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第19話【サムライのサクラ・カヅキ】

◇◇◇◇第十九話【サムライのサクラ・カヅキ】◇◇◇◇



朝、といっても日の昇る直前に目覚め朝稽古を始めます。

一晩寝たことで昨日の傷もほとんど気にならないほど回復しています。


最近は厩舎からダブーと一緒に走るのと、騎乗してヴィクシアの牧草地を何周か駆けることを半々にこなすのが日課になっていますの。

まだ体は小さく合戦でのぶつかり合いをするには体重が足りないとは思いますが、わたくしが跨って走るのは十分できるようですわ。


今はなるべくはみやあぶみに慣れてわたくしが思う通り走らせるのが重要と老師はおっしゃいました。

騎走の訓練が終わったら今度は剣の一人稽古をします。

今日は特別念入りに、しかし入れ込んで剣をブレさせないように心がけて剣を振りました。


館に戻って体を清め、いつもの姫鎧と違う戦用の鎧を身に着けます。

いよいよの気持ちをもって支度を整え、寮の入り口の大広間に向かいました。


「うぉ……頭いてぇ……気持ち悪ぃ……」


ダメな人がいます……


テルベルトが飲みすぎの二日酔いで使い物になりそうにありません。

普段の食事ならばお酒などでないのですが昨日はいろいろと特別が重なってしましましたから……


しかし困りましたわね……

調子さえよければテルベルトは確実に勝ち星を挙げてくれる豪傑なのですが……

無理をしてもいいことはないでしょうし……

お兄様も眉間をもみながら考え込んでいます。


「やむを得ない、我とピピル、カスパーとエーリュシエルの四人で行こう……」


そう言って出発しようとしたその時、ヴェルガが、


「ギィ、ゴスジンタタカウ!?

 オデモイッショ、タタカウ!

 イイカ?ダメカ?」


ヴェルガは最近老師から棍術と拳術を習っているとのことですが、今日の決闘に出られるほどの鍛錬は積んでいないでしょう。

気持ちはとてもありがたいのですが、下手をしたら殺されてしまいますわ。


「いつかあなたを頼る時が来るかもしれません。

 でも今はあなたの気持ちだけありがたく貰っておきますわね」


「ギキ……オデ弱イカラ……

 クヤシイ……

 モット鍛エテ必ズ役ニ立テ見セル、待テテホシイ」


「分かりました、待っています。

 老師のお許しが出たその時は必ずあなたに役に立ってもらいますわね」

目に涙をためて悔しがるヴェルガは、いずれ強くなるであろうとわたくしに思わせました。


「アイ……アイ……」


わたくしたちのやり取りを見てテルベルトが


「やっぱり俺も出ます、殿下、このくらい大したことないです」


「だめだ、勝つ可能性の低いものを出場させるわけにはいかない。

 今日は我慢して来(きた)る日に備えるがいい」


「……申し訳ない、殿下、姫……

 もう二度とこんな無様ははさらさないと誓う」


「まぁ気を落とさないでくださいませ、テオベルト様、アルガ殿下とピピル様、カスパーさんで三勝してしまえばいいのですから!」


と、エーリュシエルが声を上げるとカスパーが、


「俺は表立って実力を出すわけにはいかない。

 たとえどんな時でも武力もあると噂されることさえ避けなければならない立ち位置だ。

 本来この決闘審判に名が出るだけでも不本意の極みだ。

 つまりわたしは一合とせず負ける予定だ。

 エーリュシエル、お前が勝たねばヴィクシアの敗北は必至になるだろう」


と答えます。

それを聞いたエーリュシエルは落胆し


「えぇ…フルプレートの盾付き重装兵なんて急所狙いしないと倒せませんけど……

 今日のルールでは駄目ですよねぇ……」


と愚痴りました。


身体欠損及び致死攻撃は今回無しということになっております。

勝負ができるのがわたくしとお兄様だけでは五戦勝負に勝ち越すことができません。

さてどうしたもの……


「たのもう!」


その時突然入り口から若い女性の声が響きます。


カスパーが扉をあけて外に向かって話しかけました。


「ヴィクシア連合王国寮に何用あるかは知らんが、ただいま取り込み中である。

 できれば時を改めていただきたい」


「なるほど、決闘裁判の直前とあればもっともな話でありますな!

