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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
四章 セラフィナと音楽

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25.ミカエルの疑問

 お祖父様とお祖母様のお屋敷はそんなに広くなかったので、わたくしとアンリエットお義姉様とミカが同室になって、ラファエルお兄様とアルベルト様が同室になった。

 お風呂に入って髪を乾かしていると、アンリエットお義姉様がブラシを持って来て、わたくしの髪を梳いてくれる。わたくしはお母様に似た真っすぐな銀色の髪なので、きれいに梳くと艶が出てきらきらと光る。


「セラフィナはとてもきれいな髪ですね」


 アンリエットお義姉様はラファエルお兄様と結婚してから、わたくしたちのことを「殿下」と呼ばなくなった。その分距離が近くなったようでわたくしは嬉しい。


「アンリエットお義姉様もとてもきれいな髪です」


 アンリエットお義姉様はストロベリーブロンドと言われる赤みがかったブロンドで、ラファエルお兄様の真っ赤な髪によく似合っていると思う。

 お風呂からミカも出てくると、アンリエットお義姉様はミカの髪も丁寧に梳いてくれた。

 ミカは少し癖のある赤毛で、ラファエルお兄様やお父様とよく似ている。


「ミカエルは本当にラファエルに似ていますね。ラファエルも小さなころこんな風にかわいかったのでしょうか?」

「きっとそうだと思います」

「アンリエットお義姉様はお兄様のどこが好きになったのですか?」


 恋愛に興味津々のミカにアンリエットお義姉様が恥じらいながら答えてくれる。


「優しいところと、努力を怠らないところでしょうか」

「アンリエットお義姉様にお兄様は優しいですか?」

「はい、とても優しいです。学園でわたくしが勉強に躓いているときには教えてくれて、サロンではわたくしの好きなお茶やお菓子を用意してくれていました」

「お兄様は勉強熱心ですからね」

「そうなのです。いつも努力を怠らず、皇子だからというだけでなく、その地位に恥じないように努力をして、六年間首席を守り通しました」


 小さなころからラファエルお兄様は勉強ができると思っていたが、学園ではずっと首席だったのか。その話は聞いていたがアンリエットお義姉様の口から聞くと、また新しい驚きが胸にわいてくる。


「アンリエットお義姉様……赤ちゃんはどこからくるのですか?」


 金色の目を輝かせたミカの問いかけに、わたくしはついにこの日が来てしまったのかと覚悟する。いつかはミカもそういうことに興味を持つ年齢になるとは思っていたが、赤ちゃんのでき方などわたくしはちゃんと教えられる自信がなかった。

 アンリエットお義姉様がどのように教えるか、わたくしは息を飲んで見守る。


「これはとても大事なお話ですから、ミカエルは絶対に軽々しく口にしてはいけませんよ」

「はい」

「ミカエルは男性と女性で体の形が違うのは知っていますか?」

「えーっと、男の子にはおちんちんがあって、女の子にはありません」


 そのことは知っていたのかとわたくしはアンリエットお義姉様の説明を聞きながら一緒になって頷く。わたくしも実のところ、セラフィナに生まれ変わってからこのような性教育は受けていない。バロワン先生の性教育は、体の大事な場所を許可なく触れさせてはいけないというもので、赤ちゃんのでき方ではなかった。


「男性の性器も女性の性器もとても大事な場所です。軽々しく話してはいけません。赤ちゃんを作るには、男性の性器が女性の性器に入る必要があります」

「入るのですか!?」

「そうです。男性の体は女性の体に入るように作られていて、女性の体は男性の体を受け入れるように作られています」

「そ、そうなんだ……」

「女性の体には赤ちゃんになる卵があって、男性の体から赤ちゃんになる素を受け取って、それが無事に出会えば、赤ちゃんはできます」


 ものすごく話しにくい内容なのに、アンリエットお義姉様は逃げることなく、真剣にミカに説明してくれた。ミカも真剣に話を聞いていた。


「とても大事な話を聞かせてくれてありがとうございます。わたし、この話は誰にもしません」

「そうしてください。ミカエルにもセラフィナにも、必要な話だと思ったのでお伝えしました。このことは、ミカエルとセラフィナが大人になるまで誰にも言わず、大切に覚えていてください」


 ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が結婚したのだから、いつかはこんな話をする必要があったのだが、わたくしは上手に説明できる気がしなかったので、アンリエットお義姉様が話してくれてよかったと思う。


