第三十六話【祝賀の宴】
◇◇◇◇第三十六話【祝賀の宴】◇◇◇◇
「それでは、パーティ『フィフスエレメント』の銅級昇格を祝って」
「「「「「「乾杯!」」」」」」」
『切り裂きウサギの討伐』ではギリギリと思われた功績でしたが、『新人殺しのファングタイガー』の討伐が達成の後押しとなり、わたくしたちは銅級冒険者として昇格が出来たました。
ダビドの定宿『羽ばたく燕亭』は父親と娘の二人が切り盛りしている食堂兼アパルトマンです。
家賃は抑えめの価格で食堂の料理と酒も充実していて、食事時には食事だけを目当てに近所の人も現れるという評判店のようです。
わたくしたちは銅級認定のために様々な資器材を運び込んだり持ち出しとしているうちにすっかり顔見知りです。
特に娘さんの方は笑顔に愛嬌のある元気なお姉さんで、お名前をリィナさんといいます。
店内をすいすいと歩き回り、食堂での注文を取ったり飲み物や食べ物を運んでいます。
なんとなくダビドとは特別な関係があるような気配を感じますが。
ヴィクシア連合王国の寮にこの祝賀会のことを知らせるとお忍びで三人、ローブで顔を隠して参加してくれた方が……
ふふ……お祝いに駆けつけてくださるなんてとてもうれしいですわ。
約一名、お酒を飲める機会を逃さないようにしているだけかもしれませんが、まぁいいでしょう、気にしないことにします。
ついでというかなんというか、学生自治会の面々もどうやって知ったものか駆けつけてくれました。
「やるねぇ、ピピルちゃん。
今年の一回生で銅級冒険者認定は多分最速だと思うよ。
普通、冒険者ランクの銅級昇格は夏休みとか冬休みにやるものだからなぁ。
だいぶ早いなぁ」
ミロル会長が感嘆していますが、
「ベテランの冒険者に教導してもらいましたの。
なかなかせわしない体験でしたが、昇級を達成できたのは彼のおかげですわ」
「なるほどねぇ……」
頷きながら何か含みのある表情で黙り込むミロル会長でした。
今日の夕食のメニューは切り裂きウサギのから揚げと、同じく切り裂きウサギと根菜のシチューですわ。
その他にとりどりのパンに白身魚の香草焼き。
デザートに果物を甘く煮たものを包み込んだフルーツパイ。
材料持ち込みで調理をお願いした素材と本来今日の夕食に用意された料理が合わさり、品数が多い夕食となりました。
わたくしは季節のフルーツパイに舌鼓を打ちながらシードルをちびちびなめるように飲んでいます。
あぁ……このパイは絶品ですわ。
サクサクとした衣の中に詰まった、半分とろけるように蜜で煮込んだ甘いフルーツとシードルの酸っぱさとのハーモニー。
これはこの店に来ないと味わえないものですわ。
できるだけ堪能いたしましょう。
「ようやってるか」
ダビドが空いているわたくしの隣の席にどっかと腰を下ろしました。
「えぇ、おかげさまで目的も達成できましたし、あなたにも十分手当を出すことができますわ」
「そうかいありがとうよ。
とはいえ今回のようなやり方はもうはできんだろうしなぁ」
「そうなんですの?」
「あぁ、今は依頼の受注数に制限がないからお前たちみたいに一日に大量の依頼をこなすことができたが、早晩上限が設定されるだろうしな」
「ギルドマスターは鉄級冒険者の需要がよくわかっている奴だ。
実力があるやつはさっさと上にあげて難易度の高い依頼をこなして欲しいだろうが、こまごました依頼はごまんとある。
簡単な依頼をこなしてくれる素直で扱い安い鉄級や銅級の冒険者は、いればいるほどありがたいだろうよ」
「それにほかの冒険者との組み合わせも規制されるだろうな、人数とか期間とか」
「えー次アタシたちが銅級に上がるの手伝って貰おうと思ったのに~」
レピがぶーぶー文句を言っています。
「あ……あの、僕たちでもできる依頼とか、やり方なんかを教えてくれてすごく助かりました、出来たらこれからも助言もらえたら助かるのですが」
ミゲルがおずおずと意見をいいます。
「うーん、そうはいってもなぁ……」
ダビドはあまり気乗りしない様子です。
「はいは~い、いい考えがあるんですけど聞いてみませんか~?」
手を挙げながらエーリュシエルが近づいてきます。
「なんだよ、いい考えって」
ジャックスが訝しみます。
「ダビドさんをマスターにしてクランを立ち上げるのはどうでしょう?」
それを聞いてエル部長とロルツが
「へぇ……」
「ふむ」
と声をだします。
「通常のクランは腕利きの人間を多くそろえて難易度の高いクエストに参加できるように高みを目指すのでしょうけど……悪くないですね……」
サクラさんが考えながら言葉を発し、
「現状では初心者を銅級に昇格させる目的のクランはない。
ミゲルのような見習い鉄級が身の丈に合わない依頼でけがをしたり、下手をしたら死んでしまうような事態の留め金になる仕組みもない……か」
無精ひげの生えた顎をこすりながらダビドつぶやくように考え込みます。
「ダビドさんがマスターやるんなら俺たちは所属したいけどな」
クリストが参加表明します。
たしかに現状の彼のパーティだと、どこかで行き詰まるのが目に見えています。
ランクが上がるにつれヒーラーが居ないパーティは厳しくなってくるでしょう。
ヒーラーの素養のある子を一から鍛えるのは大変ですけれど、育成を重視するクランに所属して、パーティを補強したいというのは当然と言えます。
「僕たちもそうしたいです」
ミゲルもそういって参加を表明します。
わたくしはローブの人物の様子を伺いつつ
「わたくしたち、そうヴィクシアに連なる者たちも協力は惜しみませんわ。
来年からに新入生、再来年の新入生、さらにその先。
ヴィクシア連合王国おすすめのクランとして毎年新規人員の加入が見込めるのは大きなメリットとなると思いますが?」
もちろんわたくしたちも参加いたしますわよ。
お土産も色々つけて差し上げますわ。
「そうくるかーっ!
