22.ラファエルとアンリエットの結婚
学園の卒業式が終わると、慌ただしく宮殿ではラファエルお兄様の結婚式の準備が進められた。ラファエルお兄様もアンリエットお義姉様も十八歳で成人したばかりだが、皇族や貴族はその年齢で結婚することは珍しくない。
お父様は十九歳のときに、お母様は十八歳のときに結婚している。
お父様とお母様と違うのは、ラファエルお兄様もアンリエットお義姉様もアカデミーに進学することだった。
本当ならばお父様もお母様もアカデミーに進学したかったのだが、先代の皇帝であるお祖父様が皇帝位を退きたくて、それを許さなかった。そのため、お父様とお母様はラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が結婚してもアカデミーに進学するのは歓迎しているようだった。
学園の卒業式から二週間後、夏の盛りにラファエルお兄様とアンリエットお義姉様の結婚式は行われた。
結婚式なのでミカも当然参加する。
わたくしがアルベルト様の横に立って、ミカがわたくしの横に立って、最前列で結婚式に参加した。
ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様はお父様とお母様の前に出て誓いの言葉を述べていた。
「わたし、ラファエル・アストリアノスは、アンリエット・アルマンドールを妻とし、共に生きていくことを誓います。わたしたちは結婚後もアカデミーで勉強し、この国の役に立てるように努力していきたいと思っています。どうか、わたしたちの門出を祝ってください」
「わたくし、アンリエット・アルマンドールは、ラファエル・アストリアノスを夫とし、生涯愛し、敬い、共に生きていくことを誓います。結婚後もわたくしたちはアカデミーに進学し、政治学や法学などの知識を深めていきます。いつかラファエル様が皇帝となるときに、しっかりと支えられる存在となりたい。わたくしはそのために努力していきます」
二人の誓いの言葉はそれぞれの気持ちがこもった素晴らしいものだった。
拍手でお祝いをすると、ミカがベルンハルト公爵家の叔父様に促されて、前に出た。
ミカの手にはリングピローがある。
ミカは今日はラファエルお兄様とアンリエットお義姉様に結婚指輪を届ける大役を仰せつかったのだ。
おずおずと前に出てミカがリングピローを差し出すと、ラファエルお兄様がそこから指輪を取ってアンリエットお義姉様の左手の薬指に通す。続いて、アンリエットお義姉様がリングピローから指輪を取って、ラファエルお兄様の左手の薬指に通す。
「お兄様、アンリエットお義姉様、おめでとうございます!」
「ありがとう、ミカエル」
「ありがとうございます、ミカエル殿下」
大きな声でお祝いも言えたミカは、やり遂げた顔でわたくしの横に戻ってきた。
ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が誓いの口付けを交わし、拍手が沸き起こる。
「皇帝、ヘリオドール・アストリアノスの名のもとに、今日よりこの二人を夫婦として認める。ラファエル、おめでとう。アンリエット、これからは家族としてよろしく」
「ありがとうございます、父上」
「よろしくお願いします、義父上」
お父様の宣言で、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様の結婚が認められた。
結婚式の披露宴で、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様はテーブルを回って飲み物をグラスに注いでいた。
わたくしのテーブルはアルベルト様とミカとリヴィア嬢とセリーヌ嬢だったので、アルベルト様だけ葡萄酒を注いでもらって、わたくしとミカとリヴィア嬢とセリーヌ嬢は葡萄ジュースを注いでもらった。
「お兄様、アンリエットお義姉様、おめでとうございます」
「ありがとうございます、セラフィナ殿下」
「アンリエット、今日からは家族なのだから、セラフィナのことは『セラフィナ』と、ミカエルのことは『ミカエル』と呼んでくれると嬉しいな」
