第三十三話【銅級冒険者ダビド】
◇◇◇◇第三十三話【銅級冒険者ダビド】◇◇◇◇
「なぁ。
なぁあんた、今手に取った依頼、出来れば戻してやってくれないか?
ギルドに属さない掲示板に群がる鉄級冒険者とあんたたちとでは装備の質が段違いで高いのは分かる」
むさくるしい無精ひげを生やした男がわたくしに話しかけてきました。
胸の冒険者証は銅色。
一目見た印象はむさくるしいおじさんです。
腰に短めの剣をさしています。
「それな、やった後にシスターさんからお手製の菓子が配られるから小さいなりたての鉄級冒険者に依頼料の割に人気があるんだ。
連中甘いものなんて何月に一度口にできるかわからねぇしな」
「下位の冒険者なんてその日暮らしの宿無しと大して変わりはしない。
ついでに一晩礼拝所に泊めてもらって、おいはぎの心配をしないで済む寝床も確保できる駆け出しの鉄級冒険者にはありがたい依頼なんだ」
「頼むよ。
代わりにあんたたちにぴったりな依頼見繕ってやるからさ、なぁ」
そういわれてはもう戻すしかないでしょう、さらばシスターの手づくりお菓子。
仕方がありませんわ、手作りお菓子。
寄進したら食べられるかしら手作りシスター。
わたくしが募集票をいくつも張り付けた掲示板に『修道院の片づけ』を戻すと、ぴょんと体重の軽いもの特有の動きでその依頼票を取っていったものがいます。
わたくしの足元を通り抜けた影は掲示板前の人垣を通り抜け先ほどの黒マントの冒険者の前に駆け込みます。
「取ってきたよクリスト兄『修道院の片づけ』!
これでいいんだよね?」
「ああ、そうだミゲル。
こいつは本来お前たちには回らなかった依頼だ。
譲ってくれた人とそうするように声をかけてくれた人に頭の一つも下げておけ」
「はーい、ありがとう、おっちゃんにぶー姉ちゃん」
!?未だかつてない呼ばれ方をされた気がしますが、まぁいいでしょう。
頭を下げてくる相手に対する私の礼は、手をあげて軽く振る、ですわ。
「俺たちとは遺恨なしでいいか?」
「構いませんわ。
ギルドのペナルティもあるようですし、逆恨みに付き合えるほど暇ではございませんの、まぁ一つ貸し、ということでいかが?」
「わかった、じゃあまたな」
今回はこれでいいでしょう、大したことをしたわけではないですし。
去っていく黒マントの背中にそう言うと、彼も右手を挙げてペナルティの依頼をこなしに出発しました。
「さて約束ですわ、わたくしたちにぴったりな依頼とやらを紹介してもらいましょうか」
「おっちゃん……
おっちゃんなぁ……
まぁ三十過ぎてればおっちゃんかぁ」
何やら同じように衝撃を受けて意識が飛んでいる模様ですわ。
顔の真ん前で平手を打ち合わせてこう告げます。
「おっちゃんと呼ばれたくなければ身づくろいに気を使うことをお勧めいたしますわ。
はっきり言ってあなた、むさくるしいですわよ」
「おっと、まぁそういってくれるな、むさくるしいのもおっちゃんなのもは承知だからさ。
一つ確認なんだが、あんたらは学園都市の学生さんでなるべく短期間に、できれば二週間くらいで銅級に上がりたい。
これで俺の認識はあっているかい?」
「えぇそうですわ、わたくしたちの恰好で学園生なのは推察が付きますわね。
学園のカリキュラムの関係であまり時間をかけずに銅級に上がりたいのです、えーと」
まだ名前をうかがっていませんわね、そういえば。
「ダビドだ。
フリーの銅級冒険者ダビド、腕はまぁ中堅といったところかな。
長いこと銅級やっているおかげで鉄級や銅級の依頼のコツは大体つかんでいるつもりだ。
よろしく頼む」
自信ありげにそういうと胸を張ります。
そうして姿勢よくしていると意外と若いのかなとも思えます。
「ピピル、ヴィクシアからきたピピル・マ・ピピルですわ。
よろしく」
あとは次々に名乗ってわたくしたちのパーティとの顔合わせを済ませます。
「それで?
