16.旅の後半
ルクレール公爵家の夕食は凝ったものではなかった。
野菜は焼いて塩をかけただけのものが出て来たし、肉もハーブで香り付けして塩コショウで味付けされただけのものだった。宮殿ではとても凝ったソースやドレッシングをかけているので、素朴な味つけの料理は新鮮だったがとても美味しかった。
量も多すぎず、野菜料理が一品と肉料理が一品だけだったので、わたくしも全部食べられた。
夕食が終わるとお茶を飲みながらお祖父様とお祖母様と話をした。
「皇帝陛下が平和にこの国を治めてくださっているおかげで、わたしたちも静かに暮らせます」
「国民からの支持も高いようで安心しています」
「父上の代では議会の議員は貴族がほとんどでしたし、父上もそれに従っているだけでしたからね。今は議会の三分の一は国民が選んだ平民の議員がいます。富裕層だけでなく、どんなものも議員に慣れるように制度を変えています」
お祖父様とお祖母様とお父様の話は少し難しかったけれど、お父様が皇帝になってから議会の在り方から変えたのだということが理解できた。
食後のハーブティーは、お茶の時間に飲んだものと違っていたが、これもいい香りがして美味しかった。
「このおちゃもおじいさまとおばあさまがつくったの?」
「このお茶はよく眠れるようにハーブを配合して作りました」
「ミカエルもよく眠れますように」
「わたし、ねむくなってきちゃった」
ミカが欠伸をしたところで、食後のお茶は解散になった。
部屋に戻って順番にお風呂に入ると、お母様が暖炉の前に座っているわたくしとミカの髪をブラシで梳いてくれる。わたくしの真っすぐの銀色の髪と、ミカの少し癖のある赤毛が艶々になったようで、心地よく暖炉に当たっていると、お母様がわたくしたちを順番に抱き締めた。
「セラフィナとミカエルをわたくしのお父様とお母様に会わせることができてよかったと思っています」
「お母様……」
「今は元気にしていますが、ひとの命とは分からないもの。父はいつ何が起きてもおかしくはないですからね」
元気にしているように見えるお祖父様も、いつ何が起きてもおかしくはない状態だったようだ。だからこそ、お父様とお母様は時間を作ってわたくしたちがお祖父様とお祖母様に会えるようにしてくださったのだろう。
「ラファエルも今年成人で、お父様とお母様に祝ってほしかったですし」
「お祖父様とお祖母様、お兄様と会えて嬉しそうでしたね」
「ラファエルがミカエルくらいだったころには会いに来てくれていたのですが、それも難しくなって、疎遠になっていました。わたくしの父と母なのですから、もっと早くにセラフィナとミカエルを会わせておけばよかった……」
「今からでも遅くありません。わたくし、またお祖父様とお祖母様にお会いしたいです」
「わたしも、おじいさまとおばあさまと、てづくりのおちゃをのみたいです」
わたくしとミカが言えば、お母様はわたくしとミカを抱き締めていた。
翌日の朝食は目玉焼きとハムとサラダとパンだった。
目玉焼きも塩コショウで味付けをするだけだったし、サラダも塩だけで味をつけられていた。
宮殿とは全く違う食事だが、わたくしもミカも問題なく食べることができた。ミカは食いしん坊なのでパンをお代わりしていた。
「おじいさま、おばあさま、このパン、なにかはいっています。ぷちぷちしてとてもおいしいです」
「それはヒマワリの種ですよ」
「ヒマワリのたねがたべられるのですか!?」
「ヒマワリの種は炒って殻を剥くととても美味しいのです」
「そのヒマワリの種も、夏に庭で収穫したものですよ」
お祖父様とお祖母様に教えられてミカは驚きに目を丸くしていた。
わたくしもヒマワリの種を食べたのは初めてだったので、こんなに美味しいものなのかと驚いてしまった。
朝食が終わると、帰らなくてはいけない時間になる。
