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第三十話【ダンジョン探索、講習②】

◇◇◇◇第三十話【ダンジョン探索、講習②】◇◇◇◇


戦闘後の処理も完了しました。

では移動開始しましょう。


「では先ほどと同じように一単位、十分移動ね。

 どのくらい進めたかしら、十面ダイス二回合計の数字を二十でかけてヤー(九十㎝)で表して」


「リーダーよろしくですわ~」


「今まであまりいい目が出なかったのですが……

 えい、四、もう一回。

 八、合計十二。

 まぁまぁですわね。

 二百四十ヤー前進しますわ」


進む距離を告げると教官殿から途中で進行停止の声が掛かります。


「おおっと、百六十ヤー前進したところで大きな扉発見だ。

 様子をうかがってみる?

 それともいきなり開ける?」


「様子をうかがってみます、ヴェルガ、お願いしますわ」


「ワカッタ……

 コレモダイスフル?」


「はい、振っていたいただきましょう。

 好きなダイスで一以上で成功です」


「これ失敗しない奴じゃないですかね~?」


エーリュシエルがのんびりした声で尋ねますが、


「どうでしょう、運次第です。

 何をやっても悪い結果しか出ないなんてこともあるんですよね。

 実際同じようなケースで失敗する人もいます。

 失敗しないように最大限の努力と物品を費やすのに、最後はやっぱり運になるのです。

 失敗しないはずなのに、で命を落とすなんてことは冒険者にはよくあることです。

 逆に成功するはずのないことをやり続けられると英雄と呼ばれる冒険者になります」


「二十面ダイスデ二十。

 ズゴクイ?スゴクナイ?

 何カゴ褒美アル?」


ヴェルガがにぱっと笑いながら教官殿に話しかけます。


「えーそれ引いてきますか。

 わかりました。

 推測、ボスの情報『ファングタイガー』です。

 扉の鍵穴からのぞきこんで確認した、とでもしますかね。

 扉を開けて戦闘開始しますか?

 扉を開けずに退却しますか?」


「『ファングタイガー』相手にして今の戦力で勝率はどのくらいですか?」


カラカラと衝立の向こうでダイスを振る音がします。


「まぁ無理でしょうね、何人か食べられちゃいますよ、多分」


「ボス情報をギルドに連絡するだけで成果になるとボクは思うよ?」


エル部長がそう助言します。


「撤退します……」


「では帰還ということでいいですね。

 通常の移動よりは敵とのエンカウントは低いですが、ゼロではありません。

 ダンジョンから脱出するまで油断しないように。

 ちなみに脱出までの距離とか道順は大丈夫ですか?」


そういうとヴェルガがブツブツ言いだします。


「エートエート、オデノ歩ク一歩ガ大体ーフィー(三十㎝)ダカラ……

 エートエート三万六千九百四十二歩イタ、一万二千三百十四ヤー?」


「あっている。

 ボクの記録でもそうなっている」


「道順ハ大キナ扉ニムカッテサガッテイッテ左右左右左左右右デ出口」


続けて道順さえも諳んじて見せたヴェルガにわたくしも驚きが止まりません。


「うんあっている。

 すごいねヴェルガ君。

 一度ピピルさんと一緒にボクたちの部室に遊びにおいでよ。

 おいしいお菓子があるんだよ」


「ゴスジンイイカ?

 オデ、オカシタベルノスキ」


「構いませんわよ。

 時間が合ったらいつでもかまいませんわ。

 エル部長、ヴェルガはわたくしの大事な家臣ですから危険な実験は無しよ?」


「心外だなぁ、ボクの作ったお菓子をあんなにうれしそうに食べるのに」


「もちろん信用はしていますが一応ですわ」


「おーい、じゃれてないで帰ろうよ」


テーブルの上の衝立の向こうから教官殿の声がかかりました。

そうでした、帰還するまでが冒険です。


慎重に進みましょう。


帰り道はヴェルガが敵よりも先に発見したことでうまくやり過ごすことができ、帰り道の敵遭遇も無く、無事わたくしたちのパーティは帰還したのでした。


「これで『ダンジョン探索・講習一』での探索部分を終了します。

 財物や未鑑定の物品の鑑定をして清算しようか」


「えーと?

