第三十五話【新人殺し】
◇◇◇◇第三十五話【新人殺し】◇◇◇◇
その笛の音は高く響き処理場の緊急を告げています。
「ピピル、急いで処理場の救援を!
おっつけ俺たちも行く!」
射手たちが弓を手に駆け出すのを横目に
「はい!わかりましたわ!」
そう答えると、ダブーが後ろに引きずっている枝の束を外し、
「ダブーお願いね」
と一声かけると、枷が外されたダブーは
「ぷぎーっ!!」
と声を上げ疾走し始めます。
ヴェルガとロルツも手にした切り裂きウサギを放って駆け出しています。
これで全員が処理場に向っています。
間に合うといいのですが……
「グオォォーーーン!!」
大きな人間のものではない叫び声が聞こえます
何かに襲撃されているようですわね、とにかく急ぎましょう。
処理場にいる連中だけでは手に負えないモノによる襲撃とは、いったい何でしょうか。
処理場に到着すると、暴れる四足獣とそれを必死に抑えようとするクリストとジャックスの二人と攻撃魔法を唱えるエル部長、戦闘範囲外の馬車の陰へ退避したミゲル達見習いパーティの姿がありました。
「あれは……」
ダンジョン探索講義のシブ・アムストロ教官殿の声が耳に蘇ります。
……まぁ無理でしょうね、何人か食べられちゃいますよ、多分……
「ファングタイガー!?」
「そうだ!最近噂の新人殺しはこいつだと思う!
とにかく俺たち三人だけじゃ手に負えん!
だが抑えないとミゲルたちに被害が出ちまう!
ピピル!手伝ってくれ!」
叫ぶクリストの声を聞きながらボーンイーターを抜き放ちます。
「よろしくてよ!
ダブー!突撃!」
「ぶぅ~~~」
さぁダンジョンでは使えない騎兵突撃を受けなさい!
ファングタイガーの横腹にボーンイーターを構え突っこみましすわ!
壁に突撃したような今まで感じたことのない強烈な手ごたえを感じます。
多分アバラを何本か持って行けたと思うのですが、傷の痛みでなおさら激しくファングタイガーが暴れだします。
ジャックスは大型の盾でファングタイガーの攻撃を受け止めますが強烈な打撃と爪による引き倒しをしのぎ切れません。
必死にバランスをとっていますが時間の問題で倒されそうです。
倒されたら最後、のしかかられてのかみつき攻撃でとどめを刺されてしまいます。
クリストの大剣は安物の鉄剣でファングタイガーの毛皮を貫けません。
それでも何とかわたくしの到着まで持たせて見せたのですから二人はなかなかの腕ですわね。
わたくしが騎乗突撃でファングタイガーと戦うのは隙が大きすぎます。
仕方がありません、ダブーから降りて戦います。
ミゲルたちが避難している馬車の陰でダブーから降ります。
「ダブー、ここでミゲル達……この子供たちの護衛をお願い!」
「ぷーっ」
ダブーは理解できたかしら?
