24.ルクレール公爵家の祖父母とローズヒップティー
朝食を食べ終わった後で、わたくしたちは馬車に乗ってルクレール公爵家のお祖父様とお祖母様のお屋敷に行った。
前に行ったときは冬で、雪が残っていて庭も寂しかったが、今は夏でハーブの茂みや野菜を植えている家庭菜園がよく見える。
宮殿とは全く趣の違う庭だが、それもお祖父様とお祖母様らしかった。
わたくしたちが到着すると、お祖父様とお祖母様は快く迎えてくれた。
「冬が一番調子が悪いのですが、無事に冬を越せてまたお会いできて嬉しく思っています」
「よく来てくれましたね、ラファエル殿下。王太子妃殿下を紹介してください」
お祖父様とお祖母様にラファエルお兄様が微笑んでアンリエットお義姉様を紹介する。
「アルマンドール公爵家のアンリエットです。お祖父様、お祖母様、わたしたちのことは『殿下』など付けずに呼んでください。家族ではありませんか」
「それでしたら、失礼します。アンリエット、ラファエルをよろしくお願いします」
「ラファエルにこんな素敵な妃ができて、それを見届けることができて幸せです」
アンリエットお義姉様に挨拶をするお祖父様とお祖母様に、アンリエットお義姉様も手を取って挨拶をする。
「わたくし、アルマンドール公爵家のアンリエットです。お会いできて嬉しいです」
「わたしたちはセレナが十八で結婚するときに、早すぎると思わずにはいられませんでした」
「セレナはアカデミーへの進学を望んでいたのです」
「ですが、アンリエットは結婚してもアカデミーに進学すると聞いています」
「セレナの夢が叶ったようで嬉しいのです」
涙ぐむお祖父様とお祖母様は、お母様が結婚したときに考えることがあったのだろう。貴族や皇族では十八歳で結婚というのは早すぎるわけではないが、お母様がアカデミー進学を考えていたのであれば、叶えてあげたかったに違いない。
「義父上と義母上のお許しを得て、アカデミーに進学することができます。お二人がアカデミーで勉強できなかった分も、わたくしはしっかりと勉強しようと思っています」
アカデミーに進学するのはほとんどが貴族や皇族だが、その中でも女性はとても珍しいと聞く。医者になりたい女性はアカデミーに進学するようだが、それ以外の女性はほとんどアカデミーに進学しない。
お母様が皇后になって、お父様が国の男女差をなくそうとしても、それはまだ根深く残っているようだった。
アンリエットお義姉様のアカデミー進学はそれに一石を投じる行動になるだろう。皇太子妃がアカデミーに進学するのだ。これからは女性も自由に学ぶ機会が必要だと認識されるかもしれない。
「お祖父様、お祖母様、ハーブティーが飲みたいです」
「話し込んでしまってすみませんね、ミカエル。お茶にしましょう」
「今日はローズヒップティーを用意しているのですよ」
お茶の席に招かれて、わたくしはカップに真っ赤なお茶を注がれた。それを飲もうとすると、お祖父様とお祖母様が蜂蜜の瓶を出してくれる。
「ローズヒップティーはとても体にいいのですが、少し酸っぱいのです」
「蜂蜜を入れてお召し上がりください」
「はい、ありがとうございます」
蜂蜜を入れて真っ赤なローズヒップティーを飲むと、爽やかで美味しい。
お茶菓子は桃のコンポートの乗ったヨーグルトのゼリーだった。冷たくてさっぱりとしたヨーグルトのゼリーに桃のコンポートの甘みがよく合う。
美味しくいただいていると、アルベルト様が口を開く。
「セラフィナ殿下と婚約しています、ベルンハルト公爵家のアルベルトです」
「ベルンハルト公爵家というと、皇帝陛下の弟君の家ですよね」
「セラフィナはもう婚約していたのですね」
ルクレール公爵領は帝都から距離があるし、情報があまり入ってこないのだろう。お祖父様とお祖母様はわたくしが婚約していたことも知らなかった。
二人で静かに暮らしているので、貴族社会の煩わしいことは耳に入れないのかもしれない。
「ストラレイン王国とカラステア王国が、セラフィナ殿下が生まれたときから何度も結婚を申し込んできていたようなのです。皇帝陛下も皇后陛下もセラフィナ殿下を異国に嫁がせるつもりはなかったようですが、このままでは攫われてしまうかもしれないと思い、わたしと婚約することになりました」
