第25話【戦い終えて。または新しい因縁】
◇◇◇◇第二十五話【戦い終えて、または新しい因縁】◇◇◇◇
「反則を認める!
殺傷可能武器使用と致殺攻撃の反則でロート・キーンの反則負けとする。
よって勝者、ヴィクシア連合王国ピピル・マ・ピピル一回生!
これにより本決闘審判は三勝一敗でヴィクシア連合王国の勝利とする。
……おめでとうピピルちゃん、でも早く戻って治療して!」
反則勝ち……
わたくしは実力で勝つことができなかった……
多分実力でも負けていたと思われます。
運良くかわすことはできましたが、あの最後の一撃、わたくしの命を狙ったものですわ。
おなかの傷はとっさに身体をひねることが出来たので、貫通しているような見た目ですが、実は皮下脂肪を縫い取るように抜けているので、見た目ほどのものではありません。
でもわたくしをさいなむ敗北感は足を鈍らせます。
ボーンイーターを引きずるように足取り重く自陣に引き上げるわたくしを、いたわしそうに見つめるヴィクシア陣の皆々。
悔しい……
悔しい……
『古今無双』を目指すものとしてこのままにしてはおけません。
わたくしはお兄様の前にひざまずくと、
「アルガお兄様、申し訳ございません。
勝ちを拾ってまいりました」
「よい、相手の反則であろうとも何であろうとも勝ちは勝ち、誉であることに変わりはない。
丁度、癒し手が我が陣を訪れている。
診てもらうが良いだろう」
え、癒し手ですか?
訝しく思い見回してみると、ちょうどみんなのおかげで陰になっている場所から
「こっち、こっちよ」
手招きする声がしてそちらに向かいます。
そこには目立たないローブを着てフードですっぽり顔を隠した女性がおりました。
早速彼女はわたくしの傷を確認し始めます。
皆の背中を盾にして手早く鎧を剥かれ、あちこち押したりさすったりしながら、
「まったくもう、バカ共の相手してまた怪我までして!
あなたたちが簡単に喧嘩するのが戦のもとだというのに。
私の順位なんてどうなってもいい!
ケガ人が出るよりよっぽどましよ!」
ペタペタとわたくしの状態を確認するその手は暖かくてとても気持ちがいいものでしたわ。
「頭部異常なし、胸とおなか、おなかに傷あり、小破、え、ホントに小破なの?」
おなかの厚みは乙女の秘密ですわ……
「手、足の打ち身。
これならきれいに治せるわ、安心して。
では治療を始めます。
今日は抵抗しないでね」
そういうと彼女はおなかの傷に手をかざし、
『光よかのものを癒したまえ!回復!』
レジストしない回復魔法は実は初めて受けたのですが、その暖かな温度さえ感じられる光とともに、おなかの傷が奇麗にふさがりました。
「じゃ、私はこれで、相性の良くない相手もいることだし退散しまーす」
「ちっ、聞こえよがしによく言う。
今日は陣を借りている身、何も感じぬし、そなたに思うところもない。
疾く行かれるがよかろう」
サクラ殿がしかめ面で応じます。
海を隔てての隣国同士、思うところもあるのでしょうね。
なぞの癒し手、ということにしておきます。
彼女はわたくしの治療を終えた帰り際、フードをちょっと上げてヘールジャニアの陣をものすごい目で睨みつけ、『後でちょっと顔かせや』のジェスチャーをすると去っていきました。
「さあわれらヴィクシア連合王国の勝利だ、堂々と勝ち名乗りを上げよう。
皆、檀上へ!」
お兄様の声で決闘審判に参加したサクラ殿、エーリュシエル、カスパー、そして鎧を着直したわたくしと、お兄様が競技場の真ん中に整列します。
対面に並んだ聖騎士見習の面々は見るからに恐怖に顔を青ざめさせ、うつろな目をしております。
「怒ってる……マズイ……」
「参ったなぁ、どうしようか……」
よいザマですわ、帰って彼女に怒られるといいのですわ。
ミロル会長が声を発します
「本日の決闘審判はこれで終了とする。
決闘前の約定に従いヘールジャニア教国はヴィクシア連合王国に対する発言を誹謗・中傷と認め謝罪するように。