 では、用件だけお伝えするご無礼お許しいただきたく。

 決闘審判に臨むにあたって人手がもし足りないということあれば私に席をいただけないでしょうか。

 私はヤンマ皇国のサクラ・カヅキと申します。

 ここにわが主よりの推薦状をお持ちしました。

 よろしければご覧いただきたい」


この言葉は寮のエントランスに集まった者に聞こえ、アルガお兄様に視線を集中させました。


「カスパー、書状をこれに」


「ハッ、アルガ殿下」


カスパーがサクラ殿より書類を受け取りお兄様に渡します。

封を切り中の書類を眺めると


「まことにヤンマ皇国は我らヴィクシア連合に力添えいただけるのだな」


お兄様の問いかけに


「わたくしはそう聞き及んでいますアルガ殿下」


はっきりとサクラ殿は答えました。


「わかった、ヤンマ皇国の助力ありがたく受けたいと思う。

 ついてはサクラ殿には先鋒をお願いしたいがよろしいか」


「おぉ先陣の誉れを頂けるとはありがとう存じます。

 我が刀の冴え、きっとご満足いただける物と確信しております」


「よし、では先鋒サクラ殿、次鋒エーリュシエル、中堅カスパー、副将ピピル、大将は我、アルガの布陣で決闘審判に臨もうと思う。

 では各々抜かりなく準備に当たれ!」


「はい!」


とはいえ、わたくしの戦具足は不足なく全身を覆い、背に国章をあつらえたサーコートもきっちり身に着けています。

脇に抱えた兜をかぶれば、いつでも戦うことができます。

サクラ殿もそれは同じに見え、腰の刀を抜けないように固定してたたずむすらりとした姿は美しくありました。


前に学園校章と後ろにヤンマ皇国の紋をを付けた上衣、陣羽織を身にまとい。

小札(こざね)を色々な糸でつなげた鎧は、きらびやかであり実用性も十分に見えます。

腰の大小の刀は東方の反りのある形なのが見て取れます。

見るだけでため息の出そうな光り輝く螺鈿細工の鞘は、その中身も相当の業物と見受けられます。


わたくしが見ていることに気が付いたサクラ殿が、こちらに近づいてきました。


「あなたがピピル殿下ですね、先ほども申し上げましたがサクラ・カヅキと申します。

 個人的なことながら、あなたにお近づきになる機会が出来て、私はとてもうれしいのです」


なんと、わたくしに会って喜ぶ人間がいるなどとここ数日の学園生活でいるとは信じられないほど珍しいことです。


「ピピル殿下が他所でどのような評判なのかは存じています。

 わたくしも東方に住まう鬼の一族である故、気にはなっておりました。

 ただ我が主が申しますところ、あなたは一代の傑物であるという高い評価をしておりました」

「その言葉を胸にあなたの言動をみると、すべての評価は覆りました。

 私はあなたの言動はすべて誇りあるものと判断するに至りました。

 ですからあなたとお近づきになれてとてもうれしいのです」


確かにサクラ殿の色白の額からは二本の角が生えています。

噂でしか知りませんが、白面鬼族という種族が東方に住んでいると聞いたことがあります。

わたくしはサクラ殿から差し出された手を押し頂くように握り


「サクラ殿に感謝を。

 わたくしはほかの学園生からそのような評価をいただいたことがございません。

 お言葉大変うれしく思います」


「できれば今後も友誼を結びたいとも思いますが、それは今日の決闘審判が終わってからにいたしましょう」


なんだか最近身内やその近辺の人以外で良く言われることがないので戸惑ってしまいますわね。


さぁお兄様たちの準備も整ったようです。

いざ勝負と参ろうではありませんか。

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