第二十六話【雷術の探究者エルダガス・ノバ】
◇◇◇◇第二十六話【雷術の探究者エルダガス・ノバ】◇◇◇◇
「どうして……」
それはわたくしが、初級魔力制御の講義に苦戦しながら実技をこなしているときでした。
初級クラスの魔力制御は子供が『魔力とはこういうものですよー』と教わると、なんだかんだしているうちにできるようになるものなんだとか。
確かにわたくしも使い方については簡単に覚えることができたのです、使い方は。
本日の課題は『コップに一杯お湯を作ってみよう』。
なんと、このくらいは人間界では子供でもできるものがほとんど、ということらしいですわ。
この魔力制御の授業、解放授業に指定されていまして、講義は誰でも受けることができるのです。
「どうして……」
解放授業のこの講義、時間が空いているし折角だからとサクラさんが参加してくださいました。
きれいな敷物を床に敷いて優雅に座り魔法で作ったお湯で抹茶という東方のお茶を淹れております。
この抹茶というものはサクラさんに前に一度飲ませていただきましたが、苦くて渋くて何が楽しくてこのようなものを嗜むのかと聞いてしまいました。
「口の中がさっぱりして茶請けの味も引き立つのですよ」
と、すまし顔のサクラさんに言われて、わたくしはなるほどそういうものかと感心いたしました。
実に飲食の世界は奥が深い。
時間があれば世界を旅してそこで食される甘味、いやすべての食べ物を食べ歩きたいと願うのです。
ちなみにそれをやってのけた方を一人、わたくし存じております。
決闘審判が終わり、わたくしを遠ざける者、あいさつ程度は話しかけてくる者、親しくなった者。
様々な距離でわたくしとの関係を築いていきました。
「どうして……」
エーリュシエルは決闘審判以来、わたくしの傍にいる時間が増えました。
自分の登録科目は早々に出席免除を勝ち取り、自由出席でないわたくしの講義も入口まで見送り、終了時には出迎えるということまでしてくれます。
講義はどうやって出席免除を勝ち取ったのか聞いてみると。
「ちょっと本気出しただけですよ~
てへ」
などと年齢不詳の巨乳ダークエルフがあざとい笑みを返すばかりでした。
そのダークエルフ、微笑みながらカップ一杯の紅茶を淹れ、焼き菓子など口にしています。
その袋はわたくしのお気に入りの『ボルジョー・ライヒ』の焼き菓子!
どうせわたくしには渡さずお兄様には差し入れるおつもりでしょう!
お兄様も身内と認めた者からの差し入れは断るということをしません。
もちろんエドがすべて毒見してからとはいえ、エーリュシエルのものは断ったりしないでむしろ楽しみにしている風さえあるのよー!
そして暇だから、とついてきたテルベルトでさえ自分のカップにお湯を作ってお茶を楽しんでいるというのに。
ところであなた飲む前にお茶に何か入れていたようですけど、お酒じゃないでしょうね。
先日の反省はどうしたというのです反省は!
このように皆がコップ一杯のお湯を作ることを楽しんでいるというのに……
どうして……
わたくしの目の前にあるカップには汚泥が煮えたぎっているのでしょう……
何故その蒸気は紫色をしていてとても毒々しく、その匂いは……
うっ!とてもではありませんが飲用には耐えないでしょう。
「姫さんの魔法は闇属性魔法というより毒属性だなぁ」
感心してるのだかあきれているのだかわからない口調のテルベルトを無言でにらみつけます。
全然効果ありませんけれど。
泣きそうになっていると、廊下をドタバタドタバターと走る音と共に換気のため全開になっている扉にバーンと手を突き
「ここここにっ!
ここに!ヴィクシア連合王国のピピル姫はおられるか!」
ケコケッケという鳥の鳴き声かと思いましたが。
これはまた厄介ごとのパターンではありませんこと?
「って何この匂い!
