第一章17 『畑を荒らす者2』
後ろからバックハグをされる。歩きにくい。
「なーんで嫌そうなの?お姉さん泣いちゃうよ?」
「同い年だ。もっといえば僕の方が数ヶ月早く産まれてる」
そうだ。僕はユウより早く産まれているはずだ。なのになぜ僕の方が背が低い?
女の子の方が身長が伸びる時期は早いと言われているが、それにしてもおかしいのではないのか?
「まあまあ。とりあえず部屋行くよ」
鍵を開けて部屋に入る。少し広めのところに荷物を置いたら、ユウは鎧を外してベットに座っている。ベットとベットの間は広く空いている。
「今日はあいだに落ちるね」
「え?何の話?」
結局、風呂に入ってしまおうという数日前と同じようなことになる。
「ありゃ。マイさんも風呂ですか」
僕がうんざりして歩いていると、ちょうどあの角のところでノールさんが話しかけてきた。
「誠に不本意ながら」
「ご飯食べる前に入るんですね。俺もさうなんですけど」
「そっちの方が人が少ないんで」
「思ったより考えてるんですね」
なんか少し馬鹿にされた気がする。まあいいや。
「いやぁ。あったけぇ」
リンスなどをしない僕はノールさんよりも早く湯船に浸かっていた。表面積が小さいというのもある。
「ユウさんってマイさんのこと確実に好きですよね。マイさんはどうなんですか」
話し出したと思ったら、夜にお泊まり会をした時のような話題だ。
「好きだけど、ユウのが重い」
「とはいえ、確かに重そうですよね。あんだけ受けきれてるのがすごいと思いますよ」
「4割くらいだけどね」
「それでも多い方だと思いますが」
一応言っておくが、嫌なわけではない。
ただし、疲れる。
「旅が終わるまではっていう暗黙の了解みたいのがある」
「旅が、終わるまでは。ですか。何か付き合ってはいけない理由とかでもあるんですか?」
「え?」
「すみません。意地悪な質問でした。俺はサウナに入ってくるんで。もし、先に出てるようなら、ユウさんに7時くらいに食堂に行くと伝えておいてください」
「……」
付き合ってはいけない理由。そんなものは、ない。はずだ。
昨日は何の被害も受けずに寝られた。ユウがどこに落ちてかは知らない。
「おはよう。さっきね、村の人が来て農作物を荒らす狼を倒して欲しいって言われて。行ってくるから」
ユウは鎧を着ていた。もうすぐに出発するのだろう。時刻は10時だ。ノールさんはもう起きているだろうか。
「いってらっしゃい。ノールさんは?」
「そこは僕もいくとは言ってくれないのね。ノールさんは村の方で色々見てると思う」
「わかった」
二度寝をすることにする。
そして起きたのが12時。出発は明日なので、今日はなにをやっていてもいい。
「とりあえずお腹減ったから昼飯かな」
宿を出て露店でパンを買って食べた。ノールさんもいないか少し探してみたが、いなかった。もう少し本気で探せばいたのかもしれない。
そして近くの魔道具屋で本や魔道具を漁るが、なに一つとして掘り出し物はなし。腕を上にあげて伸びをすると欠伸が出た。
「ねえ。君1人?」
「暇だったら少し遊ばない?」
前から近づいてきた3人組が話しかけてきた。
「1人じゃないし暇じゃない」
そう、バカでも嘘とわかるような嘘をついた。めんどくさいことになった。
「ああ。そっかー。とはなんないよ?みるからに1人じゃん」
あーあ。嘘がバレちゃった。
「そっかー。3人には見えないんだね。あなたの首筋に小刀当ててる人がいるんだけど?」
3人の中の1人を指差す。
「え?は?」
1人は慌てているようだが、他の奴らは笑ってそんなわけねえだろ。と笑っている。
「じゃあね」
もう少し遊びたかったけれど、もうつまらない。なんかもっといい暇つぶしはないだろうか?
「なに言ってるんだよ?1人なら遊ぼうぜ?」
肩を掴んで、腕を巻き付けてきた。
「じゃあ何か買ってくれない?」
「いいよ。なにが欲しんだ?」
「バターナイフ」
少しの間の沈黙。
「は?なにに使うの?」
「護衛用」
3人が大笑いした。バターナイフでなにができるんだよ。そう言っている。
僕はいたって真面目に言っているのだが、なにが面白いんだろうか?
「じゃあ、一緒に遊んでからね。そのあと買ってあげるから」
「なにして遊ぶんですか?模擬戦?」
「そう。俺らとバターナイフで。じゃなくて」
「もっと楽しいことだよ。もっと楽しいこと。ある意味模擬戦みたいなね」
杖を取り出す。
「模擬戦ならここでやりましょう。1対3でいいですよ」
「うわ。まさかの魔法使いかよ。確かに1対3なんだけどそういうんじゃないんだよ」
「じゃあ。こっちから行かせてもらいますね?」
「待った待った待った」
やっと危機感が出てきたみたいだ。悪いが容赦無くやらせてもらう。落ちていた石を3つ浮かべ、3人の顔に叩きつける。訳でなく、ちゃんと寸前で止める。
「よし。僕の勝ちだね。遊び終わったからバターナイフ買ってくれる?」
「こ、こいつやばい。話しが通じない」
何だか怖がらせすぎたみたいだ。3人は逃げていった。肝が座っていない輩だったため今回はよかったが、やっぱり護衛用としてバーターナイフを持っておいてもおいいかもしれない。
旅をしている以上、そのような場面に出くわすことも少なからずあるだろう。
村の武器屋に入ってみる。村人もよく持っている武器なので、武器屋ならどこにでもあるだろう。
「こんにちは」
「いらっしゃい。なにが欲しんだい?」
店主はガタイのいいおっさんだ。なぜこういうところの店主ってみんな似た体型なのだろうか。なんか重いもの運んでいるからみんなそういう体になるんだろうか。まあ、そう言う人種の生態は分からない。
「護衛用にバターナイフがほしんですけど、いいのありますか」
「は?バター、ナイフ?ここは武器屋だから、家具屋とか行ったほうがいいと思うよ?」
なぜだ。なぜバターナイフが伝わらない。むー。
武器屋の棚を見渡す。すぐに自分の欲しかったものが見つかった。なんであるのに教えてくれなかったんだ?
その棚にあったものを手に取る。
「これです」
店主の顔。それはどうみても「は?」という顔。声は聞こえてないが、顔を見るだけで「は?」という声が聞こえてくる気がする。なにか僕は失言したのか?沈黙に耐えきれなくなったが、なにを話せばいいのか分からない。
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