第22話【先鋒戦サクラ・カヅキVsルカ・キーン】
◇◇◇◇第二十二話【先鋒戦サクラ・カヅキVsルカ・キーン】◇◇◇◇
「いいわね、いくわよ!」
ルカ・キーンが長柄の大星球棍を大きく振りかぶって突進し、サクラ殿の頭を目掛けて振り下ろします。
ルカ・キーンが使う大星球棍は、柄の先に星と呼ばれるにトゲをいくつも生やした球状の物体が付いた物をいうのですが、決闘審判用にトゲのないただの球体がついた棒になっています。
ちょっとだけ老師からいただいたことがある棒付きの飴に似ています。
とはいえ重量はあるので、まともに当たったら大けがするのでしょうが。
サクラ殿はすり足の華麗な足さばきで避けざまに、ルカ・キーンに鞘付きの刀で一閃を加えます。
ルカ・キーンは攻撃を柄を立てて受けると、大きく後ろに下がり構えを取ります。
星球を後ろにして構えるのは間合いを図らせないためでしょうか。
さぁ次の一手はどちらが仕掛けるのか。
サクラさんが仕掛けました。
上段に構えすり足で滑るように間合いを詰めます。
「やあっ!」
サクラ殿の気合の入った踏み込みです。
ルカ・キーンはどう受けるのでしょう。
ここで意外な受け手を見せます。
突進してくる相手にまっすぐ柄を手繰って伸ばしてサクラさんの胸を狙って石突を突き込んできたのです。
勢い良く踏み込んだ相手に対するカウンターとしてはかなり有利な技といえるでしょう。
しかしサクラ殿は伸ばされた柄を振り下ろそうとした刀で払うとさらに踏み込みます。
刀は大星球棍を払うのに両手はふさがっています。
どうするのでしょう。
腰にさしてある短い方の刀を抜くのでしょうか。
「えいっ!」
蹴りました!
サクラ殿の蹴りがルカ・キーンの胸に勢いよく当たりましたわ。
まぁ当たったとはいえフルプレートの胸当ての上からですから一回ぐらいでは効果も薄いでしょうが。
現にお互いに間合いを外すと、次の攻め手を探るように二人とも円を描くように移動していきますわ。
しかし妙ですわね、サクラ殿は片手は柄を握っていますが、もう片方の手は鞘を持っていますわ。
鞘はちゃんと固定されて、ちょっとやそっとでは抜けてしまわないはずなのはわたくし確認しましたわ。
サクラ殿の考えていることはわかる気がしますが……
どうでしょう、見え見えの手がうまく働くのか、それとも……
お互い間合いを図りながらルカ・キーンが
「ヤンマ皇国のサムライが混じっていると思ったけど大した腕じゃないわね」
「なに?」
「ヴィクシアも存外人材がいない。
ヤンマのサムライが助っ人ですって。
ヤンマ皇国ごときから人を借り受けなければ決闘審判に出場する人間が揃えられないなんてお笑いね」
「ふん、何を言い出すかと思えばくだらない戯言ですか。
サムライに対する評価はさておき、私個人の刀の腕は歴然です。
貴女などに負ける私ではありません」
「いったわね、地面に這いつくばらせてやる!」
煽った方が激発してどうするのですか。
そうわたくしは思いましたが、サクラ殿が有利になる展開と思い口をつぐみました。
ブォンブォンと空を圧する音を立て、右に左に大星球棍が振り回されていきます。
しかしいくら勢いがすごかろうと、怒りに我を忘れたルカ・キーンの攻撃は単調で、サクラ殿はスッスッと落ち着いて身をかわしていきます。
しばらくルカ・キーンの激しい攻めが続きましたがヘールジャニア側からロート・キーンの声が飛びます。
「ルカ!このままでは相手の動きは捉えられないのである。
きちんと踏み込んでまずは当てるように動くのである!」
「はっ!わかりましたお兄様」
む、姓が同じだから血縁とは思っていましたが兄妹でしたのね。
兄勝負でしたらお兄様の方がよい男ですわ、間違いありません。
