17.リヴィアの誕生日の演奏会
学園の冬休みが終わった。
夏に卒業を控えているラファエルお兄様とアルベルト様とアンリエットお義姉様とユリウス様とレティシア嬢にとっては、学園で最後の長期休暇だった。
そんな時期にわたくしは家族でルクレール公爵家のお祖父様とお祖母様に会いに行けて本当によかったと思っていた。
冬の終わりにはリヴィア嬢のお誕生日がある。
昨年のリヴィア嬢のお誕生日では、わたくしとセリーヌ嬢がピアノの連弾をして、リヴィア嬢がバイオリンを弾いて合奏をしたけれど、今回もセリーヌ嬢は計画していたことがあったようだ。
週末にお茶をしに来たセリーヌ嬢がわたくしとリヴィア嬢に提案した。
「セラフィナ殿下は歌がお上手と聞きました。リヴィア嬢のお誕生日に、わたくしがピアノの演奏を、リヴィア嬢がバイオリンの演奏をして、セラフィナ殿下が歌われるのはいかがですか?」
「わたくし、歌うのですか?」
「はい。セラフィナ殿下のお母君の皇后陛下も、学園に在学中は声楽の授業を選択していて、とても素晴らしい歌声だったと聞いています。セラフィナ殿下も声楽の才能がおありなのではないでしょうか」
お母様とミカが声楽に熱心なので、わたくしは自分が特に上手だと感じたことはないが、セリーヌ嬢やリヴィア嬢にしてみれば、わたくしは声楽は上手な方のように思われているようだ。
そう言われると悪い気はしない。
わたくしはその日から、セリーヌ嬢とリヴィア嬢と練習を始めた。
セリーヌ嬢がピアノを弾いて、リヴィア嬢がバイオリンを弾く。リヴィア嬢の手にしているバイオリンを見て、わたくしは気付いたことがあった。
「そのバイオリン、小さいのですね」
「そうなのです。バイオリンは、体の大きさによって大きさを変えるのです。これはお姉様が小さなころに使っていたバイオリンです」
ピアノは体の大きさに関わらず同じものを使うが、バイオリンは体の大きさに合わせて大きさを変えていくのが一般的なようだ。庶民が音楽を簡単に習えないのは、こういう理由もあるのかもしれない。年齢によって楽器を買い替えるなど、相当お金がかかってしまうだろう。
セリーヌ嬢のピアノとリヴィア嬢のバイオリンに合わせて歌うと、声がのびやかに出るような気がする。指導に当たってくださっているオトテール先生も、わたくしたちの演奏を褒めてくださった。
「リヴィア嬢はバイオリンの音色がとてもいいですね。セリーヌ嬢はピアノが見事です。セラフィナ殿下は声楽がますますお上手になられました」
褒めてくれた後で、オトテール先生は細かな修正点を指導してくれたけれど、わたくしたちは褒められたので意欲的に練習に励むことができた。
冬の終わりのリヴィア嬢のお誕生日で、わたくしはセリーヌ嬢とリヴィア嬢と一緒に大広間で演奏を披露した。
大広間に設置されたピアノにセリーヌ嬢が座り、リヴィア嬢がバイオリンを構えてピアノの脇に立ち、わたくしもピアノの脇に立つ。
演奏が始まると、わたくしは息を吸って歌い始めた。
簡単な曲だったけれど、ピアノとバイオリンの音色に合わせて歌うと、とても豪華に聞こえる。
歌い終わると、たくさんの拍手をいただけた。
「セラフィナ、リヴィア嬢、セリーヌ嬢、とても上手だったよ。ミカエルにも聞かせてあげたいね」
ラファエルお兄様がわたくしに歩み寄って褒めてくれるのに、わたくしはリヴィア嬢とセリーヌ嬢を見る。二人は頷き合っている。
「宮殿の音楽室でミカエル殿下にお聞かせしましょう」
「ミカエル殿下は今日は来られませんでしたからね」
ミカのことまで気にかけてくれるリヴィア嬢とセリーヌ嬢にわたくしは深く感謝する。
「セラフィナ、リヴィア嬢、セリーヌ嬢、とても素晴らしかったです。リヴィア嬢はお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
アルベルト様もわたくしたちを褒めてくださった。
「わたくしのお誕生日には、毎年セラフィナ殿下とセリーヌ嬢と演奏会をしたいです。わたくしのバイオリンの上達を皆様に聞いていただきたいし、セラフィナ殿下とセリーヌ嬢と演奏するのはとても楽しいです」
