第二十八話【部室でお茶会】
◇◇◇◇第二十八話【部室でお茶会】◇◇◇◇
今日はエル部長の研究室で『第五属性魔法研究部』の部会ですわ。
といっても、
「はーい、甘いパンケーキが焼けたよー。
サトウカエデの樹液を煮詰めたシロップもつけてるからたくさん食べてねぇ」
かわいらしい声でお茶菓子を用意したのはエル部長。
ゴトンと音を立てて置かれたスキレットからあふれんばかりに膨らんだパンケーキは見た目通りの柔らかくふんわりとした焼き加減です。
エル部長は料理が得意らしく、
「魔法は科学だー!
料理も科学だー!」
とかいって実験ついでにお菓子を作るそうです。
「これだって発泡、膨張の化学反応実験の一環だよ?」
それがおいしいからちょっと怪しげな見た目でも、ついつい食べてしまうのですわ。
お茶会になってしまっているのもこの間の初級魔力制御の講義のとき、わたくし以外のみんながおいしそうにお茶を楽しんだのをうらやましがったからではございませんわ。
「まぁ皆さんよろしいですわね、お茶にお菓子まで」
などという愚痴は断じて言っておりません、頭では思っていても。
たまに思ったことがそのまま漏れているようですが。
今日は部室に備え付けのこんろで沸かしたお湯が適温になったらお茶を入れます。
エル部長の西方風のお茶はいろいろな香りの茶葉をブレンドして楽しむものだそうです。
よい香りのお茶は甘いお茶請けにもよく合い、場を和ませます。
しばし歓談の後エル部長が話し始めます。
「そうだ、この間のピピルさんの生成した液体の成分が大体わかったよ。
九割九分はこれで間違いないと思うんだけどねぇ」
小さな研究室の小ぶりなテーブルと椅子に窮屈そうに座っているテルベルトが、
「おう、どうなった」
と真っ先に話に乗ってきます。
あなた先ほど
「なかなかいけるじゃねーか」
とかいいながらとりわけ用の大匙でぐわっとスキレットからケーキを持って行ったの忘れませんからね!
どう考えても他人の分まで食べてしまっているでしょうが、あなた。
大体あなたは、『第五属性魔法研究部』に入部したわけではないでしょう。
なぜここに大きな図体で場所を取っているのですか、まったく図々しい。
そうそう、わたくしの魔法の結果の話でしたわね。
あのあと何度か自分でも試してみたのですが、やっぱり呪文を描いたメモがないとあの少しにおいのあるお湯はできませんでしたの。
呪文の文章をいろいろ試してみた結果。
どれだけ純粋の水に近いかはあまり変化がありませんでした。
やっぱり同じようなちょっと臭いようなにおいがします。
温度は安定していますわね、というか調整がききます。
特に苦労もなく調整できるあたりそちらの才能が全くないというわけではなさそうですわ。
量は試した限りバスタブ一杯、これはそれ以上の器がないのと、失敗して大量の汚泥を作るわけにはいかなかったからですわ。
バスタブ一杯のお湯はエーリュシエルが喜んでお風呂として使っていましたわ。
感想は
「肌がつるつるぴんぴんになるのでとても素晴らしいです~。
定期的にお願いしたいくらいですわ~」
と、大絶賛でした。
わたくしとしては不本意なのですが。
魔法でお湯を使うたびに小さなビンに少し取っておいてその時の条件を書き付けたラベルを張ってエル部長に渡したのですが、あれ一つずつ測定したのでしょうか。
魔法のことに関しては細やかなエル部長ですから一つ一つ丁寧に検査したのでしょうね。
とはいえわたくしが魔法を曲がりなりにも使えるようになったことに関しては、エル部長に感謝ですわね。
ところが、市販のスクロールや紙やインクを試した結果があまり良いものではなかったのです。
呪文を書く紙もインクもエル部長特製の物でなければうまく発動できないのです。
わたくしがまともな魔法を使うにはエル部長頼みになってしまいますわねぇ。
「ピピルさんが熱い水を作るにあたって水中に含まれる成分は苦土、石灰、曹達、硫黄。
やっぱりお風呂にすると怪我にいいだろうねぇ。
ボクも一度これで満たしたお風呂、試させてほしいなぁ」
「構いませんわ。
いつでもいらっしゃいませ」
「姫さんの作った呪文書付きのお湯は飲んでも大丈夫なのか?」
テルベルト……
率直なのはまぁ悪いことではないですけれどね。
作った本人がいる前でそうやって聞くのはデリカシーがないのではありませんか?
「カップで一杯くらいは問題ないはずだよ。
むしろ殺菌効果もあるみたいだから何かおかしなものを食べておなかが痛いときに飲むと効果がありそうだねぇ」
「なるほどねぇ……
俺ははあんまり魔法が得意じゃねぇからよ、魔法を使う相手とどう戦うかってどうしても考えちまうんだよなぁ。
まぁ俺が姫さんを敵に回すことはないんだけどな」
テルベルトはよく発達した犬歯をのぞかせ微笑みました。
野性味あふれるその笑みはなかなか魅力的で大変好ましく見えました。
中身はデリカシーのない筋肉バカなんですけどね。
なお、このことが原因でわたくしは居室に複数の男性を出入りさせるふしだらな女と噂されるようになりました。
出入りする人間すべてが火照った顔で、
「ほぅ……」
なんてなまめかしいため息をつくものですから、余計噂の信ぴょう性が増して否定するのに一苦労でしたわ。
わたくしは乙女です!
まったく噂好きのネタになると火消しが大変ですわ。
「そういえばもうそろそろ今年の登録科目確定だけどみんなもう決定手続きした?」
エル部長がお茶を飲みながら話しかけます。
そういえばそんな時期ですわね。
学園都市のスケジュ-ルは、早春の月の末週から盛春の月初週の二週間は登録科目の見直し変更ができる期間で、すべての講義がお休みになります。
ちなみにわたくしはすでに初級剣術が履修済扱いになっているので、初級の暗器術を追加受講することにいたしましたわ。
「わたくしは一点除いて大丈夫ですわ」
「私もあと一つ取りたい講義があるのですが、一人では難しいというか無理な講義でして……」
「あら?もしかしてダンジョン探索でしょうか?」
「よくお分かりで、もしかしてピピルさんも……?」
「そうです。パーティを組むのに人数が足りなくて困っているのですわ」
「ちなみに今何人の当てがあるのでしょうか?」
「わたくし、エーリュシエル、ヴェルガの三人ですわ」
「俺はアルガ殿下のパーティだからな、残念ながら姫さんのパーティには入れないのさ」
サクラさんが目を輝かせて
「まぁ、それなら私も入れていただけないかしら。
お願いしますわ」
と言ってくれたので、
「もちろん歓迎いたしますわ、こちらこそよろしくお願いしますわ」
これで四人パーティが揃いました。
パーティ登録の最低人数が集まったことになりダンジョン探索の講義が受講できます。
そんな話をしていると、
「あ、君たちが魔法を使うのも見てみたいから、ボクも一緒に参加していい?
ダンジョン探索って去年はあんまり旨味なさそうだなぁと思っていんだよ。
でも調べてみたらダンジョンから古代の魔道具が産出されることもあるらしいから行ってみたくなって。
参加させてくれると嬉しいな、リーダーはピピルさんでいいから」
「まぁそれならぜひご一緒しましょう」
ということで、エル部長にも参加してもらえることになったのです。
これで五人パーティができました。
回復力がちょっと不足かなとも思わなくもないですが、慎重に行動していざとなったら攻撃力と突破力で切り抜けられるでしょう。