うっぶふげはぁ」
あらお鼻が敏感なお方だったようですわね。
そうお鼻といえばヴェルガの匂いを嗅ぎ取る力はかなり高いようで、老師曰く
『犬並み』だとのことです。
ヴェルガは大体老師に戦い方を学んでいるか、エーリュシエルから投擲術を習っています。
授業は習字と格闘術を学んで頑張っていると老師からは聞いていますわ。
まぁそれより今は問われたならば答えなければなりませんね。
エーリュシエルに目配せすると
「ピピル姫に何用ですか~?」
「え、あ。
お付きの人ですね、ぜひピピル殿下に力添えを願いたいことがありまして!」
エーリュシエルがわたくしに目くばせを返します
「はい、わたくしに何の御用ですの?」
「あ、あなたがピピル殿下ですね、初めましてボクはエルダガス・ノバと言います」
「願いがあるとのこと、何事でしょうか?」
「はい、実はボクは失われたといわれている属性、『雷』の魔法の再興を目指していまして。
でもなかなかうまくいかなくて、ほかの属性の魔法の研究をすればヒントがつかめたりしないかなと思っていたんです」
「自分は地水火風の属性魔法は結構使えて、光魔法も少しだけ使えます。
ただ闇属性魔法をうまく扱うことができないのです。
そこで闇属性魔法の使い手を探すにあたり、闇属性にかけては講師よりも優れているという噂で名高いアルガ殿下を頼ろうとしたのですが……」
「だいぶお忙しいようでお断りされてしまい、途方に暮れていたところです。
そうしたら今年度の新入生にアルガ殿下の妹姫殿下が入学されているとのこと。
これは是非にでもご協力いただきたいと思ってまいりました!」
「まず闇属性初級の教室を覗き、各属性の教室をのぞいてみたのですがいる気配もなく。
とある筋からここにいらっしゃると聞いてようやくまみえることかないました。
ちなみにピピル殿下、闇属性の方は……?」
話をするエルダガス・ノバ殿を観察します。
男の子にしては高めのハスキーな声は男女どちらとも言えませんし、体型もきゃしゃに見える身体にたっぷりとしたフード付きのローブをまとっているのでこちらでも判断つきません。
前髪も長く顔が半分以上か売れてしまっています。
首から下げた銅色の五芒星をかたどったペンダントと、腰の帯に差し込んだタクトがこの方が優秀な魔法使いであることを証明しています。
「え”わたくしの闇属性魔法ですか?
適正はございますわよ、適正は」
それをきいてぱぁっと輝くような笑顔になったエルダガス・ノバ殿はやはり性別が判りません。
「ただわたくし、闇属性魔法がうまく制御ができないようで、ほらこの通りですわ」
紫色のガスを発生する汚泥の入ったカップを見せます。
「え、これピピル殿下が魔法で錬成したものなんですか!
ちょっと見せていただいても!」
好奇心に目を輝かせわたくしが魔法で生成した熱泥の入ったカップに近付きます。
「課題は、ふむ、『コップに一杯お湯を作ってみよう』ですかぁ。
物質生成と温度の変化の初期問題ですねぇ。
物質生成、水は成功、ただし別系統の魔力が混入していますねぇ。
温度の変化も成功、ただしこちらも別系統の魔力が混入したことにより猛毒のガス状の生成物が生じている、あぁ先ほどの臭いはこれですねぇ。
ただし、ガス生成の原因は物質生成と温度の変化に混入したどちら魔力の影響によるか判別できませんねぇ。
どちらか、あるいは両方と思われますねぇ……」
考察を重ねるエルダガス・ノバ殿は、凛々しいといえる顔で、頭の回転の良さが感じられます。
「なるほど!魔力発動時の純度が足りないせいでこのようなものが錬成されたのですねぇ!」
「ええそうですわ、わたくしは闇属性の適正はあってもこのようなものしかできないのです。
これではお役には立ちませんよね」
良く言われるとは思っていませんでしたが予想外にけちょんけちょんに言われてしまい、投げやりな返事を返すと。
「でもこれ課題は合格してますねぇ」
はぁ?いったい何を言い出すのかしらこの子は。