名残惜しい思いのわたくしに気付いたのか、お祖父様とお祖母様は玄関までわたくしたちを送ってくれて、わたくしとミカとラファエルお兄様とお母様に、順番にハグをした。
「また来てください。今回は会えてとても嬉しかったです」
「わたくしたちは長旅ができません。来てくださるのを待っています」
「お祖父様とお祖母様のところに必ず参ります」
「またきます! それまでげんきでいてください!」
「結婚したら、アンリエット嬢を連れてきます」
わたくしもミカもラファエルお兄様も、お祖父様とお祖母様と約束をして馬車に乗った。
馬車で途中休憩を入れながら、ルクレール公爵家まで半日揺られる。
ルクレール公爵家ではユリウス様とルカ様と伯父様と伯母様が迎えてくれた。
「父上と母上の様子はどうでしたか?」
「とてもお元気そうでしたよ。ハーブを育て、ハーブティーを作っていました」
「わたくしたちもときどき会いに行くのですが、あまり賑やかすぎるのもお困りになるでしょう? ルカはやんちゃですし」
伯父様と伯母様に、お母様が穏やかに答えている。
伯父様と伯母様とユリウス様とルカ様は、ときどきお祖父様とお祖母様に会いに行っているようだった。
「おばあさま、おかあさまににていたの」
「そうですよね。お祖母様は皇后陛下にとてもよく似ています」
「おねえさまにもにていたの」
「セラフィナ殿下は皇后陛下に似ていますからね」
ミカはルカ様にお祖母様のことを話していた。
ルクレール公爵家でお茶をして、夕食も食べて、お風呂に入って客間で休むときに、ミカがまたお母様に言っていた。
「おかあさま、いっしょにねむってもいい?」
「いいですよ。おいでなさい、ミカエル」
「わたし、りょこうだいすき。おかあさまとねむれるから」
皇族として小さなころから乳母に託されて育つのは仕方がないのだが、ミカはお母様と一緒に眠れないことに寂しさを感じていたようだ。旅行という特別の場合に限って、お母様と一緒に寝られるのも悪くはないだろう。
翌日、朝食を食べてわたくしたちは列車に乗って帝都まで行き、馬車に乗り換えて宮殿に戻った。
お祖父様とお祖母様はわたくしたちにお土産を持たせてくれていた。
お祖父様とお祖母様が作ったハーブティーだ。
その日のお茶の時間はお祖父様とお祖母様が作ったハーブティーが出て、わたくしたちはお祖父様とお祖母様のことを思いながらお茶の時間を過ごした。
「またお祖父様とお祖母様にお会いしたいですね」
「わたし、ヒマワリのたねがはいったパンをまたたべるの!」
「お祖父様とお祖母様のお屋敷の料理もまた食べたいね」
わたくしとミカとラファエルお兄様が話していると、お茶をご一緒していたお父様とお母様が言葉を添えてくださる。
「わたしたちが行くのは難しいけれど、ラファエルとセラフィナとミカエルで行けるときには行っても構わないよ」
「わたくしのお父様とお母様に会って来てください」
「ラファエルは特に、結婚したらアンリエットを連れて行くといい」
「ラファエルのお嫁さんと会えたらお父様とお母様も喜ぶことでしょう」
お父様とお母様が時間を作るのは難しいが、わたくしたち兄弟だけならば行っても構わないと許可を得た。ラファエルお兄様はアンリエットお義姉様を連れて行くのだろう。
そのときに、わたくしとミカも一緒に行きたいと思っていた。
「本当ならば、お祖父様とお祖母様にも結婚式には出席してほしいのですが、お祖父様のお体のことを考えると難しいですよね。わたしの方から行けばいいのですね。アンリエット嬢と話をしてみます」
「ぜひそうしてくれ」
「お父様もお母様も喜びますわ」
お父様とお母様の言葉に、ラファエルお兄様は深く頷いていた。
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