なお謝罪の態度いかんによってはやり直しを要求する場合があるので、真摯に実行するように求めるものである」
「「「「「どうもすいませんでしたー」」」」」
そろって素直に頭を下げるヘールジャニアの面々は泥人形のように無表情で、いっそおかしいとさえ思えるほどでした。
「ヴィクシア連合王国代表アルガ・マォ・エルテ・ヴィクシア殿、本件はこれにて決着したということでよろしいか」
「ことの蒸し返しをヘールジャニア教国がなさぬかぎり左様に思う」
「了解した。
ではエドモンド・シドリー教官、一言いただけますか」
「では剣術教官として一言、なかなか見どころの多い立ち合いで大変興味をひかれた。
各人これからも錬磨を怠らず励んでほしいと思う。
これは最終的に勝利したヴィクシア連合王国に限らず、ヘールジャニア教国にも同じことがいえる」
「なお、一点苦言を言うとするならば、上級生である二回生が率先して決闘をしていることである。
学園の規則が定めるところのものであるからこれを止めることではないが、いささか短絡的であるとのそしりは免れないであろう。
では解散、これから講義などがあるものは遅れぬように」
終わったのですね、正直私は気もそぞろにぼぅっとしておりました。
ヴィクシアの本陣に戻ると老師から
「お疲れ様、ピピル姫。
今日の相手は現状で戦うのならまあ、あの戦い方が最良だったろうよ。
明日からまた励みな」
というねぎらいをいただきました。
「アルガ殿下、ピピル姫。
共にに勝負に臨めたこと感謝の極み、またいずれともに轡を並べられることあるやもしれませんが、サクラ・カヅキ今はこれにて」
「相分かった、褒美はヤンマ皇国の寮に届くよう手配する。
今日はありがとう、また何かあればともに当たれればよいと思います。」
お兄様が微笑み、内向きの柔らかな言葉遣いをすると、サクラ殿は顔を赤らめ小さく頭を下げます。
お兄様のあの顔であの微笑み、彼女が顔を赤くしたのもよくわかります。
「ありがとう、サクラ殿。
勝負ではなく何事もなくともヴィクシアの扉はあなたのために開くでしょう」
わたくしが声をかけると、
「こちらこそ。
よろしければサクラとお呼びくださいピピル様」
「そのように呼んでくださるとは、わたくしとお友達になってくださるのですね。
うれしいサクラさん」
「はい、私のような下の身分の者が友となりたいと思うのは誠に恐縮ですが……
いかがでしょうか」
「いいえ、そのように卑下するものではありませんわ。
お気持ち大変うれしいですわ。
以後よろしくお願いいたします、サクラさん」
みんなわたくしたちの会話のやり取りを聞いて微笑んでいます。
わたくしにお友達が出来ました。
素敵なサムライの女性で、名はサクラ・カヅキさん。
わたくしの初めてのお友達ですわ。
一礼して去っていくサクラさんを見送ると
ミロル会長が少し慌てた様子でやってきました。
「押収したロート・キーンの武器の仕込み槍に毒が塗られているのが分かった。
ピピルちゃん、体に異常はないかい?」
「毒?
毒ですか……
特に何も?
治癒魔法をかけてもらったときに一緒に直してもらったのでしょうか?」
「そうか、何も異常がないならいいんだ。
しかし毒刃をつかうとはね……
仕切り役の学生自治会としてはヘールジャニアに一段厳しく対応しなくてはならないな」
「オークは毒が効きにくい、というか猛毒でも効かないことが多いぞ。
相手の聖騎士見習の坊や知らなかったらしいがな」
老師がそうおっしゃるとミロル会長は目を見開くと緊張を面に表し、
「あなたが名高い北の老師様ですか」
「ま、そんな呼ばれ方をすることもあるな。
そんな大層に礼をするようなものでもないがな」
「いえ父に会ったら自慢できます。
では」
さすが老師、あのミロル会長が緊張して応対するとは。
こうして決闘審判は決着し、わたくしの名は学園都市中に広がったのですわ。
やはりあんまりいい噂ではないようですが。
こうしてわたくしの学園生活は始まったのですわ。
第一章学園新入生ピピル 了




