19.成人の儀式と音楽会
ラファエルお兄様とアルベルト様のお誕生日が終わると、皇族の成人の儀式が執り行われる。
成人の儀式ではラファエルお兄様とアルベルト様は皇帝陛下と皇后陛下であるお父様とお母様に挨拶をして、食事をし、その後で皇族にお披露目をしてバルコニーから国民に手を振る。
わたくしは皇族のお披露目から参加することになっていた。
今日はミカも皇族の一人として参加する。
わたくしとミカの他に参加するのは、ベルンハルト公爵家の叔父様だった。
ベルンハルト公爵家の叔父様はお父様の弟で、皇族に当たる。先代の皇帝陛下の子どもはお父様とベルンハルト公爵家の叔父様しかいないので、叔父様はベルンハルト公爵になっているが、皇族から外れていないのだ。同じようにアルベルト様も皇族に入っている。
ラファエルお兄様が生まれてから、お父様とお母様は長く子どもができなかった。そのためにアルベルト様も皇族として受け入れ、ラファエルお兄様に何かあったときには皇太子として引き取るつもりだったのだろう。
今はわたくしとミカが生まれているのでそんな心配はないが、アルベルト様が皇族であることは変わりなかった。
成人の儀式の日、わたくしとミカは早めに昼食を食べて、子ども部屋で待機していた。呼ばれたらすぐに移動しなければいけない。
ミカもハーフ丈のトラウザーズのかわいいフロックコートを着ていて、体はわたくしと変わらないくらい大きいので年齢が分からなくなりそうだった。
「おねえさま、おにいさまとアルベルトおにいさまに、おめでとうっていっていいの?」
「それは今回は控えましょうね。静かに見守りましょう」
「はい」
ミカに聞かれてわたくしは答える。
ミカが皇族として恥をかかないようにしてやりたかった。
時間が来てわたくしとミカが呼ばれて、大広間に移動する。
大広間にはお父様とお母様とベルンハルト公爵家の叔父様が集っていた。
ミカがお母様の横に来て手を繋ぎ、わたくしがミカと手を繋いだ。
黒いテイルコートを着たラファエルお兄様とアルベルト様が大広間に入ってくる。
お祝いをする皇族はみんな白い衣装を身に纏っているので、ラファエルお兄様とアルベルト様だけがとても目立つ。
「父上、母上、叔父上、セラフィナ、ミカエル、今日はわたしの成人の儀式に立ち会ってくださってありがとうございます」
「皇帝陛下、皇后陛下、父上、セラフィナ殿下、ミカエル殿下、これからも皇族としてよろしくお願いします」
通り過ぎるときに小さく挨拶をするラファエルお兄様とアルベルト様に、お父様もお母様も叔父様も頷いている。わたくしも声をかけたかったが、頷くだけに留めた。
ラファエルお兄様とアルベルト様が大広間のバルコニーに出て手を振る。
宮殿の外で見ている国民から声が上がった。
「皇太子殿下万歳!」
「ベルンハルト公爵令息、万歳!」
穏やかに手を振る二人の背中が見えて、わたくしは胸がいっぱいになっていた。
成人の儀式が終わった後で、着替えてはいないが寛いだ雰囲気で、みんなでティールームでお茶をした。
お茶の席でミカはやっとラファエルお兄様とアルベルト様にお祝いを言っていた。
「おにいさま、アルベルトおにいさま、おめでとうございます。せいじん……えーっと、せいじんってなぁに?」
「大人になったということだよ」
「これからは結婚もできるし、家督を譲られることもできる」
「かとく……かとくってなぁに?」
「家督を譲られるとはその家の当主になることだよ。ラファエルなら皇帝になる。わたしなら、ベルンハルト公爵になる」
まだよく意味の分かっていないミカに、ラファエルお兄様とアルベルト様がかみ砕いて教えている。ミカは話を聞きながら頷いていた。
「おさけものめるようになるの?」
「お酒はもっと早くに飲めるかな」
「この国では食事と一緒ならば十五歳くらいからアルコールを飲んでいいと決まっているからね」