多少金銭的に割に合わなくてもランク上げを優先する方針で構わないんだよな?」
「えぇあなたには申し訳ないですが冒険者としてのの依頼は、わたくしたちにとって副収入の一つにもならない額ですし」
「そうかい、景気がいい話だねぇ。
まぁ学園出身のあんたらは銀級くらいまでは俺たち一般冒険者より少ない功績で上に上がれるらしいから、とっとと上がって講義に専念してほしいもんだ」
まぁ正直に言ってくれますこと。
確かに学園生は学園での講義や訓練も含めて判定されるせいで一般の冒険者の方よりはるかに少ない功績で昇格できます。
実際は机上演習や戦技講習などの効率化した演習があるからこその優遇なのですが、それを知らなければ仕方がありませんわね。
「十日やそこらで俺たちが二年以内にこなさなければならない依頼を達成するためには、がむしゃらにやっても無理だ」
ダビドは顎に手をやり顔を掻きながら言葉を続けます。
「ではどうするか」
私の顔に視線を合わてそう言うと、掲示板からいくつか依頼表を取ります。
「まず点数の高い依頼を選ぶ。
次に依頼に集中できる体制を作る。
寝不足で集中できないなんてもっての外だな。
ここまでは当たり前だろ?」
そういうとさらに掲示されている依頼表を取り、
「点数の低い依頼や拘束時間が長い依頼は避けるべきだろう。
これとこれとこれ、あとは……これも出来るな」
「この依頼を選んだのは達成期限が十日以内の依頼だ。
時間が勝負だからな、急ぎの依頼は得点が高い」
「次に今選んだメインの依頼を達成するときについでに達成できそうな依頼を選ぶ。
これとこれ、あとこれ。
この辺も達成できるな。
お、こいつがあるのは運が良い、だいぶ楽ができるぞ」
どんどん掲示板から依頼票をはぎ取っていきます。
「おいおいダビド、そんなに景気よく引っぺがして達成できなかったら違約金で丸裸にされちまうぞ」
知り合いでしょうか、年かさの銅級冒険者がダビドに声を掛けます。
「だーいじょうぶだよ、ヘタうってひどい目見るのは俺じゃない。
それに依頼未達なんて見っともねぇこともしねぇよ、まぁ見てなって」
そうしてかき集めた依頼票を束ねてわたくしに手渡します。
「じゃあピピルさんよ、この依頼票を受付にいって受理してもらってきな」
なんだかすごい量になっていますがホントに大丈夫なんでしょうね。
受付のお姉さんも目を見開いていましたけど。
「あ、それからな、依頼着手は明日以降だから」
「え、今日から動かなくて大丈夫なんですの?
時間が勝負とか先ほど言っていませんでした?」
「期限内に全部の依頼を完了させるには今日から依頼にかかっちゃダメなんだ」
どういうことでしょうか。
ダビドが続けます。
「今日は依頼の準備にあてる。
手分けして必要な物資の調達だ」
「さあ準備しなきゃいけないものはいろいろあるぞ。
依頼票の写し貸してみな、必要な道具を書き込むから。
種別ごとまとまったら手分けして買い出しに行ってもらうぞ」
依頼票の写しにどんどん殴り書きで物品が書き込まれていきます。
「あ、魔法のスクロールが必要なら大体ボクが作れるから、というか魔法使いが一人いると幅が広がったりしない?」
「なんだって?
うぉうスターペンタゴンだって?
じゃあ四属性は大丈夫ってことか、あとは……光だな」
「あたり。
よくわかったねぇ。
ひょっとして……」
「おっと、俺の詮索はよしてくれよな」
エル部長との怪しげな会話をしながらも手は止まらず、すべての依頼表に必要な物品を書き込むと、効率よくお店を回れるように分類します。
「じゃあ手分けしてこれを手に入れてくれ。
手元にある分があってもなるべく店で購入してくれ。
清算するとき持ち込みの消費財が少ない方が面倒が少なくなる。
あとなるべく行先で騒ぎが起きないようにピピルとヴェルガは俺と留守番な」
「じゃあよろしく。
本部は俺の定宿の『羽ばたく燕亭』だ。
買い物した品はそこに運び込んでもらう」
「荷物が多そうなら荷馬車の貸し出しを使え。
ギルドの裏手に大型討伐対象運搬用の荷車がある」
そこまで説明するとダビドはパンと手を叩きこう告げました。
「行動開始だ」