「わたくしもリヴィア嬢とセリーヌ嬢と演奏するのは楽しいです」
「来年も演奏しましょうね」
リヴィア嬢が白い頬を赤く染めて言っているのに、わたくしとセリーヌ嬢も同意する。
来年もリヴィア嬢のお誕生日で演奏ができたらいいと思っていた。
演奏会の後はお茶会があって、わたくしはアルベルト様の横に座った。
しばらく会えていなかったアルベルト様には話したいことがたくさんあった。
「お兄様の冬休みの間に、ルクレール公爵家のお祖父様とお祖母様に会ってきたのです。お祖父様は体が弱いと聞いていたのですが、お元気そうで、わたくしたちを歓迎してくださいました」
「それはよかったね。わたしには祖父母がいないようなものなので、羨ましいよ」
「そうなのですか?」
「父方の祖父母は……セラフィナも知っているだろう? 母方の祖父母は亡くなっているからね」
「そうだったのですね。わたくし、知らずに無神経なことを言ってしまいました」
「気にしなくていいよ。セラフィナが嬉しいと、わたしも嬉しいからね」
笑ってくださるアルベルト様に、わたくしは申し訳ないような気分になっていた。
「この冬休みは、学園最後で、卒業論文の仕上げなどもあってセラフィナにはほとんど愛に行けなかったね。元気にしていた?」
「卒業論文でお忙しかったのですね。わたくしたちはみんな元気でしたよ」
アルベルト様も学園の最終学年ということで卒業論文などに忙しかったようだ。
ラファエルお兄様もそういえば自室にこもって勉強していることが多かった気がする。
「アルベルトは卒業論文は終わった?」
「ほとんど終わったよ。後は使用した論文を纏めて記載するだけかな」
「わたしもほとんど終わっているよ」
正面に座っていたラファエルお兄様がアルベルト様に声をかけている。
「わたくしも卒業論文は終わらせました。アカデミーに進学するので、その準備もありますからね」
アンリエットお義姉様も卒業論文は冬休みの間に終わらせたようだった。
学園を卒業したら、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様は結婚する。
その日が楽しみなような、寂しいような、複雑な気持ちになってしまう。結婚してしまったら、ラファエルお兄様は皇帝一家の住む棟を出て、離れに移るだろう。そうなると、これまでのように気軽に会えなくなってしまうかもしれない。
「アカデミーではアンリエット嬢と同じ授業を取ることが多いだろうから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、ラファエル殿下」
仲睦まじいラファエルお兄様とアンリエットお義姉様の様子を見ていると、二人の幸せを祝わなければいけないという気持ちになってくる。
それでも寂しさがつい口から漏れた。
「お兄様とアンリエットお義姉様は、宮殿の離れに住むようになるのですよね?」
思わず言ってしまったわたくしに、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が顔を見合わせている。
「そのことについてはアンリエット嬢と話をしているんだ。わたしもアンリエット嬢も学生だから、まだ二人だけで暮らすのは早いと思っている。アンリエット嬢には皇帝一家の住む棟に来てもらって、そこに部屋を用意してもらおうかと思っているんだ」
「え!? お兄様は出て行かないのですか?」
「その……学生だから子どもを作るのも早すぎると思うからね。アカデミーに在学中の四年間は、一緒に暮らすよ」
ラファエルお兄様は出て行かない。それどころかアンリエットお義姉様まで一緒に暮らせることになる。
後四年間皆での暮らしが伸びることになって、わたくしは胸が浮き立つ思いだった。
読んでいただきありがとうございました。
面白いと思われたら、ブックマーク、評価、リアクション、感想等よろしくお願いします。
作者の励みになります。




