第一章41 『マイのスキル9』
あー。みんなと離れてしまったか。
「どうしますかね。いや、半矢にしてしまったからには、責任もって倒さないとですが……」
半矢というのは、手負の動物のことだ。半矢は逃げることもあるが、完全に敵対視をして凶暴になることもある。
自分以外の人に被害が加わってしまうことが今は怖い。
「シャルさんには悪いけど、特にマイさんとユウさんは失ったら痛いよな。多分ユリオスを倒すのは困難になるから……」
この犬に襲われた時、咄嗟に銃をこめていなかったため、散乱銃に持ち替えて撃ち込んだが、銃身がぶれてしまい、掠っただけだったらしい。
あの犬の……犬って言っても自分の身長よりでかいんだよな。
スナイパーでここから狙うのが1番か。ここから走ってきたとしても、次の球を込めて打てるはずだ。
「こっちからは見えてるけど、あっちは気づいてない。最初の一発は確実に入れられるだろうな。その後のことはわからんが。気づかれてないのも、魔力が全くないからと思うと、少し悲しいけど」
スナイパーを構え、引き金に指をかける。
銃の上に取り付けてあるスコープを覗き、丸の中の十字架の交わるところを頸動脈の部分に。
「少し落ちるのも考えれば……」
少し上に上げる。風はほとんどないとも言えないが、微風で調節が難しい。
「あまり影響がないといいが。こんなもんだな」
自分の動きを止めて、呼吸すら止める。1ミリたりともブレは許さない。
この揺れる心臓も止まって仕舞えばいいのにと思うことがあるが、それだけはできない。
「当たり前か」
引き金にかけた指を軽く自分の方に動かし、絞る。
その瞬間に音と共に放たれた鉄の球は、犬に一直線に飛んでいく。
「命中」
当たったことはここからでもわかるが、果たして絶命させることはできただろうか?
次弾を指に挟んで、スナイパーに装弾。
もう一度構えて、犬に銃口を向ける。
少しブレたため、急所は抜けなかったか。
「もう一発……」
犬がこっちを見やがった。
こっちから一方的にちまちまやらせてくれないっていうことか。
「まあいい。これこそが、狩猟だよ。敬意を払って、真剣勝負とさせてもらおうじゃないか」
犬はどんどんと距離を詰めてきている。
周りの木々は折りながら、こちらに。
「狙いは、変わらずに頸動脈。こっちが急所をつけば、こっちの勝ちだ。そして、俺に避けられずに俺を仕留めれば、そっちの勝ち」
勝負は一瞬。
呼吸を整えて、スコープを除く。
スコープの丸の中は犬の毛並みによって埋め尽くされた。
もっと。もっと引きつけろ。
そして、引き金を。
「絞れ」
音と共に鉄の球が飛んでいく。それは、相手に音が届く前に鉄の球を与える。
あたりどころが悪くなければ、死ぬはず。至近弾だ。
犬からしたら、こっちの良いあたりは、悪いだろうけど。
犬の進行方向がいきなり変わった。
「命中」
犬は倒れたが、油断はできないので少しずつ銃を構えて近づいていく。
動かない。息は多分していないから……。
「やった……か?」
顔を少し突いてみる。全く動かない。しっかりと急所は打ち抜くことができたみたいだ。
次に行こう。必要ならあとでこいつの肉は取りに来れば良い。
銃声が聞こえた。ノールさんが撃ったのだろう。
「どうやらノールはやられてないみたいだわね」
「そうだね。でも、この獣も殺れてない」
早く倒さなければ。
地面を蹴って、浮遊魔法で加速。距離を詰めて魔法で作った短剣ですれ違い際に切り裂いていく。
それに気を取られた獣にシャルが上から重い一撃を。しかし、避けられる。
それも分かっていたというふうに、シャルは着地してすぐに地面を蹴って避けた方向に連撃を。
僕はその後ろに回り込んで、挟み撃ちに。回り込むことはできたが、後ろに飛んで逃れられそうだ。
「暴爆」
「炎系魔法」
事前にそれを阻止する。
シャルは前方に魔法を放った。
このままではやられると思ったのか、比較的弱いシャルの出した火に突っ込んでいった。
確かに最善の判断だろう。
もう一度距離を詰める。
「もっと深く刺さないと致命傷になりませんわ」
「もっと?」
「切り裂くんじゃなくて、ぶっ刺すのよ」
物騒な言い方するなぁ。剣の使い方については、シャルの方が上のなので信じるのが吉だろう。
距離を詰めたところで、両手の剣を刺す。
抜ける気がしないので手放し、もう一度新しいものを作り出す。
それですら効いている気がしない。
「マイ。ここから私がどうなっても、この獣を倒すことだけに集中しなさい」
「は?」
何するか知らないけど、回復魔法だけはいつでもかけられるようにするか。
「こっちよ」
そう言ってシャルは武器を落とす。
「は?何を?」
そんなシャルに犬は前足をあげて襲いかかる。
しかし、その武器を悠々と取ろうとしている。
なるほど。そういうやつか。
どこかで聞いたことがある。武器を落としたところで油断させて反撃をするとか。
魔物にそれをやるような人なんて聞いたことがないけど。
「まあ、効果は多少なりあるみたいだな」
シャルが真後ろに飛んで獣の攻撃を避けた。
しかし、あの距離だったので避け切れなかった。まあそうだよね。
「回復魔法」
自分は、シャルと模擬戦をやった時のように……ユウとだったっけ?どっちでも良いや。
地面に背中がつくくらいまでスレスレに飛んで獣の腹の下に入る。
そっか。この至近距離から当てれば避けるなんてことはできない……よな。
不安になっていてもしょうがない。撃ち込むしかない。
「通常攻撃魔法」
……外したか?一瞬空が見えた。しかし、そこが赤く染まり、空いた穴から空が見えただけだと気づく。
「汚い。結界」
結界によって、血は全て受け止められる。
絶対触りたくないもん。
最初っからこの結論に至ってればな。
「私が危険を冒した意味なくなかった?」
「無かったかも」
「ふざけるんじゃないわよ!まあ良いわ。無事だったし」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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