第16話【聖女のたまごモニカ・コルゥ】
◇◇◇◇第十六話【聖女のたまごモニカ・コルゥ】◇◇◇◇
剣術場を後にしたわたくしは年次出席免除の書類を提出をしに、事務棟の履修課に向かおうと歩いていました。
事務棟はヴェルガのいきさつで何度か行き来がありましたので、道は分かっております。
初日に初級剣術の出席免除が手に入るなんて幸運ですわ。
これで自分のペースで鍛錬し放題ですもの。
立ち合いでで多少切り傷が出来ましたし、何か所か深く切れているところもありますがかすり傷のうちですわ。
むしろ自己治癒能力の鍛錬にもってこいですわ。
などと気楽に考え、てくてく歩いていたら、
『光よかのものを癒したまえ!回復!』
ええ?回復魔法がいきなりかけられましたけど?
とりあえず、
『抵抗!』
「きゃあ!」
いきなりヒールをかけてきた相手は反動で逆流してきた魔力に驚き悲鳴を上げました。
こちらもレジストの影響で傷口が広がってしまいましたが。
「貴方はなぜ私の回復魔法をレジストしたのかしら?
回復呪文をかけられて、レジストする方なんて初めてです」
「こんにちは、わたくしはピピル、あなたこそなぜ見ず知らずのわたくしにヒールをかけようとなさったのですか?」
「あら、あなたがも魔王の娘、ピピル様なのね。
mizu モニカ・コルゥと申します、よろしくね。
一応聖者候補に認定されていますの。
私はあなたが傷ついているのを見かねて回復して差し上げようとしただけです」
「見かねて回復して差し上げようとはずいぶんと上からのものの言い方ですこと。
ただ先ほどの問いにお答えすれば世の中にはそれが必要でない者もいるということです」
「どういうことですの?」
わたくしが老師から教わっているやり方だから一応説明しておきましょう。
「わたくしの剣術鍛錬法では普段は自己回復力の鍛錬のため傷は薬を使ったりしても、回復魔法での治療はしないのです。
命にかかわる時とか、魔法に掛からないと損害が大きくなる場合などの緊急時は別ですが」
「なるほど、それでレジストしたと、そういうわけですか。
まぁ私も回復魔法の練習にちょうどいいと思ったので、見ず知らずのあなたに回復魔法をかけたのですけどね。」
「残念ながらわたくしには不要ですわ」
「そのようですわねぇ……
ところで提案なのですが私がかけた回復魔法をレジストする練習はしたくありませんか?
私も抵抗する相手にどうやって回復魔法をかけるか練習したいですし」
なにかこのモニカ・コルゥという方は目がキラキラしていて危ない人を相手にしているような気になりますわね。
「わたくし用事がありますのでそれまででしたらよろしくてよ」
「わかりました、よろしくお願いしますね、
では
『光よかのものを癒したまえ!回復!』」
「抵抗!」
「はう!レジストの反動が私の手に来ますわね、これは面白い」
確かにモニカ・コルゥの手が内出血を起こしたかのように赤く腫れてきています。
効果ありそうですわね、モニカ・コルゥとお互い顔を見合わせると頷き合います。
「続けましょう」
「そうしましょう」
◇◇◇◇
しばらくモニカ・コルゥがわたくしにヒールをかけ、わたくしはレジストするということを繰り返していたら、獅子頭の男の方が話しかけてきました。
「あんたら何してんの?」
「あら、私は回復魔法の鍛錬、彼女は魔法に対する抵抗力の鍛錬ですわ」
モニカ・コルゥが答えます。
「そうなんだ、別にけんかしてるわけじゃないんだね?」
「その通りですわ、わたくしたちはお互いの自主鍛錬に協力し合っているだけですの」
わたくしがそう答えると獅子獣人と思われる男は
「へぇ、おもしろいねぇ、君たち。
でも周りがおびえているから場所は考えてほしいな。
あ、俺の名前はミロル・リシェー。
学園の自治会長をしているんだ。
だから女の子が血まみれのオークに襲われているって報告があってここに来たという訳」
とへらへらした口調で事情を説明しました。
「わたくしはピピル、まぁ確かにわたくしもレジストでだんだん傷が広がって血が出てきていますけれど、まだ全部かすり傷のうちですわよ」
「知ってるよ、アルの妹さんだってね、ピピルちゃん」
あら、お兄様の知り合いですのね。
学園の自治会長さんとも知り合いだなんてさすがお兄様ですわ。
「私はモニカ。
モニカ・コルゥ。
そうね、私も回復魔法の抵抗された反動で手がだいぶ変色していますわね。
これはちょっとやりすぎたかもしれません……
困ったわね……」
「モニカさんのことも知ってるよ。
確か聖者候補の第何位だっけ?
まぁいいや。
鍛錬はここまでにして最後に回復魔法で治療するか、自治会室で治療するかどうする?」
「あ、私は行くところがあるのでこれで失礼しますわ。
ピピルさんもどこかに行かなければならないとおっしゃっていませんでした?」
「わたくしは……
そう、教務課に用事があったのですが……
一応通り道にはなっていますわね。
血だらけのこのまま行くわけにも参りませんし……
そうですわね、手当は薬でしようと思いますので、よろしければお邪魔させていただきましょうか」
「ではモニカ殿、ごきげんよう、もし怪我人が必要ならいまごろ鎖骨を骨折した人間が医務室にいるはずですわよ」
「そうですか、では後で顔出ししておきましょう。
それと機会があったら、また一緒に鍛錬いたしましょう。
では」
「じゃあピピルちゃん、君は俺と一緒に自治会室に行こうか」
モニカ・コルゥと別れるとわたくしはミロル会長と歩き始めました
「しかしピピルさんは入学してからいつも騒動の中心にいるねぇ」
自治会室に向かう道すがら、獅子獣人のミロル会長はこういって私を眺めます。
「わたくしが起こした騒動ではないのですけれども」
わたくしがそう言うと、ウンウン頷きながら、
「あー、それは状況からも君のお兄さんからも聞いてる。
アルの自慢の妹がどんなものか自治会のみんなは興味津々だったんだけど……」
「あれだね、黒い毛皮の肌に突き出た鼻、君はオークの血がずいぶん強く出ているんだね」
「そうですわね、父はオークだったと聞いています。
お兄様は魔人族の母に似て美しい容姿をしていますけれど、わたくしは父と同じオークの外見ですわ」
「でもその黒い毛皮ははお父さん譲りで、両方の耳のあたりから生えているねじ切りに似た形の角はお母さん似だよね?
アルより全然巻きが強いけど」
「そうですわね、母もどちらかというとお兄さま似の角だったようですがわたくしはこの通りの、ねじ切りみたいな癖の強い角が生えていますのよ」
記憶にない母の、わたくしと入れ替わりに命を失ったといわれる母の大事なよすがです。
「なるほどねぇ……」
などと話していると
「ここが学生自治会室だよピピルさん
おーいアルガぁ、妹さん連れてきたぞー」
そう大声でドアを開けながら室内に入っていきました。
え、ここにお兄様いらっしゃるの?
これは幸運以外の何物でもないですわね。




