第三十四話【追い込み猟】
◇◇◇◇第三十四話【追い込み猟】◇◇◇◇
あのギルドでの一件から、わたくしたちはダビドを先導として依頼を次々とこなしていきました。
今日はその九日目。
超ハイペースで依頼をこなしていく我々を、最初は驚きを持って眺めていた冒険者たちももう最近では驚くこともなく受け入れているようでしたわ。
そしてその結果、わたくしたちが銅級の昇格できるかどうか、今日の成果で決まるというところまで来ましたの。
今日のメインの依頼は『切り裂きウサギ退治』。
夜間群れをなして畑に侵入し、作物の根を切ってしまう、農家にとっては頭の痛い魔物です。
わたくしたち『フィフスエレメント』の五人に、クリストのパーティの四人とミゲルたち見習い鉄級冒険者たち四人、それにダビドと合同十四人でクエストに挑んでいます。
ドザザッ!ドザザッ!ドザザッ!
今日はダブーの走る音は一段と大きいですね。
それもそのはず、わたくしも乘っているうえ後ろに枝の張り出しの大きな束を引きずっているからです。
ガサガサッと何かが草むらを走って逃げていきます。
ぷぉ~~~
ぷぉ~~~~~~
わたくしの吹く角笛の音が草原に響き渡っていきます。
吹き終わるとわたくしは反対側の手に持つ熊手で藪を叩きながら走り回ります。
落ちないように膝でダブーを挟み込み、騎乗で手に持つものを入れ替えたりする訓練にちょうどいいでしょう。
カッティンバニーは魔物といっても戦う力はほとんどありません。
ただ逃げ足がとても速く、討伐依頼を受けた冒険者パーティが一日がかりで取り掛かっても、よくて一日に五~六羽位しか狩れない厄介な魔物でもあります。
そのはずですが、
バシュ!ビシュ!と風下にいる射手の弓鳴りは途絶える様子もありません。
第一の射手はエーリュシエル、今日は速射性に優れた短弓を使い百中の腕前を存分に発揮しています。
第二の射手はサクラさん、木目を生かした美しい弓を使ってどんどん射倒していきます。
第三の射手はレピ、誰かとお思いでしょうが、クリストのパーティのスカウトです。
弓も使えるそうなので本日の狩りでの射手役に立てています。
男ばかりのパーティでただ一人の女性ということで、多少乱暴な口ぶりですが、声も格好もちゃんと女性です、スレンダー美人ですわ。
第四の射手はフリーの銅級冒険者ダビド、一人だけクロスボウを使っての射手組参加です。
依頼を選別してくれただけでなく、依頼の達成方法も教授してくれるとのことで、全体を見渡せるこの場所に配置しています。
弦を少しゆるめに張り、しかし獲物をしとめるには十分な調整は、巻き上げを使わないで素手で弦を引くことを可能にし、その連射力はサクラさんを超えエーリュシエルに迫る勢いです。
射倒した切り裂きウサギはヴェルガとこれまたクリストパーティのロルツが回収しています。
弓で誤射されないように背中に旗を立てて草原に点在する獲物の回収です。
背の低いゴブリンのヴェルガは草原をすばやく移動し、処理している場所にどんどん持っていきます。
獲物を持っていくのは馬車に設置した仮の処理場です。
討伐証明の耳落としと皮剥ぎ、魔石取りをしています。
皮を剥ぐのはミゲル以下四名の冒険者見習いパーティで、いつもは都市内の小さな依頼で小銭を稼いでいる彼らも今日は郊外での仕事です。
冒険者見習い制度というのは街中や、安全が確保された郊外で冒険者のお手伝いをする子供たちで、身寄りのない子供のうち修道院などで保護されていないものを冒険者ギルドに登録したものです。
魔石はエル部長が一手に引き受けて取り出していきます。
皮を剥かれ魔石を取られたウサギの肉はさらにエル部長の冷却魔法で凍らせられ樽に放り込まれます。
凍らせると肉が傷みにくいんだとか、なるほどと思ったものです。
血と脂の匂いが盛大に漂いますので、肉食の獣が寄ってきた時の備えに飛び道具が使えない連中は、処理場でミゲルパーティの護衛として待機しています。
具体的に言うと黒マントのクリストと、ヴェルガにすねを打たれて転げまわって醜態をさらしたジャックスとかの持ち場ですわ。
そしてわたくしはダブーと一緒に勢子役です。
夜行性の切り裂きウサギは昼間は草原のねぐらで眠っています。
そこをわたくしがダブーを駆り、派手な音を立てて走り回ることで、巣穴から追い出します。
驚いて巣から飛び出した切り裂きウサギは本能で風上にいるわたくし達を避け、風下の射手の目の前に駆け込んでしまう、というわけです。
大きな音を出す必要性からわたくしも戦鎧、ダブーも面あてと鎧装備の重装備です
何かが逃げる音を聞いたり見たりしたときはわたくしも角笛で知らせる手はずですが、もう狩りの開始からずっと吹きっぱなしです。
一日続けたら一体どのくらいの獲物がとれるのでしょうか。
今日はこのようにわたくしたちのパーティが、クリストパーティの四人と見習い冒険者ミゲルの四人パーティ、合わせて九人を雇う形で依頼を遂行します。
彼らの功績にはなりませんがクリスト達には依頼の三倍の報酬、ミゲル達には正値の報酬を支払うことで合意しています。
まぁ今まさに積み上げられている戦果はそんな報酬がはした金のように思えるほどの量になっていますが。
◇◇◇◇
「うひゃあ、こいつはすごいわ、大猟も大猟になるねぇ、ここいらの切り裂きウサギ狩りつくしちゃうんじゃない?。
弓の引きすぎで腕がパンパンよ!
割り増しもらってもいいくらいじゃない?」
「がっつくなよレピ、お前たちには相場の三倍の報酬が転がり込むことを忘れるな?
昨日の奉仕依頼、どぶさらいでもしたか?
下水の匂いがする冒険者は依頼主も嫌がるんじゃないか?
それよりまじめにやって今日の依頼主に恩を売っておいた方がいいと俺は思うぞ」
「ちぇ、わかったわよ。まじめにやりまぁ~す」
「まぁ報酬増額は依頼主に話してやるよ。
思ったより取れすぎた」
不自然に揺れる草むらを見逃さないようにしながら
「騎兵と弓兵用意できるか聞いたら、あんなとんでもないので乗りつけてきやがって。
効果ありすぎだ、さすが魔王の国ヴィクシアのお姫さんだな」
「ねー、双角大猪なんて名前しか聞いたことないし、騎獣にできるなんてねぇ」
「まぁこれだけ狩ってもまだまだいなくなったりしないけどな、切り裂きウサギ。
三月ぐらいはおとなしくなるだろうが」
「そうなんですの?
一年くらいは依頼も出ないと思ってましたのに」
サクラさんが尋ねます。
「見たところ年寄りや雄が率先して逃げに走ってるのを狩っている。
そいつらを囮にして若い雌や子供は巣穴の奥深くに逃げ込んで出て来やしないのさ」
「はぁ……我々も工夫して大きな戦果を挙げていても獲物の方も小細工するものですわね~」
エーリュシエルも感嘆しています。
「生きる為、生き残るために犠牲を最小限にしようとするのは人も獣も変わりはしねぇさ。
根こそぎ倒しちまったら俺たちの依頼も少なくなっちまう。
だからこれくらいでいいのさ。」
◇◇◇◇
わたくしが射手のところに到達したら今日の狩りは終了です。
さて、もう少しで合流かしらと思ったその時、わたくしの角笛とは別の甲高い音の笛の音が響き渡りました。