誰かの紐付きになりたくないからこの年まで銅級やってたんだけどなぁ……
そういう風に言われれば断りにくいじゃねぇか」
ダビドは手を組んで肘をテーブルにつけると一人一人を見つめながら話し始めました。
「では、だ。
仮に俺がクランマスターをやるとしてだ。
クランメンバーはお前たち。
設立する金はどこにある。
ギルドに登録する費用だってバカにならない金額だぞ。
実際の仕事は外でやるにしても書類仕事は誰がどこでやる?
その書類仕事にしたって俺一人で全てはできないぞ?
手伝いが必要になるだろ、あてはあるのか?」
誰に向かって資金がどうこう言っているのでしょう。
ローブの男の方を見つめるとフード越しに頷いたのがわかりました。
ということでやっちゃいましょう!
お店の厨房にいるこの店のご主人に声を掛けます。
「マスター、わたくしたちダビドをマスターにしたクランを作ろうと思うのですが。
ダビドと娘さんを結婚させてここをクラン本部にしちゃってもよろしいでしょうか?」
「ぶほぅあ!」
ダビドが口に含んでいた麦酒を盛大に吐き出し、
ガラガシャーン!
リィナさんが運んでいた食器を取り落としました。
木の空皿ばかりでよかったですわね。
「おう、いいぞ。
ダビドの野郎、人の娘に手を出しておいていつまでもモジモジモジモジしてやがる。
こんな機会でもなけりゃあ一緒になる気配もねぇしな。
ダビドもクランマスターとやらになれば野垂れ死ぬ心配も減るはずだろ?
大いに結構な話じゃねぇか。
まぁ新婚夫婦が住むにゃあ多少改築が居るのかもしれねぇがな」
料理を作りながら何でもないことのように言う割にはその手は若干震えているように見えて。
「アパルトマンの部分は拡張して頂けたらクランメンバーの住居として家賃を徴収できますけど、工事する部分の資金わたくしたちで支援いたしましょうか?」
「勘定はダビドんところでやってくれ、あとは好きにしな。
このおいぼれはもう目の前の料理の出来にしか興味はねぇよ」
再起動したリィナさんを一瞬だけ愛おしそうに見つめると出来上がった料理を手渡します。
娘さんの行く末も気になっていたのでしょうね……
では事務仕事の処理について一つ案を出しましょう。
「運営が軌道に乗るしばらくの間クラン付きの事務員兼連絡員ということでギルドから人を派遣していただけばいいでしょう。
そのままでしばらく雇って、本人の希望次第ではこちらで雇ってしまえば良いのですわ。
仕事に関して言えば、人の問題は、お金を積めばどうとでもなります。
ではヴィクシアからの援助でクランハウスの立ち上げをしても大丈夫ですわね?」
「ちょーちょーっと待ってピピルちゃん、その話学園自治会も一枚かませてくれないかい?」
そう言ってわたくしにミロル会長が待ったをかけます。
「というと?」
「クラン立ち上げの資金に学園都市学生会からも資金提供させてほしいんだ」
「堅実で信用が置ける案内人がいるクランに学生を送り込む需要があるんだ。
あまり表沙汰になってはいないけれど、去年変なクランにひっかかった学生が何人かいるんだ。
まぁ高価な装備を買わされて取り上げられたり、実力不相応な探索につき合わせたりとかで大したことじゃないのかもしれないけど。
ギルドと交渉して再発防止の策を立てたから今年は大丈夫だと思うけどね。
打てる手は打っておきたいんだ」
学園生が多く所属するクランとなれば、最初のパーティのマッチングからお世話ができそうですわね。
「では出資金の案分は後で決めることにして……あらダビド、どうかなさいました」
髪をつかんで頭を抱えるダビドに気が付いて話しかけると、
「いやぁ俺の手に負えないところで俺のすることが決まっちまうのがなぁ」
「気に染まないと?」
するとダビドは首を横に振り。
「いやひよっこども育成目的のクランはどっちにしろ必要だろうし。
俺にそれだけの知識があるかっていうと、多分やれちゃうんだよなぁ……」
「ダビドがそういう分析をするのは大変結構ですけど、まず最初にするのはリィナさんへのプロポーズですわよ」
「あぁ……それな……うん……よし、行ってくる」
周り中に囃し立てられながら、ダビドはこれまた真っ赤になったリィナさんにプロポーズし、受け入れられたその瞬間の歓声は轟音となりあたりに響きました。
それぞれ手に持った飲み物を掲げ、
「乾杯!」
の掛け声で『羽ばたく燕亭』は祝福に満たされ、幸せそうな二人を包みました。
こうしてわたくしたちはクランに所属し冒険者の入り口を超えたのですわ。




