第三十八話【ダンジョン探索・演習①】
◇◇◇◇第三十八話【ダンジョン探索・演習①】◇◇◇◇
学園都市周辺にはダンジョンが多くあります。
ほかの地域では考えられないほどの数と質のダンジョン群は、冒険者を集めます。
時に安定した狩りのために自分の実力相応の探索で堅実にドロップを狙う者もいれば、命を賭けてして一攫千金を狙う者もあり、多種多様な人間が学園都市に赴きます。
多種族でパーティを組むケースも多々あるようですわ。
人種の差別が禁じられる学園都市ならではでしょう。
その中にあっても異彩を放つパーティ編成を誇るわたくしたち『フィフスエレメント』。
オークのわたくし、ゴブリンのヴェルガ、ダークエルフのエーリュシエル、白面鬼のサクラさん、そしてヒュ-マのエル部長。
これだけバリエーション豊かなメンバーのパーティは他にないでしょう。
登録科目確定期間も終わり、今は『ダンジョン探索・演習』の時間です。
ベテラン冒険者がサポートにつくとはいえ、初めてのダンジョン探索であることには違いありません。
学園所有のダンジョンは整備されていて、よほどのことがない限り危険なモンスターと出会うことはないと教官殿から説明されています。
万一の時のために経験豊富な冒険者もいますし、ダンジョン内での連携の訓練、実戦的な立ち回りの確認が主な目的といっていいでしょう。
ロールを意識するならば、後衛と敵との間に入り後衛の遠距離攻撃の射線を確保するのが、タンクであるわたくしの役割です。
こればかりはパーティみんなの癖を覚えて、慣らし慣らせるしかないでしょう。
先日の冒険者ギルドの依頼消化の中、わたくしたちは連携の擦り合わせやハンドサインの確認を行い、冒険者として必要なスキルの向上に努めたのです。
魔法ばかり磨いたわけではないのですよ?
魔法スキルが重要なことに異存はありませんが。
さて、今日の講義はダンジョン内探索を案内者と一緒に行うのですが、どうすればいいのでしょう?
とりあえず人の集まっているところに行ってみましょうか。
行列の最後尾あたりと思わしき所に行き、わたくしの前に並んでいる方に尋ねましょう。
「もし、これは何の行列でしょうか?」
「あぁ、これは…
おっと失礼しました。
今日の講義でインストラクターとのマッチングが必要なパーティの行列です。
まぁ一パーティ四人から六人いるからはけるのも早いよ、じゃない、ですよ。
あ…」
ここで合っているようです。
ところで、わたくしと普通にお話ししてくださって全く構わないのですけれど、何か遠慮されそうです。
前の方で怒鳴り声のような大声が聞こえます。
「誰か割り込んだようですわね、迷惑な…」
わたくしたちの後ろにも既に何組か並んでいますが、それを嫌って列の前に割り込んだのでしょう。
愚かな行為ですわ、これから同行する人間の印象を悪くしてどうしようというのでしょう?
「なんだと、俺はハイン、将来勇者になるハイン・イシュテートだぞ!そのぐらいの配慮、当然ではないか!」
あぁ…あのやたらと血統をひけらかす勇者志望の何とかさんでしたか。
パーティの誰かが銅クラスなのですね。
それなら本人が鉄級でも銅級冒険者パーティとして活動ができるルールですから。
どうやらおいかえされたようですわ。
列の最後方、つまりわたくしの方に歩いてきます。
あぁどうやらわたくしたちに気が付いたようですわね。
目つきが変わりました。
「どうしてこんなところに魔物がいるんだ!?
オークにゴブリン、白オーガとか!」
エーリュシエルが前に出ようとするのを手で制して、
「ルールを無視するような方が勇者になど成れはしませんわよ。
勇者とは正義の使者です。
あなたの行動のどの辺が正義なのか聞いてみたいものですわ。
まぁ耳が汚れるだけですわね、おーほっほっほっほ!」
サッと見事に顔を赤くし、さらに不機嫌になると、
「テメェ……
迷宮内であったらぶっ飛ばしてやる」
「あらあら、先日見事に負けたのをもうお忘れなのでしょうか。
おめでたい頭をしておいでですこと」
大体学園管轄のダンジョンでインストラクター付きだというのに、どうやってわたくしたちを襲うつもりなのかしら。
仮に襲うことができたとして、ペナルティは最低でも学園追放、下手したら縛り首ですわよ。
まぁこういう時に権力でうやむやにできるか、それは分かりませんけど。
「ふん、覚えていろよ!」
そういうとさらに後ろに伸びた列の後ろに向って去っていきました。
「みなさん、よく耐えてくれました。
ありがとう」
今日のサクラさんはダンジョン探索用の飾りの少ない兜を被っています。
戦の時はどれだけ派手に飾れるかも勝負になるそうで、ああいう派手な格好で手柄を上げないとならないそうです。
「なに、あの程度の雑言で冷静さを失ってはヤンマでは将など勤まりません、しかしあれが勇者王の第三王子……」
「姫様の前で許しなく剣は抜きませんよ。
でもよろしかったのですか?」
エーリュシエルは後ろ腰に差した二本の短剣の柄から手を離すとそういった。
「あの者は血統に寄りかかって生きています。
あのような行動を取るものが、このままで済むと思いますか?」
わたくしが問いかけると、全員が、ヴェルガも含めて首を横に振ります。
「あれが勇者の国の第三王子か、まぁ強いて覚える必要もなさそうだねぇ」
「ギィ、アレハヨイ長ニナラナイ」
わたくしはハインのパーティのメンバーの方に目を向けます。
ハインの後ろに従って歩くのは剣術の授業でファウストと呼ばれていた男ですわね。
次に背の高い男性、この方はお名前存じ上げませんわね……
この名の知れない男の後ろには、あぁそういえば勇者の国の周辺国に逃げ込んだのでしたっけ。
「大きな顔をするなよ、お前らなぞハイン様が退治してくれるだろう」
名は…なんでしたっけ?
首を傾げると、
「クィン・ヴァトンだ、忘れてるんじゃねぇよ!」
そして勇者wのパーティに入っているのですかー……
仰ぐ旗印はよく選んだ方がいいと思いますわよ。
収まるところに収まった気もしますが。
私をあからさまに敵視してくる連中が固まっているのは好都合ではありますけれど。
「すみません、騒ぎを起こさないように言い含めていたのですが……」
勇者のパーティの最後を歩くのはすまなそうに頭を下げるトライア・ヴァトンさんですわね。
軽く手を挙げてあいさつします。
法衣を着ているということは専任ヒーラーということですわね、希少な専任ヒーラー、あのパーティで活かすことができますかしら。
可哀そうに、あんなにあちこちで頭を下げていては色々なものがすり減ってしまいそうですわ。
わたくしには何もできませんけれど。
それでは銅級の冒険者は名前の知らないあの男ということになりますわね。
ん…警戒が必要でしょうか?
まぁいいでしょう。
後でお兄様に聞いてみましょう。




