わたくしはそういう色は身に付けたことがなかった。
「セラフィナが厳粛な場に出るときのために誂えておいたのですが、これが役に立つ日が来ましたね」
「わたくし、一度も身に付けたことがないのですが」
「いつか必要になるかもしれないと、毎年一枚はこのようなシックなワンピースも仕立てさせていました。これを着て、髪も編んでいけばその場に相応しい格好になると思いますよ」
お母様にそう言ってもらえてわたくしは安心していた。
問題はミカだった。
ミカは今わたくしの真似をしたい年頃で、わたくしがアカデミーの入学式に行くと分かれば、絶対に行きたがるだろう。
内緒にするわけにはいかないので、ミカに話をしてみると、だんだんとミカの唇が尖ってくる。不満を訴えているのだ。
「わたしもお兄様とアンリエットお義姉様とアルベルトお兄様の入学式に行きたい」
「ミカは招かれていませんし、退屈してしまうかもしれません」
「お姉様ばっかりずるい! わたしも行きたい!」
すっかりと拗ねてしまったミカにどうすればいいのかわたくしが悩んでいると、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が助け舟を出してくれた。
「わたしとアンリエットとアルベルトの入学のお祝いのお茶会を身内だけで開くのはどうかな?」
「お茶会? 入学式には行けないの?」
「お茶会で美味しいお茶菓子とお茶を出しましょう」
「お茶菓子とお茶……」
「ミカエルは月餅というお菓子を知っているかな? 東方で食べられているお菓子なんだけど、そのレシピが手に入ったんだよ」
「パイのような生地に豆のジャムとナッツをたくさん入れたお菓子だそうですよ」
「げっぺい……美味しそう」
ミカの心がかなり傾いているのが分かる。
最後の一押しと、ラファエルお兄様が言った。
「アカデミー入学のお祝いに、お祖父様とお祖母様がハーブティーを送ってきてくださっているんだ。それと月餅を一緒にいただいたら美味しいだろうなぁ」
「わたし、我慢できます!」
「本当ですか?」
「はい、ちゃんとお留守番できます!」
食いしん坊のミカにはその誘惑はよく効いたようで、拗ねて唇が尖っていたミカは、もうにこにこの笑顔になっていた。
我が弟ながら単純だが、そんなミカの笑顔もかわいかったのでわたくしはよかったと胸を撫で下ろした。
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