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第15話【勇者志望のハイン・イシュテート③】

◇◇◇◇十五話【勇者志望のハイン・イシュテート③】◇◇◇◇


「これは一体なにごとだ!」


あら、どなたか気を回して教官殿をお呼びしたようですわね。


立ち合いを見物していた人垣をかき分けエドモンド・シドリー教官が姿を現しました。


「ピピル・マ・ピピル君、ハイン・イシュテート君。

 なにがあったか説明してくれたまえ」


さて、どう説明したものか。

そう考えていると、


「いや、ぶっちゃけこいつが年次出席免除になったのが納得いかなかったんで、立ち合いを挑みましたぁ」


あら正直ですわね、ごまかしたり嘘をついたりするかと思いましたのに。


「なるほどハイン君が立ち合いを求めたということだね?

 で、ピピル君が挑戦を受けたと、それで間違いないかな?」


「降りかかる火の粉ですわ」


「まぁそうだなぁ……ちなみに勝敗は?」


「俺の負けです」

「わたくしの勝ちですわ」


期せずして同時に言葉を発したことに顔を見合わせるとそのままにらみ合いになります。

いい根性してますわねハイなんとかさん。


シドリー教官は皮手袋を外すとなんとかさんの剣の破片を拾い上げるとわたくしたちの視界を遮る場所に立ちました。


「話はわかった。

 この剣の破片は証拠として没収させてもらう。

 ハイン君、柄も提出しなさい」


「もぅいらねぇよこんな折れちまった剣、ちきしょうなまくらつかませやがって」


そういうと一瞬顔をしかめて立ち上がりました。

あら、もしかして剣の質が悪くて負けたと思っていらっしゃいます?

そうだとするとわたくしに一矢報いるのは相当先になりそうですけど。


「ピピル君の剣も一応見せてほしいんだけどいいかな、これは割と純粋な私の好奇心だから断ってくれて構わないけど」


「別に構いませんわよ」


そう言って皆さんに背を向けて剣を抜きました。


腕組みしながらわたくしの隣に立った教官殿はわたくしの剣を先から根本までじっくり眺めると、


「ほぉぉぉ…これでこの剣を折ったわけかぁ…

 なるほどなるほど…これが老師から学んだ剣かぁ……

 すげぇなこれ……」


教官殿は剣の腕も確かですし、教導も真面目で公正な方のようですが……

こと課業外の剣と剣術がかかわると若干子供のようになるようですわね。


「もういいいよ、ありがとう」


ひとしきり感嘆のまなざしでわたくしの剣を眺めると、満足そうにそうおっしゃいました。

再びわたくしと赤毛のなんとかさんの間に入った教官殿が口を開きました。


「先ほど教科自由で自習と言っていったん課業を終えたが、まさか真剣での立ち合いを行うとは思わなかった。

 しかし現実はこれである。

 両名とも怪我くらいで済んでいるようだが、下手をしたら死亡していたかもしれない。

 即決にて処分を申し渡す!

 ハイン・イシュテート君!」


「ハイッ!」


赤毛の人が元気よく答えたが、歯を食いしばって怪我の痛みに耐えているのがよく判わかりますわ、折れてますしね。


「初級剣術カリキュラムにおいて真剣使用の立ち合いは禁止されている。

 しかも言いがかりに近いやり口で教官の許可すら取らず、立会人すら置かない。

 私は教官としてこのようなやり口に憤りを感じずにはいられない!

 よって君に三ヶ月の出席停止と、通年成績の一段階降格を申し渡す!」


処分を伝えられた瞬間カッと目を見開いた赤毛の人だが、それ以上の反応は示さず


「ハイ!教官殿」


と返答しましたわ。


あらあら随分厳しいこと、なまじ腕が良いだけに成績降格は痛いですわね。

S評価が取れないというのは彼にとってかなりの痛手となりそうですわ。

周りの生徒達もざわざわとしていますわ。


「ピピル・マ・ピピル君!」


さて次は私か……

どんな厳しい罰を与えられるか期待している視線が多いですわ、うっとおしい。


「君は未提出とはいえ初級剣術講座の単位を取得済である。

 誰あろう私が出した許可証である。

 よって本講座において君に罰則を与えることは出来ない!