「国同士の問題に小さなセラフィナが巻き込まれたのですね」
「セラフィナ、大変でしたね」
お祖父様とお祖母様は同情してくれるが、わたくしはカラステア王国の使者に連れ去られそうになったことを思い出して体を震わせる。
あのことがきっかけで、お父様はわたくしの婚約を決めたのだった。
「遠い異国に連れ去られることを考えれば、アルベルト様と婚約した方がずっといいです。わたくし、アルベルト様を兄のように慕っております」
「セラフィナがそう思っているのならばいいのです」
「あの二国は何を考えているのでしょうね」
この大陸には基本的にこの国、セレスティア帝国とその属国であるストラレイン王国とカラステア王国しか存在しない。大陸の中でも一番広い領土を持つのがセレスティア帝国だ。
セレスティア帝国はかつてストラレイン王国とカラステア王国と協力して大陸を統一し、その後も二国とはいい関係を築いてきたはずだった。
わたくしを攫うということは、それを崩すつもりが二国にはあったということだ。
セレスティア帝国建国からかなりの年月が経っているので、ストラレイン王国もカラステア王国も意識が変わってきているのかもしれない。
「わたくしは、ミカのことが心配です」
わたくしが言えば、お祖父様とお祖母様がミカの方を見る。ミカはスプーンでゼリーを掬ってもりもりと食べている。
「皇帝陛下もセレナも、ミカエルのことは守ってくれるでしょう」
「セラフィナを守ったのと同じように」
お祖父様とお祖母様に言われて、わたくしは少しだけ安心していた。
お茶の時間の後はティールームでお祖父様とお祖母様と話をした。
「公爵だったころはかなり無理をしていて、体調も悪かったのですが、公爵位を譲ってこちらに移って静養するようになってから、体調も安定しました」
「この調子だったら、ひ孫の顔も見られるのではないでしょうか」
「ラファエルとアンリエットを急かすつもりはありませんよ」
「まだまだ元気ですからね」
お祖父様とお祖母様の話を聞いて、わたくしはほっとする。お祖父様は体の弱い方だし、いつ危なくなってもおかしくはないと聞かされていたので、体調が安定していると聞いて安堵した。
アルベルト様が微笑んでお祖父様とお祖母様に言う。
「わたしとセラフィナ殿下の結婚式までお元気でいてもらわないと」
「そうですね。アルベルト様とセラフィナの結婚の報告はぜひ聞きたいです」
「おめでたい話はどれだけあってもいいですからね」
わたくしとアルベルト様が結婚できるのは十年以上先のことになる。
そのときまでお祖父様とお祖母様には健康でいてほしいと願っていた。
お祖父様とお祖母様のお屋敷の料理は、素朴な味つけだったが、その分素材の味がよく出ていて美味しかった。量も宮殿の料理よりも少ないので、わたくしやミカでも全部食べられた。
宮殿では残すと使用人にお下げ渡しになるが、このお屋敷ではそういうことはないのだろう。わたくしにはわたくしが食べられそうなだけ、ミカにはミカが食べられそうなだけ、大人たちと違う量の料理が出てきた。
「このお魚のソテー、塩コショウだけなのに生臭くなくてとても美味しいです」
「新鮮な魚を仕入れているのです。この屋敷ではできるだけ新鮮なものを旬の時期に食べるようにしています」
「それが一番体によくて、体調もよくなると医者から言われています」
魚のソテーの味に感動しているミカに、お祖父様とお祖母様が微笑んで教えてくれる。わたくしも魚のソテーを食べたが、素朴な味つけだったが臭みは全然なかった。
「パンも毎日厨房で焼いてくれているのですよ」
「焼き立てパンなのですね! この緑色のものが美味しいです」
「それは南瓜の種です」
「南瓜の種!? 南瓜の種が食べられるのですか!?」
お祖父様に教えてもらって、パンに入っている緑色のナッツのようなものを摘まんでミカが驚いている。
「南瓜の種も炒ったら食べられるのですよ」
「とても栄養があるのです」
お祖父様とお祖母様のお屋敷ではこれまで食べたことのないものがたくさん出てくる。
それもお祖父様とお祖母様のお屋敷に来る楽しみでもあった。
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