 銅貨百二十四枚、銀貨五十一枚、謎のフラスコ、青い石のイヤリング、虎目石の腕飾り、解毒薬のフラスコ、毒薬のフラスコ、以上かな?」


「謎のフラスコは鑑定料銀貨四枚するけど鑑定する?

 ちなみに只売ったら銀貨十二枚になるよ」


「鑑定で」


わたくしが言うと


「まぁ本番だったらボクが引き取って鑑定しちゃうけどね、今日はそれでいいと思うよ」


「冒険者ギルドの鑑定士の鑑定結果は点火剤だそうだ」


「ん、揮発性の高い油ってことだね」


「そうだね、フリントですぐ着火するから結構便利だよ」


「他の取得物も全部換金すると金貨一枚と銀貨七十二枚、銅貨六十四枚だね」


「では使用したポーションなどに使った経費を差し引きましょう。

 傷薬ポーションと魔法ポーション、あとは松明と……

 占めて銀貨四十八枚ね。

 清算すると銅貨一万二千七百六十四枚、一人当たり銀貨二十一枚、銅貨二十七枚かしらね。

 修得品で何か欲しものがあれば分け前から差し引きしますわ」


「じゃあボク虎目石の腕飾りが欲しいな。

 なんとなく魔法の品の気がする」


「教官殿、虎目石の腕飾りおいくらになりますか?」


「銀貨十枚。

 ちょと安物な感じがするけど?」


「はい、それで大丈夫です、じゃあボクの取り分から引いてください」


きっぱりと言い切るエル部長です。わからないものは絶対そのままにできないのですね。

魔法使いとはいえ学者よりのお方。

見た目に気を使わないせいかいまだに性別が判りませんが。


「じゃあこれで清算終了。

 お疲れさまでした」


「「「「「「お疲れさまでした」」」」」」


ついたてを畳んでパタンと音を立て革の表紙のシナリオブックを閉じるとシブ教官殿は


「おめでとう、『ダンジョン探索・講習一』成功だよ。

 次の『ダンジョン探索・演習一』も頑張ってね」


続けて、


「では総評として。

 一つ一つ確認しながら例え回り道になっても、トラブル回避を重視した立ち回りはかなりポイント高いね。

 ボスモンスターを回避しギルドに報告したことで討伐部隊が出せるので、これも貢献度が高い。

 何しろ誰も死んでない、これはかなりポイントが高いよ。

 全員無事であること、これが意識から欠けているといつか必ず全滅すると思う」


「そして目的を見失わないこと。

 今日のようにボスに挑む必要があるのかないのか必ず考えなさい。

 すべては自分より上手の可能性がある。

 これは冗談でもなんでもなく冒険者がいつも考えなくてはいけないことよ」


「死者蘇生はダンジョン内で実行するのはあまり現実的じゃないからね。

 大体はそのまま撤退するけど袋を持っていくとしても人一人分の重りがついたパーティは敵に捕捉されやすい。

 欠員が出ているパーティでどのくらい戦えるかな?」


きちんと座り方を整えるとこちらをまっすぐ見て、

 

「で、だ。

 君たちを一言で示すなら、優秀。

 そうだなぁ……」


教官殿は腕組して考えます。

たわわに実った形のよさそうなモノがふにゅんと形を変えます。

ただ残念ながらそれに感嘆する人間はわたくしのパーティにはおりませんの。

エル部長も女性の肉体的特徴には一切興味を示しませんし……

いい加減はっきりさせてもいいですわね、エル部長の性別。


「過去にさかのぼってみても、そうだね。

 一回の探索のランキングとしては五指に入るんじゃないかな?

 後で確認してみよう。

 ただ今回の結果がまぐれではないことを祈るよ」


やりました。

これで次は『ダンジョン探索・演習一』を受講することができるようになりましたわ。

演習ダンジョンとはいえ本物のダンジョンでの実技テスト、楽しみですわ。


ちなみにランキングの結果は二位だったとのことです。

一位はファングタイガーを欠員なしで倒したお兄様のパーティでした。

さすがお兄様ですわ。

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