第24話【副将戦ピピル・マ・ピピルVsロート・キーン】
◇◇◇◇第二十四話【副将戦ピピル・マ・ピピルVsロート・キーン】◇◇◇◇
中堅戦を終えて……?
会場にいる全員からの視線を集めつつスタスタと開始線からヴィクシア陣営に戻ってくるカスパーに
「いやーさすが空気を読めないカスパー君、こんなノリノリの雰囲気でもいっさいブレねぇのな」
そうテルベルトが声をかけると
「お前には何度か説明したと思うがな、テル。
僕は空気を読めないんじゃない。
読まないんだ」
「特にみんなが沸き返っているときこそ、必ず冷静であれと念じている。
なぜなら僕は将来、王を冷静にさせる立場だからだ」
カスパーはチラリとサクラ殿に目を向けると
「王の裁量にこそブレがあってはならない。
だからこそ常に他人と違う見方で物事を見るよう訓練されてきた。
他国の人間の前でこれ以上は言わない」
そういうとカスパーはアルガお兄様の前に跪き、
「アルガ様、首尾通り」
「うむ、大儀」
と短く礼を交わすと定位置であるお兄様の左後ろに侍りました。
その身のこなしは美しく、武道の訓練などしたこともないような感じではありませんでしたわ。
カスパーはデキる!
わたくしの勘に間違いはありませんわ。
「お~い、ピピルちゃ~ん
次、君の出番だけど準備できた~?
お相手お待ちだよ~?」
ミロル会長の声が聞こえてきます、出番……?
はっ!
兜かぶっていませんわ。
ちょっとお待ちください……
「はーっ、おまたせいたしましたわ、はーっ」
「あ~大丈夫大丈夫、息整うまで待とうか」
「何であるか、そのあからさまな贔屓は……」
「いいじゃないのー、後輩の一回生の子が息切らせてるってのに先輩の二回生の君、ロート君だっけ?
ふんぞり返って待ってるだけなんだし固いこと言いっこなしだよぉ。
息が整って尋常な勝負ってことでさぁ、ね。
よ・ろ・し・く」
そう、副将戦に出てきたのは赤いサーコートにひときわ目立つ一本の波形紋をあしらったフルプレート。
その兜の覗き穴は目の周りを大きく丸く取りそれを細くつなげた形をしています。
ヘールジャニア教国聖女候補モニカ・コルゥ親衛隊隊長、ロート・キーンがわたくしの相手として立ちふさがっています。
ロート・キーンが副将として出てくるとはわたくしと当たる為の小細工でしょうか。
嘗められたものですわ。
ならば罠ごと食い破るのみです。
「では副将戦を始める。
僕が手を振り下ろしたら試合開始だ、いいね?」
「副将戦、ヴィクシア連合王国ピピル・マ・ピピル一回生対ヘールジャニア教国ロート・キーン二回生」
「はじめぇ!」
いったん間合いを外して受けの態勢を取ろうかとも思いましたが、たぶん踏み込まれて相手の間合いで戦わざるを得ないでしょうと考えて。
ガッ!
踏み込んで正解ですわね。
彼の得物はフレイル、長い棒に金属の輪で細長い分銅をつなげたものです。
長い棒を抑えても先端の分銅が回りこんでくる厄介な武器ですわ。
中途半端な距離で受けると分銅が当たってダメージを受けるでしょう。
分銅に振り回す力が十分に乗る前に棒を止めるか、分銅自身を何とか打ち落とすしかありませんわね。
しかしこの武器、わたくしの『弾き』との相性がかなり悪い武器ですわね……
わたくしが普通の剣と盾装備の戦士だったらもっと相性が悪いでしょうから、幾分ましといえるかもしれませんけれど。
聖騎士は刃物を避けて鈍器で戦うものが多いといわれています。
相手を傷つけないように慈悲の心で刃物は持たない、なんて言ってますけど。
鉄の棒で殴られたら突かれたりしたらやっぱり死んでしまうと思うのですが……
まぁ鈍器相手の戦い、何事も経験ですわ。
お互いの武器で押し合いながらわたくしは考えます。
一番もろいのは棒と分銅との接合部分でしょうけど、分銅の跳ね返りを考えると下策な感じがします。
さぁ、どこを狙って攻め込んだらいいかしら。
では、と考えたところで、ロート・キーンが一歩下がって鍔迫り合いを外すと猛然と打ち込んできました。
「わが聖女をたぶらかそうとする邪悪め!