「アンリエットお義姉様、ありがとうございました」

「セラフィナもこういう話を聞くのは初めてですか?」

「はい。わたくしも詳しいことは知りませんでした」


 今世でセラフィナとして生まれてからはこんな話をされたことはないし、前世でも学校で簡単な性教育はあったが、女性は月に一度体から血が出る話や、女性は男性のいう通りにするようにという趣旨の話ばかりで具体的なことは教えてもらえなかった。

 この話を同性であるアンリエットお義姉様から優しく教えてもらえてわたくしは本当によかったと思っていた。


「アルベルト様との婚約のときに、バロワン先生から、下着で隠れる場所と口は、許可なく他人に触れさせてはいけないという話は聞きました」

「それもとても大事なことです。ミカエルもそのようにしてください」

「でも、わたし、お尻が上手に拭けないの」

「それは許可をして触れてもらうのだから大丈夫ですよ」

「よかった!」


 ミカはまだ五歳でお尻が上手に拭けないことを気にしていたが、それはミカが許可をして拭いてもらっているので大丈夫だという返事に、ミカも胸を撫で下ろしていたようだった。


 眠る時間になって、ミカはわたくしのベッドに潜り込んできた。わたくしはミカが寂しいのだろうと思って受け入れた。

 ミカと一緒に眠って、翌朝は早く起きてお祖父様とお祖母様に庭を見せてもらった。

 庭にはハーブと野菜が植えてあった。


「このハーブを料理やお茶にしているのです」

「野菜は採れたてを食べると美味しいですからね」

「近くの畜産農家から牛乳やチーズも買っています」

「卵も養鶏農家から買っています」


 宮殿ではわたくしは食べ物がどこから来ているのかよく知らない。お祖父様とお祖母様は食材を買うところまで決めて、このお屋敷で暮らしているようだ。

 そういう暮らしだからこそ、お祖父様の体調も安定しているのかもしれない。


 朝食を食べた後で、お祖父様とお祖母様は馬車に乗り込むわたくしたちを見送ってくださった。


「また来てくださいね!」

「お待ちしています」


 馬車が見えなくなるまで手を振ってくれるお祖父様とお祖母様に、わたくしとミカも窓から手を振り返した。


 馬車は半日をかけてルクレール公爵家に到着した。

 ルクレール公爵家ではユリウス様とルカ様が出迎えてくれた。


「お祖父様とお祖母様は元気でしたか?」

「とてもお元気そうだったよ。アンリエットを紹介できてよかった」

「わたしもレティシア嬢と結婚したら、顔を見せに行きたいと思っています」

「喜ぶと思うよ」


 ラファエルお兄様とユリウス様が話している。

 ルカ様はミカに話しかけたくてうずうずしている様子だった。


「ミカエル殿下、お祖父様とお祖母様に会ったのですね!」

「はい! 真っ赤なお茶に蜂蜜を入れて飲んで、桃の乗ったゼリーを食べました! あ、お魚のソテーも食べました!」

「お祖父様とお祖母様のお屋敷の料理は、少し変わっていますが美味しいですよね」

「はい!」


 元気よく話している二人にわたくしは心が和む。

 微笑んで聞いていると、アルベルト様がわたくしの方を見た。


「セラフィナと婚約していること、お二人は気にしていなかっただろうか」


 わたくしが五歳でアルベルト様と婚約したことに関しては、お祖父様もお祖母様も驚いていたが、ストラレイン王国とカラステア王国のことがあったり、わたくしがアルベルト様を慕っているという事実を伝えたりしたら、納得してくださっていたと思う。


「大丈夫だと思いますよ、アルベルト様」

「わたしはお二人の大事な孫を攫って行く悪い男だったのではないだろうか」

「そんな、アルベルト様ったらおかしい。そんなことないです」


 思わず笑ってしまったわたくしに、アルベルト様も表情を緩める。


「わたしでは心もとないと思われていないといいのだけれど」

「アルベルト様は気にしすぎです。お祖父様とお祖母様はアルベルト様のことも歓迎してくださっていましたよ。アルベルト様とわたくしが結婚したら、報告に来てほしいと言っていたではないですか」


 わたくしが言えば、アルベルト様は納得した様子だった。

 十年後も、二十年後も、お祖父様とお祖母様が元気でいることをわたくしは願っていた。

読んでいただきありがとうございました。

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