十五歳。
それは社交界デビューする年だった。
社交界デビューすると夜会にも出ることができるので、そのときにアルコールが飲めるようにという配慮なのだろう。
「わたしは、もうすぐごさいだから、あとじゅうねん」
「ミカエルはお酒が飲みたいのかな?」
「はい。しょくじのときに、おとうさまがのんでいるから、きっとおいしいのだとおもいます」
「わたしはアルコールはそれほど好きじゃないな」
「わたしも」
「え!? そんなにおいしくないのですか!?」
ラファエルお兄様とアルベルト様がそれほどアルコールが好きではないということを聞いて、ミカは目を丸くして驚いていた。
成人の儀式が終わって数日後に、わたくしとリヴィア嬢とセリーヌ嬢の演奏会が宮殿で開かれた。
そこにはお父様とお母様も来てくださった。
宮殿の音楽室で、リヴィア嬢のバイオリンとセリーヌ嬢のピアノに合わせてわたくしが歌う。
ラファエルお兄様もアルベルト様も、ミカも、集中して聞いていてくれた。
リヴィア嬢の誕生日に歌ったのと同じ曲だったが、前よりもずっと上手に歌えた気がした。
演奏が終わるとお父様もお母様もラファエルお兄様もアルベルト様も、大きな拍手を送ってくれた。ミカは小さな手で一生懸命拍手をしていた。
演奏会の後はお茶の時間になった。
お茶の時間にお父様とお母様がわたくしたちを褒めてくださる。
「リヴィアの誕生日でセラフィナが歌ったことは知っていたが、それを聞けるとは思わなかった。リヴィアの誕生日には行けなくてすまなかった。でも、リヴィアもセリーヌもセラフィナも素晴らしかった」
「セリーヌ嬢がリヴィア嬢とセラフィナとの演奏を発案してくださったのですね。とてもかわいらしくて素晴らしい演奏でした。聞けて嬉しかったです。ありがとうございます」
お父様もお母様も絶賛してくれて、わたくしは鼻が高くなる。
「お茶会でも聞いたけれど、今回は特に上手だった気がするよ」
「リヴィア嬢のバイオリンとセリーヌ嬢のピアノに、セラフィナの声がのびやかで、三人ともとても上手だった」
ラファエルお兄様とアルベルト様もわたくしたちの演奏に満足してくださったようだった。
「おねえさまも、リヴィアじょうも、セリーヌじょうも、すばらしかったです。わたしもいっしょにうたいたかった」
「ミカエル殿下がお茶会にデビューする年になったら一緒に歌いましょう」
「やくそくですよ、セリーヌじょう」
「わたくしもミカエル殿下と演奏できるのを楽しみにしていますわ」
「よろしくおねがいします、リヴィアじょう」
歌いたいミカには、セリーヌ嬢もリヴィア嬢も快く迎え入れるつもりのようだった。
「毎年誕生日が演奏会でもいいね」
「最高の誕生日プレゼントだね」
形に残るものではなかったけれど、ラファエルお兄様とアルベルト様は演奏が誕生日お祝いということを喜んでくれていた。わたくしもそう言われるとこれからももっと練習していこうと思う。
「なんだかわたくしも歌いたくなりましたわ」
「皇后陛下、よろしければ、わたくし、伴奏を弾きます」
「わたくしもバイオリンを弾きます」
歌うことに意欲を見せたお母様に、セリーヌ嬢とリヴィア嬢が素早く申し出る。
それに対して、ミカも元気よく手を上げた。
「わたしも、うたいたいです!」
「ミカエル、一緒に歌いましょうか」
「はい!」
お茶の時間が終わると、もう一度音楽室に戻って、お母様とミカの歌が始まった。練習しているからか、セリーヌ嬢もリヴィア嬢も、ほとんど初見の楽譜でも演奏できた。セリーヌ嬢とリヴィア嬢がお母様とミカがリクエストした曲を弾いて、お母様とミカが歌う。
即興の音楽会がもう一度始まってしまったが、お父様もラファエルお兄様もアルベルト様も、わたくしも、この音楽会を楽しんでいた。
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