第13話【勇者志望 ハイン・イシュテート①】
◇◇◇◇第十三話【勇者志望 ハイン・イシュテート①】◇◇◇◇
教官殿との手合わせの結果、初級剣術講座の単位をSランク取得済で出席免除を勝ち取ったわたくしは残り時間と休憩時間で何を食べようか考えておりました。
「ちょっ、待てよ豚!」
剣技場を出ようとするわたくしの肩に、不躾にも手をかけて暴言を吐く男がおりました。
短めの紅い髪を逆立てた、ちょっと背が高めのなかなかの美形ではありますが!
この間の元王子とやらといいよっぽどわたくしは絡まれやすい立場なのですね。
そしてこの声は入学式の時にいたパフォーマンス男ではないかしら。
「誰が豚ですか!
わたくしの許しなくわたくしに触れるなど言語道断ですわよ!」
無理やり肩をつかんで振り向かせようと彼が力を込めたところで、肩に掛けられた手を支点に一回転させてさしあげます。
触った感じ締まった良い筋肉をしていますが年齢のせいもあるでしょう、あまりごつごつしていません。
骨が浮き出ている感じはしませんので、やせすぎというわけではないようですが。
手加減して降ろしてさしあげたので怪我はないでしょう。
「フンッ!」
そうして左手に持った扇を鼻先に突き付けてやりましたの。
ただ、しりもちをついた姿勢のまま扇を突き付けられているさまは滑稽そのものでしたが、彼はカッと赤くのぼせ、怒りのままに叫びました。
「年次出席免除だと!?
なんだそりゃ!?
お前なんて先生と一合剣をあわせただけじゃねぇか!
そんな納得いかない話があるか!」
「わたくしは、貴方にお前呼ばわりされる覚えはございませんが……
よろしければピピル様と呼んでもよろしくてよ?」
「ぜって-呼ばねぇ!
ふざけんな!!」
唾を飛ばして怒鳴らないでほしいわ、汚らしい……
「まぁ出席免除のことは、そう言われましてもねぇ……
わたくしが決めたことではございませんわよ?
講師であるシドリー教官殿にお尋ねになってはいかがでしょう?」
私の突き付けた扇を払いのけ…ようとしたので引いて差し上げました。
無礼者にわたくしの持ち物を触られるなんて冗談でもあり得ませんもの。
「けっ!どうせ汚い裏取引でもしたにきまってらぁ!」
ピシリとなにかにヒビがはいったような、錯覚よ?
皆さんにも聞こえた気がしたのかしら?
「ほうぅ……
わたくしが不正をしたと、そうおっしゃるわけですね?
で?どのような決着がお望みですか?」
投げ飛ばされたことで身の程を知れば、このような小僧はそのまま放免しても構わなかったのに……
仕方のないことでございます。
「俺と勝負しろ、負けたら不正を認めてもらうぞ!
教官に詫びを入れてきちんと講義に出ろ!」
「お断りいたしますわ。
わたくしは不正などしておりませんし、何の詫びを入れるというのでしょう?
それにわたくしが勝ったからといって何かが手に入るわけでもありませんわよね?
そのような一方的な勝負、わたくしの受け損ですわ」
大体にして勝負ならさっき着いたばかりでしょうに。
踵を返しその場を去るふりをするわたくしに
「わーったよ!お前が勝ったらなんでも一つ言うこと聞いてやるよ!!」
思った通りこらえ性のないお猿さんですわね。
くるりと向き直ると取り囲む受講生たちにもよく聞こえるよう声を張りました。
「いま!なんでも!なんでも言うことをきく!
何でも言うことを聞くとおっしゃいましたね!
わかりました、そういうことであればこの勝負お受けいたしましょう」
「言ったことは曲げねぇよ。
よし、絶対負かしてやる!
泣いても許したりなんかやらないからな」
「あ~ら、わたくしを泣かせることができるとしたらわたくしの負けで結構ですわ」
「おい、お前の腰にさげているのは金属製だな?」
「ええそうですわよ、刃は入っていないなまくらですけどね」
中心線は厚みがあり、たわんだりしない様にこしらえてありますが、先端は丸く仕上げてあり突き刺すことも切ることもできませんもの。
折れたり曲がったりしないように加工された単なる鉄の板ですわ。
「なら俺も金属の武器を使わせてもらう。
ファウスト!俺の剣を持ってきてくれ!」
そう言われて、おつきの人らしいまぁまぁイケメンの男の方が走って持ってきたのは、ハイン様が入学式の時掲げていた剣でした。
ハイン様に抜き放たれたその剣のギラリと光る刀身は、しっかりとした名工の品に見えました。
もちろん真剣、まじで。
事故に見せかけて――)の一環かしら、まぁ実技一日目からなんて先が思いやられますわね。
まぁ実際今回は、偶発的な言葉のいったりきたりで刃傷に及びってところかしらねぇ……
わたくしをどうこうしたいのなら、もうちょっとこう…手の込んだやり方をしたほうがよろしくてよ。
「立ち合いだ、命のやり取りまではしねぇ。
怪我くらいは覚悟してもらうけどな」
あらよほど自信がおありのようですわね。
油断はしないようにしましょう。
「討魔流ハイン・イシュテート。
いざ尋常に!」
生意気な流派の名前ね、いつか道場破りに行かなくちