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第三十二話【鉄級冒険者冒険者のクリスト】

◇◇◇◇第三十二話【鉄級冒険者冒険者のクリスト】◇◇◇◇


お茶とお茶請けを堪能し小会議室を出たわたくしたちの左胸には黒鉄でできたバッヂが付いていました。

冒険者パーティ『フィフスエレメント』は冒険者ギルドに無事登録完了された、ということです。


さて、手始めにどうしましょうか。

わたくしたちを受け入れてくれるクランを探すか。

しばらくフリーでフィールドクエストをこなして銅級になるまでポイントをためるか。


鉄級から銅級に上がるにはクランに属しているかどうかはあまり関係ないようです。

ギルドの片隅に掲示板があり、そこにクランに斡旋されなかった下位の依頼が張り出されているからです。


活動時間に制限のあるわたくしたちは、フリーで依頼を受けてランクを上げた方が良い気がしますが……

思い切ってお兄様に相談してもいいかもしれませんね。


「おいそこのオーク、ユーリアちゃんに何してくれたんだァ?」


ぼさぼさ頭のパッとしない容姿の男が因縁をつけてきます。


「わたくしが誰に何をしたですって?

 意味が分かりません。

 絡むのはやめていただけません?」


予想より小ぶりの獲物ですね、まぁいいでしょう。


「お前たちの出てきた部屋に入ってから様子がおかしいんだよォ!

 蒼い顔して「ゴブリンが……」とか呟いてるしよゥ」


ん……お茶とお茶菓子を持ってきた受付嬢のことでしょうか……?


「その、ユーリアちゃんというのが受付に座っているあの女性のことなら、わたくし達は何もしていません。

 体に触ったりした訳でもありません。

 ゴブリンが……というのであればわたくしのパーティのヴェルガと目が合ったくらいでしょうか?

 実際のところどうだったのか本人のつぶやきを耳にする以上の事情を、本人にお尋ねになったらいかがでしょうか?」


そうお答えしたら額に血管を漲らせて


「お前俺のことバカにしてるだろ!」


大口を開けて怒鳴ってきます。

あぁうるさいこと。


「バカになどしておりませんわ。

 バカなんですわねぇ……

 とは思っていますけれども」


「てんめぇ調子に乗るんじゃねぇぞぉ」


「調子に乗るということがどういうことかわかりませんが、わたくしの体調は平常ですことよ?」


「むがぁ!

 もぅいい!

 おいそこのゴブリン!

 俺と勝負だ!」


「ギ?アダ、アーダト勝負?

 ドシテ?」


キョトンとした顔で自分を指さすヴェルガですが


「おまえがユーリアちゃんに悪さをしたからだよ」


そういうと腰に下げた大型のナイフを引き抜きます。


さすがに冒険者ギルド、刃物を抜いた人間がいても悲鳴は上がりません。

むしろわたくしたちの様子をうかがっていた野次馬の輪が何歩か広がります。


「ゴブリン野郎なんてやっちまえー」


「ついでにオークも懲らしめちまいな!」


「さぁどっちが勝つと思う?

 若き冒険者かゴブリンか、さぁ張った張った!」


わたくしを懲らしめろという罵声を発した顔は覚えました。

後でエーリュシエルに詳しく調べさせましょう。


「ゴスジン、ドスル?

 タタカウ?アヤマル?」


あの決闘裁判から老師の教えを受け、武術の鍛錬を続けるヴェルガとナイフを構える男を見比べます。

そのうえでこの勝負の賭けの胴元に


「ゴブリンの勝ちに金貨五枚」


そう告げます。


そして、


「やってしまいなさい、ヴェルガ。

 ただし刃物は使ってはダメよ」


「ワカッタ!ショウブスル、ギィ!」


わたくしの許可を受けるとヴェルガは背中から鎌を取りだすと、鞘を外さずに真っすぐにナイフを構える男の足元に駆け込みます。

そして交差する瞬間バキーンといい音をさせて男のすねを強打して駆け抜けていきます。


「アッーーーー」


すねを抱えて床の上をごろごろ転がる男の滑稽さとみっともなさは、もうどうしようもなく見苦しいものでした。


「ダイジョブ?

 アタマウッテナイ?」


そうやって喧嘩を吹っ掛けた相手に心配されるのはどのくらい情けない気持ちなのでしょう。

聞いてみたいものですわ。


「くっそう、油断した!

 もう一回勝負だ」


「あなたは命を懸けた勝負でもそういうのかしら?

 言いそうですわね、無理ですけど」


バッと音を立てて扇子を広げて口元を隠し


「ヴェルガが本気ならばあなたのすねは切り落とされているというのに」


何しろ今は鞘に納まっているヴェルガの鎌は、某国の王子が立ち合いで負けた折に証拠品として接収された剣を、裏から手を回して手に入れて鎌にすりあげなおした代物。

切れ味は折り紙付きですのよ。


さて賭けの胴元のお兄さん儲けられなくて残念でしたわねぇ。

きっちり掛け金払っていただきますわよ。


まぁ受付のかわいいお姉さんにいいところを見せようとしたのでしょうが、相手があなたの思惑通りの実力ではありませんでしたね、残念でした。


「くっそう、ならばそこのオーク、俺と!」


「ジャックス……

 今回はお前の負けだ、ここらで引け」


なおも抗うようにこちらにちょっかいをかけようとする男をいさめる声がします。


その声は低く落ち着きがあり、ある種のカリスマを感じさせていました。

わたくしたちに絡んできたジャックスが、頭から冷たい水をかけられたように硬直し、声を発した丈の長い黒マントに身を包んだ長身の男を横目で見つつ


「クリスト、引っ込みつかねぇよ」


「つくもつかないもねぇよ、チ、ほらきた……」


「ピピル君の予想通りだったな。

 ジャックス君、ゴブリンにさえ勝てないのは戦闘パーティの一員としてその実力に疑問を持たざるを得ない。

 ましてや得物を抜いて負けるとはどういうことか」


ギルドマスターの登場です。

先ほどの打ち合わせ通りですわ。


「ギルドオフィス内での許可のない武器の露出は禁止されている。

 クリスト君のパーティは今日、無報酬でギルドの依頼をこなしてもらうぞ」


えー、とジャックスというかリーダーは黒マントの男のクリストでしょうか、ともかく彼らのパーティメンバーから不満の声が上がります。


「チ……わかったよ。

 どこでなにををやればいいんだ?」


カリストのパーティもギルドマスターも、もうわたくしたちに用はないでしょう。

では依頼のたくさん張ってある掲示板に向かいましょうか。


その中の一つに目が向き依頼票を掲示板からはがしとります。


『修道院の片づけ』……


修道院の道具の整理を手伝ってほしい。

募集人数五~六人

報酬一人銅貨二十枚その他。


まぁわたくしたちがやったら間違いなく騒ぎになるでしょうね。

それも一興ではあるのですが……

報酬のその他が気になるところです。


「なぁ。

 なぁあんた」


わたくしに話しかけてくる者がいます。

一体何でしょうか。

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