返事はしたから大丈夫だと思いますが……
パーティ戦闘におけるわたくしの仕事はタンク、中衛と後衛の火力職が追い付いてくれるまで敵を押しとどめるのが役目。
ジャックスは大楯に短めの剣、わたくしはボーンイーター。
得物は違いますが役目は一緒、ここは交互に主戦を受け持ち時間を稼ぎたいですわね。
「ジャックス、スイッチですわ!」
「すまねぇ、助かる!」
ファングタイガーのメイン攻撃は爪での引っかき。
ほかに口での噛みつきと巨体を利用した突撃と体当たり。
注意するのは攻撃されたときに引っ掛けられたり、受け止めきれず倒されて踏み付けにされてしまうこと。
ファングタイガーの攻略法はあの講義のあとお兄様に教えていただきました。
といっても机上演習の時教官殿からお兄様が教えてもらったことのまた聞きになりますが。
「くっ重いですわ!」
単純に大きいファングタイガーの攻撃はボーンイーターでの『弾き』を使って凌ぎます。
『弾き』の連打でみんながくるのを待ちましょう。
◇◇◇◇
何回『弾き』を使ったでしょう。
兜の中でつく息は熱気となってわたくしの喉を灼きます……。
時々はジャックスとポジション変更をしながら持たせていましたが、攻撃は激しく、ジャックスは体力を使い果たしたのか先ほどファングタイガーの攻撃を受けて倒れこんでしまいました。
間一髪、踏みつぶされない位置までジャックスの胸に蹴りを入れて転がすと、そこからはわたくしの嬉しくない一人舞台の始まりです。
弱音が頭をよぎりそうになります。
「負けられません!」
気合を入れ直します。
今ここでわたくしが倒れたらエル部長やクリスト、なにより戦う力を持たないミゲル達にその爪と牙が向かうでしょう。
そんなこと、させるわけにはまいりません。
ファングタイガーの前脚から繰り出される強烈な打撃をボーンイーターで『弾き』ますが、相殺しきれなかった衝撃でずり下がりそうです。
渾身の力を込めて体を踏ん張らせ、倒れそうな体からバランスを取り戻します。
エル部長の攻撃魔法は脅威とファングタイガーも理解しているのか素早い動きで回避されてしまいます。
風系魔法足止めの魔法や地系の魔法重石などの時間稼ぎの魔法しか効果がありません。
クリストの攻撃はファングタイガーには全く通じませんが、エル部長を守ってけん制攻撃を続けてくれています。
ただクリストも体力的に厳しくなってきたのか顔色が悪くなっています。
そのときです、
「ギ!マタセタ」
「うっわ、なんだこの化け物!」
「馬車の陰にミゲルたちが!
そちらの護衛を!」
「おう、分かった!」
ヴェルガとロルツが到着しました。
攻撃力の乏しい彼らはダブーとミゲルのパーティのお守りをしてもらいましょう。
彼らではファングタイガーの攻撃には耐えられそうにありません。
味方が来たことで気持ちが楽になりましたが。
そしてついに後衛、攻撃担当の皆が到着しました。
「姫様、ただいま参りました~」
急いで走ってずれてしまった三角眼鏡をクイッと直しながらエーリュシエル。
「ピピルさん、ご無事ですか!」
無事ですよサクラさん、ちょっと危なかったですが。
「あっれ、ジャックス死んだ!?」
レピは自分のパーティメンバーに厳しいですわね、まだ死んでいませんよ。
「よくがんばったな、もう少し持たせろ!とびっきりをお見舞いしてやる」
ダビドは落ちついていますわね。
とびっきり、期待していますわよ。
「ふふ……」
心強い仲間の到着に笑みがこぼれます。
ようやく手札が整いました、さぁ今度はこちらの番ですわよ!
覚悟しなさいファングタイガー!
とはいっても敵の釘付けがわたくしの仕事なことには変わりませんが。
「じゃあボクから行くよ!みんな目を閉じて!
『光よかのものの目をくらませたまえ、閃光』!」
エル部長が魔法を唱えると閃光がほとばしりファングタイガーの目を灼きます。
皆目を逸らしたり閉じたりして直接は閃光を見るのは避けましたが、すごい光量です。
エーリュシエルが一射二矢の妙技を見せ、ファングタイガーの両の目を射抜きます。
たまらず悲鳴を上げる大きな口に、
「くらえ!こいつがとびっきりだ!」
巻き上げ機を使って引いたダビドのクロスボウから特大の太矢が射出され突き刺さります。
そこにサクラさんが走り込み、
「射手としての働きだけなら必要ないかと思いましたが、持ってきてよかった……」
そう言って背負った大身十字槍を抜き放つと、動きの止まったファングタイガーの喉から突き刺し首を切り落としました。
なんという腕前。
なんという切れ味。
ひょっとするとサクラさんは刀より槍が得意なのかもしれませんね。
「サクラさん、お見事!」
「いえ、ピピルさんの守りあってこその攻撃です。
脇腹にけがもあったようですし……」
脅威は去りました、いまは犠牲が出なかったことを喜びましょう。