もちろん妹勝負でも負けるつもりはありませんわよ。
気を入れ直したルカ・キーンは突きこむような攻撃を主体に攻めかかります。
サクラ殿は大星球棍の攻撃を足さばきで避け、時に受け流してしのいでいるようにも見えます。
重量級鈍器の攻撃をまともに受けると、いくら鞘に入れたままでも割れたり曲がったりしてしまうかもしれません。
鞘にダメージは間違いなく入っているでしょうし、中の刀身にももしかしたらさわりが出ているかもしれません。
「サクラ殿の礼には鞘の打ち直しも必要になりますね、お兄様」
隣で一緒に試合を眺めていたお兄様に声をかけると、
「そうだな、確かに礼の一つに入れておくべきだろう」
そう答えて頷いてくださいました。
ともすれば単調な打ち合いにも感じますが、応酬はしばらく続き、勝利の天秤はどちらに傾くとも計り知れませんわ。
「サクラ殿頑張ってくださいませ~~!!」
大きな声を上げるとサクラ殿が笑ったような気がしました。
今は心から応援してするしかありませんが、あなたの勝利を信じています。
瞬間、サクラ殿は両手で柄を握りかえると、今までより一歩深い踏み込みでの突きがルカ・キーンの額あてに当たります。
その勢いは強烈で、ルカ・キーンは勢いよく闘技場に倒れこみます。
頭を揺さぶられ武器を手放して手足を大きく広げて横たわるルカ・キーンは、気を失っているようです。
サクラ殿がルカ・キーンの眉間に刀を凝らしたところで
「やめぃ!
勝負あり!
先鋒戦勝者!
サクラ・カヅキ!」
ミロル会長の声が響き渡ります。
サクラ殿、お見事ですわ。
最初柄と鞘の両方に握っていた刀を持ちかえた上で、さらに一歩踏み込む事が出来るのを隠している二段構えの作戦。
ルカ・キーンも両手を鞘に握りかえるのは予想していたでしょうが、踏み込みまでは理解できなかったでしょう。
まともにサクラ殿の突きを貰ってしまいましたわね。
サクラ殿を遣わしてくれたヤンマ皇国に感謝を。
おかげでわたくしたちヴィクシアが先勝することができました。
「アルガ殿下、ピピル姫、皆様のおかげをもちまして勝つことができました。
感謝を」
「サクラ・カヅキ殿、お見事でありました。
あなたのもたらしてくれた勝利、我アルガは生涯忘れることはないでしょう」
「もったいないお言葉、わたくしのささやかな勲がヴィクシア連合王国とヤンマ皇国の友誼のかけはしとなるならば身に余る光栄と存じます」
「あなたに対する礼は後で正式に報いるとして、今はこれを授けたいと思います。
お取りください」
お兄様は腰に付けた短剣を鞘ごと抜き取るとサクラ殿に与えました。
「かたじけなく」
サクラ殿は押し頂くと私の方に向き直り、
「ピピル姫、あなたの声援が私の背を押してくれました。
私が勝てたのはあなたのおかげだと思っていますよ」
「そんな、ヴィクシアのために戦ってくれるサクラ殿に、わたくしは感謝の念しかありません。
ありがとうサクラ殿」
「そんな、こちらこそ」
勝ったヴィクシア側は良い雰囲気ですが負けたヘールジャニア側は大変悪い空気が漂っています。
「なんという様であるか、ルカ!
我等は聖女様の盾となって最後まで立っているのが使命である!
それをヤンマのサムライごときに倒されてどうするのであるか!」
「申し訳ありません隊長、申し訳ありません!」
ひたすら頭を下げるルカ・キーン。
たとえどれだけ健闘しようとも敗れれば怒声と罵声が飛んでくるのが勝負というものです。
お兄様はわたくしが敗れたときキーン兄妹のような態度をとるでしょうか?
そうは思えませんわ。
多分違うやり方をするでしょう。
わたくしは負けるつもりは全くありませんけれど。




