第18話【団結の聖騎士見習い】
◇◇◇◇第十八話【団結の聖騎士見習い】◇◇◇◇
「そちらのピピル姫が、我らが聖女、モニカ・コルゥに働いた無礼、詫びてもらわなければこちらは引っ込みがつかん!」
わたくしに会いに来たといっても慕ってきたわけではないですよね……
まぁ判ってはいましたが。
それにしてもこの方は顔を真っ赤にして何を言っているのかしら……
モニカさんと訓練したことをねじ込んできているようですが、無礼とは一体なんでしょうか……
「何を我が寮の門前で騒いでいる、ロート・キーン、ブラウ・ネステ、ゲルブ・ユンゲ、グルーン・コルシェ、ルカ・キーン」
お兄様が静かな、しかしはっきりとした怒気をみなぎらせて声を上げます。
しかし
「これはアルガ副会長殿、我らの名を覚えているとは恐れ入るのである」
名乗られたわけでもないのに全員の名前を呼べるとは、まさか学園生全部の姓名を把握していらっしゃるのかしら。
「我らはそちらにおわすピピル姫が、我らが聖女モニカ・コルゥに怪我をさせた抗議に参った次第である!」
また謝れ案件ですか。
「事の詳細をご伺おうか、ロート殿」
「うむ、そちらのピピル姫と我らが聖女モニカ・コルゥ様が邂逅し、傷ついたピピル姫にかけたヒールを、不敬にも拒否したと聞いているのである」
「その後、聖女モニカ様が何度もヒールをかけ、そのたびピピル姫がレジストし、それによって聖女モニカ様が逆流した魔力で怪我を負ったと聞いているのである」
「こちらで聞いている話とだいぶ違うな……
ピピルが言うには聖女見習のモニカ殿と我が妹ピピルが、ヒールとレジストの訓練を合意の上で行ったと聞いている。
しかも手傷という点では我が妹も同じであるが、妹の剣の流派では鍛錬として怪我は自己の治癒力向上を重視し、治癒魔法に頼らぬ。
よってヒールをかけられてもレジストせざるを得ないだろう」
「聖女の慈悲である治癒をはねのけるとはなんという高慢か!」
一歩下がったところにいる騎士鎧の黄色い人が声を張り上げます。
この方のフルプレートの胸元には三本の波型の線が入っています。
おや、と思いよく見れば、お兄様と応対している赤い人は一本、ほかの騎士見習いも青の方が二本、緑の方が四本、ピンク色の方が五本の波線が入った胸当てをしています。
この方たちにはわたくしとモニカさんの一件が、悪意も敵愾心もなく、双方合意の上で行われたことであっても、モニカさんが手傷を負ったという一点だけで認められることではないのでしょう。
「それでなくともピピル姫には後ろ暗いうわさが多い。
すべてを認め謝罪するのであれば今後の対応を変えることにやぶさかではないのである!」
「うわさ……
うわさで我が妹を貶め侮辱するのであれば、是非もない。
実力をもってその言い分を通してもらうがいかがか?」
「よろしい、では決闘審判によって決着をつけることにするのである!」
「この決闘審判、学生自治会副会長として我、アルガ・マォ・エルテ・ヴィクシアが認可する。
もちろん我が手で妹の名誉を守ってみせよう、覚悟するが良い」
「では期日は明朝、光の刀の時、お互い学園生五人の五戦勝負とする。
よろしいか?」
「いいだろう、では明朝」
というわけでまた決闘騒ぎが起きてしまいましたわ。
「あの……お兄様申し訳ありません。
わたくしの行動がご迷惑をおかけすることになるなんて……」
「気にすることはないよ、ピピル。
妹がうわさなどという曖昧なものに心を痛めていないか心配なだけだよ。
君の味方はここにちゃんといる。
そのことは絶対に忘れないでおくれ」
「はい、お兄様。
ありがとうございます」
「明日の人選はヴィクシア連合王国から強者を選りすぐってあたろう」
「あの……わたくしも明日の対戦者の中に入れてくださいますか」
「どうした、妹の名誉のために働こうというものは探すまでもなく集まると思うが」
「ありがとうございます、お兄様。
わたくしの行動が引き起こしたこの事態、どうしてもわたくし自身も出場したいのです」
「兄としては心配だが……
そうか、考えておこう」
入学式から数日、いくつかの講義に出て、そして学園都市の街並みを目にして思ったことがあります。