やはりお主が副将であるか、思うたとおりよ」
「魔王の娘であるわたくしに邪悪とは笑わせてくれますこと!」
ヴィクシア連合王国が魔物の国なのは事実ですが、だからといっても無法がすべてまかり通るわけではありませんわ。
もちろん『強者が法』という側面も否定いたしません。
ただ過酷な環境で生活する魔王の国の厳しい法やしきたりが、ほかの国には邪悪に見えたりすることもあるのでしょう。
もちろん最初から魔物は邪悪であると断じる人間には事欠かないのですが。
こう決めてかかり問答無用で悪と断じる人間がいかに多いか。
この学園の理念、『人間と魔物が仲良く暮らす』そんな世界の第一歩にわたくしたちは立っているのに……
サクラ殿はわたくしたちに身をささげて決闘に臨んでくれたというのに。
モニカ・コルゥとの邂逅はその新たな一歩となるかもしれない出会いだというのに。
それを見ずたぶらかすですって、邪悪ですって。
「何様のおつもりですか!」
「勿論聖女候補の見守り役、ロート・キーンである!」
「名前を聞いているではっ!ございませんわ!」
わたくしのとった戦法は相手の武器を『弾き』、その隙をかいくぐって内側に入り、相手の生身にダメージを入れることです。
この立ち合い、基本的にこのやり方で戦ってダメージで相手が折れるのを待つしかないでしょう。
ガッ!
ドッ!
ギィィン!
相手に怪我をさせず勝利するにはわたくしは未熟。
もっと精進を重ねなければ。
いえ、先のことよりこの勝負、何としても勝たなくてはなりません。
向こうも攻め気なのか、どんどん前に出てきます。
ならば、鍔迫り合いも多くしてどんどん押し込んでいかなければ!
ガっと食い込みギリギリと軋みを上げる二人の武器の向こうから
「お主に何がわかる!
わが主は聖女見習いたちの中では下の方にいる!
もし魔王の子と親しげに話したとあれば、我が主の順位に関わる!
そのような事態、見守り役として断じて許すわけにはいかぬ!」
「わたくしには判りかねますわ!
この戦いを仕掛けてきたのはあなたでしょうに!」
兜の覗き穴から見える、血走った眼球は狂気の域に差し掛からんとするようでした。
ガッ!
ギィィン!
ギィィン!
また何合か打ち合います。
さすが聖騎士見習いの隊長、良い装備をしています。
何度かボーンイーターが相手の身体に当たっていますが、なかなか攻略すべき部位が絞れません。
あちらも苦しそうな息をついていますが、わたくしの息もだいぶ苦しいですわ。
さらなる打ち合いの中、ロート・キーンの右の籠手の感触が変わりました。
ボーンイーターの打撃にガタが着始めたようですわ。
ならば攻撃の中心は籠手狙いにして行きましょう。
何度かフレイルの分銅がわたくしの体を叩きますが、もうすこしで籠手が壊せそうです。
そう信じてさらに一歩踏み込んだ瞬間!
カチリ
ロート・キーンが握りをひねると小さな音がして、棒の部分から鋭利な刃が現れました。
「かかったである!
食らうがいいである!」
仕込み槍!
オークの皮下脂肪は鎧一領と呼ばれているこのわたくしが、正式の鎧を着こんでいるのです。
そのようなちゃちなもので貫き通せるものではございませんわ!
とはいえとっさに全身に力を込め、体をひねるようにロート・キーンの卑劣な刃を受け止めます。
お兄様、老師、お護りください!
腹部に突き立つ仕込み槍は、腹当てを貫通し私自身に突き刺さります!
そういえばジェイコ親方にお願いし忘れましたわ。
「まてぃ!」
今まで聞いたことのないミロル会長の大声に皆が一瞬硬直したかに見えましたの。
わたくしは自身に突き刺さった仕込み槍を、ロート・キーンの手ごとつかみ引き抜きます。
それを頭上にかかげ、
「反則ですわ!」
と大きく声を上げました。
ロート・キーンは
「ちっ、抜かったである……」
とかつぶやきながら抵抗してきますが、絶対に離しませんわ。