「よろしいですか?」
「もちろんです」
これからはアンリエットお義姉様も一緒に暮らすのだから、わたくしのことは気軽に呼んでほしい。ミカも同じ気持ちだったのだろう、こくこくと頷いている。
「それではよろしくお願いします、セラフィナ、ミカエル」
「はい、アンリエットお義姉様」
「よろしくお願いします、アンリエットお義姉様」
わたくしとミカが返事をすると、アンリエットお義姉様は恥ずかしそうに微笑んでいた。
結婚式は昼食の披露宴を終えると、夜会もあるのだが、夜会にはわたくしとミカは参加できなかった。
わたくしとミカは部屋に戻って着替えて、二人で夕食を食べる。
「アンリエットお義姉様、とてもきれいだったの。ラファエルお兄様も格好よくて」
「そうでしたね」
夕食を食べながらミカとわたくしはしみじみとアンリエットお義姉様とラファエルお兄様の姿を思い出していた。
アンリエットお義姉様はマーメイドラインの純白のドレスに長いヴェールを被っていた。ラファエルお兄様は白いタキシードを着ていた。
二人ともとても素敵で、お似合いだった。
ラファエルお兄様はとても背が高いのだが、アンリエットお義姉様はそれに合わせてヒールの高い靴を履いていて、それがまた格好よくて美しかった。
「お姉様も結婚するときにはあんなドレスを着るの?」
「着られたらいいと思います。わたくしの身長がどれくらい伸びるか分かりませんが、アルベルト様に相応しい格好ができたらと思います」
「お姉様は結婚する方が決まっていていいなー。わたしも決まらないかな?」
「ミカには少し早いですね。もう少し大きくならないと無理ですよ」
「でも、お姉様は五歳で婚約したのでしょう?」
ミカに指摘されてわたくしはそうだったと思い出す。
わたくしの中では、クラリッサだったころの記憶があるので、わたくしは小さく幼いイメージではなかったが、皇女セラフィナとしてアルベルト様と婚約したときには、今のミカと同じ五歳だった。
「五歳で婚約するというのはとても珍しいことなのです。ストラレイン王国とカラステア王国から何度も結婚の申し込みが来ていて、それを断るために、仕方なく五歳でわたくしは婚約したのです」
「仕方なくなの? アルベルトお兄様のことが好きで婚約したんじゃないの?」
ミカに言われてわたくしは考え込んでしまう。
わたくしはアルベルト様が好きなのだろうか。
もちろん、アルベルト様のことが嫌いなわけはない。むしろ大好きだ。けれど、それが恋愛感情かといわれると、わたくしは迷ってしまうのだ。
前世のクラリッサは恋をするような余裕はなかったし、今世のわたくしは恋をするにはあまりにも幼すぎた。
アルベルト様のことは好きだが、それが恋愛感情かどうか分からない。
「好きですが、わたくしがミカに対する好きや、お兄様に対する好きとどう違うのか分からないのです」
「それではいけないの?」
「いけない……どうなのでしょう? わたくしにもよく分かりません」
家族に対する好きと言う感情とアルベルト様に対する好きと言う感情は、今は変わりないように思える。
わたくしは恋を知らない。
お父様がお母様と出会って、お母様の演奏会を聞きに行ったような感情とは、わたくしの好きは違っているのではないだろうかということだけは分かる。
「恋とは難しいのです」
「わたしもいつか恋をするのかな?」
「ミカには好きなひとと結婚してほしいです」
わたくしもアルベルト様のことは恋愛感情かは分からないが好きなので婚約できてよかったと思っている。
ミカも好きな相手と婚約して結婚してほしいとわたくしは思っている。
「わたし、リヴィア嬢が好きなんだけど、セリーヌ嬢も好きなの」
「それは、まだ恋ではありませんね」
「違うの?」
「恋とはたった一人を強く大事にしたいと思うことだとわたくしは考えます。二人同時に好きになるのは濃いではないと思いますよ」
「そうか……。ダニエルのことも大好き! ルカ様も!」
「それは友情の好きですね」
五歳のミカには恋はまだ難しい。
わたくしにも、恋はまだまだ難しかった。
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