ヴィクシア連合王国は地図の上では広く、中身は貧しい。
そして多くの人と国とに恨まれています。
国土のほとんどは荒れ地や氷原です。
そこに住む,、人間が言うわたくしを含む魔物たちはほぼ自給自足の生活をしています。
諸族皆兵といえば聞こえは良いですが、すべての民は戦士であり農民はほとんどいません。
精々飼いならした蓄獣を連れて遊牧する民族が少数いるくらいです。
何より商うという認識に欠けています。
ほとんどの民は奪い合い、食らい合うことで生きながらえています。
四天戦争で奪った地域も奪えるものは奪いきって、そのあとはほったらかしにして少なくとも十年以上。
またまともな農地に戻すにはどれほどの時間とお金と人手が必要なのでしょうか。
奪った地域を領する部族は、そのような事思いもしないでしょうが。
「お兄様、わたくしたちは難しい立場ですのね」
「そうだね、ピピル。
でもこれからどうすればいいか考える時間が与えられたのだと思えばいい。
そしてその幸いを有意義なものにできるかどうかはこれからの我らの行動にかかっている。
ここでの教育がうまくいくのであれば、諸種族で口減らしされる子供を引き取って学園に迎えたいと考えている」
お兄様は本来父が亡くなってすぐにヴィクシアの王として立たねばなりませんでした。
ですが摂政を立て成人となるまでの間を、立派な王となるための準備期間とすることに重臣達と、そしてお兄様ご自身が決めたと聞いています。
わたくしもお兄様の助けになれればいいのにといつも考えます。
わたくしの成績のお祝いとして出された夕食もいつもの食事にほんの一品、何か小さな魚の塩漬けを発酵させたものが加わっただけ。
それとお酒が小さなグラスに一杯。
これがあの広大な国土を誇るヴィクシアが今できる精いっぱいの贅沢。
この小さなグラスに入れられた氷酒と呼ばれる氷原で作られるお酒はとても酒精が強く、消毒にも使われるほどです。
北の国の民はこれを飲んで厳しい冬をしのぐのだとか。
ヴェルガは初めてお酒を飲むのか、
「ベロビリビリスル、ウマイィ、ナンカアッタカイ……」
とチビチビなめるように飲んでいましたが、お気に召したようです。
鬼族はお酒で失敗する者がとても多いといわれるほどお酒が好きで、そして弱かったりします。
ヴェルガは小鬼わたくしは豚鬼、気を付けなければいけませんね。
「うはは!こいつはたまらねぇ!じゃんじゃんもってこい!」
あのグラス一杯でどうしてそこまで盛り上がれるのかよくわかりませんが闘鬼のテルベルトはお酒が大のお気に入りで、そして量が飲めないようです。
大丈夫でしょうか。
テルベルトも明日の決闘に出るのだと思っていましたが……
給仕の人間にお兄様が何か目配せしています。
大丈夫でしょう、多分、お兄様が何か手を打ったと思います。
おや、エーリュシエルが静かにテルベルトの後ろに立つと……
あっテルベルトが糸の切れた操り人形のように崩れ落ちます。
エーリュシエルはそのままテルベルトの襟首をつかむと退場していきました。
一体何が……いいえエーリュシエルが何かしたのでしょうけど、何をしたのかがわかりません。
何か恐ろしいことが起きた気がするのですが、お兄様の顔をうかがっても静かなほほえみを浮かべるだけです。
さきほどエーリュシエルにはわたくしの怪我について膝をついて謝罪されました。
エーリュシエルが付いていない時間はわたくしとあなたで了解済のことで、その時に負った怪我に何の責任もありません。
むしろ自分で対応できたことがうれしいと感じます、そう伝えるとますます身を固くするエーリュシエルでした。
ところでわたくしは今まで何度か祝いの席で少しだけお酒を飲んだことがありますが、何ともなったこともありません。
気分が高揚したりとか、顔色が変わったりとか、気持ち悪くなったりとか。
およそ酔いの諸症状が出た記憶が一切ありません。
まぁ、どの辺が限界かわかっていないだけだと思いますが。
晩餐も持終わり、さぁ明日に備えて今日はお開きにいたしましょう。
言いがかりをつけてきた聖騎士もどきどもを、ヴィクシアの力を結集して打ち砕くのです。




