第四十五話【クランマスターのダビド】
◇◇◇◇第四十五話【クランマスターのダビド】◇◇◇◇
『羽ばたく燕亭』にわたくしのパーティは集まり、今後のことについて話をしています。
いよいよ銀級チャレンジのダンジョン探索に入るのですが、標的となる適当なダンジョンについての知識がわたくしたちには不足しているのです。
「なるほど、それで俺のところに来た、というわけだな」
グラスを磨きながらわたくしの愚痴にこたえるのは銅級冒険者にしてクラン『羽ばたく燕』のマスター、ダビド・ブラッフ。
姓があるのはこの『羽ばたく燕亭』の一人娘と結ばれ婿入りしたからです。
今はクランマスター稼業の傍ら『羽ばたく燕亭』のマスターとして、料理などを先代から教えてもらっている最中だとか。
幸せそうなマスターとリィナさんを眺めていると、こちらも何やら心があたたかくなります。
時折醸し出される、新婚の甘ったるい空気に多少うんざりもしますが。
「そうなんです、どうもパッとしたところがなくて」
今日はチョコレートパフェに挑戦していたわたくしです。
最下層の土台を固めたチョコレートババロア。
その上に甘みの中にほんのりした苦みを誘うブラウニー。
冷たく甘いアイスクリーム。
甘さの中に酸味のアクセントが光るフルーツのシロップ煮。
そしてその頂点に、チョコレートソースを丁寧に垂らした泡立てられたホイップクリーム。
それは、もう至福のデザートでした。
しかし今はそれを食べながらもわたくしはテーブルに突っ伏してしまうのです。
「むぅ…お前たちダンジョンの基本は分かるか?」
顔を上げて聞き返します。
「ダンジョンの基本ですか?」
「そうだ、例えば過酷な環境のダンジョンとそうでないダンジョン、どちらが攻略しやすいと思う?」
わたくしは首をかしげながら答えます。
「過酷な環境のダンジョンの方が攻略が難しいのではないかしら」
「そうだな、普通はそう考える」
ダビドはうんうんと頷き、続けます。
「だがこう考えたことはないか?
過酷な環境のダンジョンで出現する魔物は大体弱点が共通している、と」
「なるほど、例えば火山ダンジョンは大体がある程度以上の水か氷の属性を弱点としていますねぇ」
おなじみの季節のフルーツパイを食べながらエル部長が肯定します。
ジャムにならないよう形が崩れないように柔らかく煮込んだフルーツはパイ生地に良く合い、舌を飽きさせません。
「そうだな、環境にもよるが、大体は弱点が共通した魔物が多く出る。
つまり対応も一種類でよいということになる」
サクラさんに抹茶のゼリーを求肥で包んだデザートを供しながら続けます。
「ただ問題は、ダンジョンボスがいる場合、生半可な攻撃では弱点がつけない場合があるということだ」
「あーなるほど、大火事消すのにバケツに一杯の水ではお話になりませんものねぇ」
エル部長の同意にダビドは、
「ただ通常のダンジョンで強力なボスが出現した場合、弱点のない強力なボスになる場合があるということも頭に入れておいていいんじゃないかと思う」
そんなことを言われてサクラさんは、
「結局どっちがいいんですか?」
と尋ねます。
「お前たちの実力と特性次第。
特にボスの情報を念入りに集めろってことだな」
ふむ、そう考えて目標を絞っていけ、ということですね。
「アドバイスになっているようなそうでないような気がします」
サクラさんはダビドの回答に物足りなさを感じているようですが……
「そうか?
銀級昇格試験の課題には、ダンジョンのボス討伐が入っているんじゃないか?
あながち外れちゃいないと思うがね。
討伐できるボスがいるダンジョンじゃないとお話にならないだろう」
「それもそうですわね」
しばらく黙っていたエル部長が話し始めます。
「まずボクたちのパーティの最強攻撃はピピル君とボクの複合魔法だと思うんだけど」
パーティの面々を確かめながら続けるエル部長。
「それに関しては異論ありませんわ」
「だとするとピピル君の魔法と相性の悪い火属性の強い火山洞窟系のダンジョンは避けるべきだと思うんだよねぇ」
「じゃあ反対の属性の水属性のダンジョンにしますの?」
わたくしが問いかけると、
「候補として残してもいいと思うけど、環境的は水中戦闘の可能性があるから要チェックだねぇ」
「あらら、じゃあ地属性か風属性ということになりますわね~」
エーリュシエルが甘く煮たカボチャを丁寧に裏ごししてパイ生地で包んだパイを食べながら言います。
「そうだねぇ風属性は広大な迷宮や平原でボスを探さなければならない可能性があるし、地属性は洞窟や岩場、山なんかを相手にボス探しかなぁ」
エル部長が腕組みをしてそう言うと、
「聞くだけだと地属性が推しの気がしますけれど。
地属性のダンジョンっていわゆる普通のダンジョンですからね」
サクラさんがそう返します。
「まぁ確かに。
結局正攻法でボスを退治するしかなさそうだね。
というわけで僕はここなんかが目標の難易度を考えるといいんじゃないかなと思うんだ」
そういうと依頼書の写しを取り出しました。
わたくしが写しを受け取り内容を確認します。
「……なるほど悪くありませんね。
ダンジョンのランクはB、ここのボスの情報は……
なるほどわたくしの強みを押していけるということですわね」
なお、ヴェルガは洗面器のような器に砂糖掛けのシリアルに大量の牛乳をかけてもらい、ひたすらに咀嚼して会話に混ざろうとはしませんでした。
「アダカンガエルノハ苦手。
ハコノカギアケタリ、迷宮のカタチオボエタリハスキ
判断ゴスジン、ヤレトカイワレレバヤル、ギィ」
ヴェルガに与える指示は今まで何となくでしたが、これからはペース配分も心していきましょう。
そう思うわたくしでした。




