第一章16 『畑を荒らす者1」
ノールさんが食べ物を取り出して、それを噛みちぎった。焦げているような色だが、少し光沢があり、香ばしい匂いが漂ってくる。
なんという食べ物なのだろうか?
ノールさんは僕がみているのに気がついた。
「食べます?」
気になったので、一口だけ貰うことにした。外がパリッとしている?ような感じで、どうやら肉のようだ。多分、ウサギの肉だろう。しかし、チーズのような味がする気がする。なんなのだろうか?
「……チーズ?」
「ん?なにがですか?」
ユウも一口分貰って食べていた。
「これ、チーズみたいな味がするなって」
「ああ。そういうことですか。燻されたチーズと同じように、煙にかけてるんですよ。燻製って言うんですけど、知りません?」
「言葉は知ってたけど、こんな食べ物だとは知らなかった」
「まあ、チーズの加工とかもこれをやってたりするんですけど、燻製をすることによって、長持ちさせることができるんですよ」
食べ終わったユウが「乾燥肉よりも美味しいや」と言った。
「そうですね。乾燥肉よりは保存できませんが、美味しいのはこっちですよね。寒いところなんかでは、数ヶ月持たせることも可能なので、魔王城付近での食べ物はほとんどこれになると思います」
乾燥肉の食感は簡単に言うと「紙」だ。
「これからは紙じゃなくて済む」
「か、紙って。そんなふうに乾燥肉のことを言ってるんですか?」
ノールさんは笑いながら言った。乾燥肉の食感は紙以外に例えられない。
「あれはどう考えたって、紙」
とユウも真顔で言う。
「ははは。確かにそのまま食べたら味のしない紙ですけど、その紙も正しく調理すれば美味しくなるんですよ」
「味のする紙なんてあるのかな?」
「ないと思う」
僕は自分の背負っているリュックから乾燥肉を取り出す。
「あの時は、これ食べるより道端の草食べたほうが美味しいからって、リュックの中に放置しておいたやつがあるから、今日のお昼はこれをどうにかして下さい」
「そんなのあったね。もう着火剤として全部使ったと思ってた」
一応肉のため、油が含まれているのか火がつきやすいのだ。風が強すぎて、魔法で出した火が消えてしまう時はこれを使った。
「旅が2人だけだったらと思うと、心配でしかないですよ」
今日の昼は乾燥肉の料理を振る舞ってもらうことに決まった。
それから休みも挟まずに、数時間歩き続けた。
「狼だ」
ここまで魔物や、襲ってくる動物と遭遇してこなかった。
「ですね。群れですか。結構な数」
「マイ。探知してなかったの?」
ノールさんは散乱銃を構えた。ユウは剣を構えている。
僕は何もしない。
ユウだけでもこの量の狼は倒し切れるが、ノールさんの闘い方も見てみたいので、何も言わない。
一応、結界を張る準備だけはする。
2匹の狼がノールさんに飛びかかってきた。
ノールさんは体を捻り、一体は避ける。もう1匹の狼の鼻先に銃口を向け、引き金を引く。
狼の頭が吹き飛び、だいぶグロテスクな光景が作り出される。
銃を回転させて弾をリロード。レバーアクションショットガンだ。
避けた狼を撃ち抜く。
撃ち際に飛びかかってきた狼は蹴り飛ばした。
「ちょっと。見てないで手伝ってくださいよ」
ノールさんはほぼ狼に囲まれている。
ユウは1匹だけ薙ぎ払って行ったが、それ以降は棒立ちで突っ立っている。
「うーん。じゃあ、マイ」
ユウと目だけで伝え合う。が、前回魔道具屋のことを思い出して、本当に意味があるのか考えてしまう。
「闇系魔法。即死」
黒いモヤが出てきて、狼たちを包み込む。
耐性のないやつは死に、耐性のあるやつは生き残る。
ざっと、生き残ったのは3匹。
それをユウが一気に切り伏せた。
「……圧倒的じゃないですか。俺が居なくても、一瞬で終わったのでは?」
「いや、戦い方を確認しておきたかったから」
「なるほど」
ノールさんの戦い方は使い方が難しいが、上手く使えばどんな環境でも対応できるようになるだろう。
一応探知魔法を使っておく。
「あ、やばい」
後ろから、生き残りが飛びかかってきていた。
瞬時にローブに魔力を流して魔法陣を展開。
狼の牙は、結界に食い込み、反撃用の物理的に跳ね飛ばす魔法陣で、胴体が吹っ飛ぶ。
咄嗟に魔力を注ぎ込んだため、炎魔法陣や、雷魔法陣も発動してしまい、狼だった物は粉々に散った。
「う……え、えぇー?なんか一瞬にして消滅しましたけど」
「マイのローブに書いてある魔法陣の効果だね」
気を取り直して探知魔法を使う。
「うん。もう周りにはいなそう」
「にしても、こんなところでオオカミが出るなんて初めてですよ」
旅の経験が僕らにはないため、ノールさんの知識は普通に役立つ。
「さて、即死させた狼の皮でも剥ぎますかね」
「そっか。金になる」
「そうです。肉も手に入ったので、ご飯にしますか?」
狩人さんは慣れた手つきでどんどん皮を剥ぎ、肉を捌いていく。
僕らは火を起こしたり、教えて貰った水の蒸留をする。
「よいしょ。肉、全部は持っていけないので、埋めておきますか?」
「いや。マイが火葬してくれる。骨まで残らず」
ノールさんの怖いですね。と言う声を無視して一瞬で粉砕した。
焼くというよりかは粉砕するという方があっている。
ノールさんは約束通り紙(乾燥肉)で、スープを作ってくれた。
水に浸すことで、食感が肉に戻るのだとか。
「ね?ちゃんと肉の味が汁に染み出してて美味しいでしょ?」
「これは発明ですね」
「乾燥肉ってこうするためのものなんですけど。というか、売り場に調理方法書いてあるはず」
「マイ知ってた?」
「知らなかった」
ノールさんが嘘でしょ?という顔をしている。
5日後の夕暮れ時。
「やっと着いた。どっか泊まれるところ探そう」
その村は主要な道沿いにあるだけあって、宿屋の数は僕らの住んでいた王都の郊外より多かった。
そのため、すぐに部屋は確保できる。そう思っていた。
「ごめんね。今日はもう2部屋しか空いてないのよ。一部屋は2人部屋だからそこでもいいならばいいけど」
今の時期は越冬のために西の国から王都に買い出しに行く人などが多く、泊まっている人も多いらしい。
またしても宿がないと言う事態に陥ったのだ。
ほとんどの宿は確認して、ここが最後の宿だった。
「いいですよ!」
ユウがすぐに言った。
「じゃあ俺は、1人部屋もらいます」
「オッケー」
ユウとノールさんでここまで話が進んでしまう。残ったのは僕だけ。
ノールさんが1人部屋に行くと言うことは、僕はユウと2人部屋。
またか。
「そうですか。なら、宿泊代は2部屋で銅貨100と5枚です」
「はい。お釣りは大丈夫です」
ユウは100枚銅貨と10枚銅貨を出して渡す。
お金は銅貨、銀貨、金貨とあり、銅貨1000枚で銀貨1枚の価値がある。同様に、銀貨1000枚で金貨1枚だ。そして、それぞれの種類の硬貨に100枚、10枚とまとまったものがある。今回は1枚銅貨が無かったのでしょうがなく100枚銅貨と10枚銅貨を出した形だ。
2人はそれぞれ鍵をもらって、部屋に向かい始めた。僕もそれに着いていく。
「俺はこっちだから。また夕食で」
「はい。マイはこっちね」
ノールさんに着いて行こうとした僕の首根っこをユウが掴んだ。
「……はい」
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