 ただし、願わくば以後も研鑽に励むように!」


「はい、かしこまりました、教官殿」


「なお今回ピピル・マ・ピピル君が被った損害について!

 ハイン・イシュテート君はこれを弁済しなければならない。

 以上である!」


「ハイ!教官殿」



まぁ、この結果は驚きですわ、要するにおとがめなしということですもの。

周りからは先ほどよりもさらに大きなざわめきが起こり、


「えこひいきだ!」


「不平等だ!」


などの怒声も上がる。


これ収拾つくのかしらなどと思っていたら、突如


「やかましい!!」


教官のまさに一喝、生徒が全員黙り込みましたわ。


「戦争が終わりまだ十年、たったの十年しか経っていない!

 私たち教官は平和な世界を維持しようと大陸中で選抜されたメンバーだ!

 君たちとて大なり小なり自分の国で選抜を受けてきたはずである!

 改めて全員聞け!

 この学園に国家同士の遺恨を持ち込んではならない!

 また人種間での差別もこれを認めない!

 私のとった行動に文句があるのであれば!

 君たちのやり方である実力行使で構わない!

 黙ってみていたもの、いずれかに肩入れしたもの!

 同罪である!

 私は誇りをもって受けて立とうではないか!

 名前を言って前へ出てくるが良い!」


そういうと教官殿は、剣を抜き放つと石畳に突き立てました。

さすが剣術教官、斬岩の剣お見事ですわ。


「次回の講義までそれぞれ私の言葉をよく考えておくように、本日はここまでとする。

 全員解散!」


周りから教官も受講者もいなくなると赤毛の人が口を開きました。


「おい、お前。

 俺の名はハイン・イシュテート。

 イシュテートの姓に覚えはないか?」


「いいえ、どちら様でしょう?」


「何故知らないのだ……

 先代勇者王の姓だ。

 そしてオレはお前の父親の名前を知っている。

 シュトロク・マォウ・エルテ・ヴィクシア。

 間違いないな」


「お話が見えません、だからどうしたというのですか」


「先の戦で勇者王マールス・イシュテートは魔王シュトロク・エルテとの一騎打ちに及び、これに勝利した。

 これにより両軍の戦闘は停止し、平和が訪れた。

 なぁ、なんで人間国家が魔王領に侵攻しなかったかわかるか?

 そのときの傷がもとで勇者王が死んだからだ。

 要は勇者王と魔王は相討ちだったということさ」


「つまり俺の父の仇はお前の父だ!だがお前の父の仇も俺の父だ!!

 オレは必ず勇者となって、決着をつけてやるから覚えていろ!」


そんなことを言いにわたくしに声をかけたんですの?

傷が痛むでしょうにお元気なことですわ。

あと、もはやあなたのお名前を覚える必要性すらわたくしにはないのですが。


「一騎打ちでの犠牲に個人的な責任も何もありませんわ。

 わたくしはあなたの父上の仇本人ではございません。

 はっきりいってしまえば、わたくしはそんなの知ったことではございませんわ」


「なんだと、誇りをかけて戦った親の気持ちをお前は何も思わないのか!?」


「わたくしの父が何を考えて戦って死んでいったのかは子のわたくしにも思うところはございます。

 でも貴方のお父上のこと、わたくし存じあげませんの。

 少なくとも親の遺恨がどうこうは、この学園の設立事情にかんがみてもあまり褒められたことではないと思いますが、いかがですの?」


「ちっ口のへらねぇ女だ、むかつくぜ」


「まぁ、それでも私が仇だのなんだの言うのであれば、いつでも掛かって参るがよろしいでしょう」


バッ!と音を立てて扇子を開くと顔の下半分を隠し心の中で舌を出します。


「無論!そのたびに叩き潰して差し上げますわ。

 あと今日の勝負の賭け分、一つ貸しにしておきますわ。

 取り立ては必ずいたしますのでお楽しみに」


憎々しげに私を睨む赤毛のお猿さんを眺めると

今度こそ剣術場を後にしたのですわ。


「ではごきげんよう、いずれ剣を持ってまみえるのかしら、それとも違う形でお会いするのかしら」

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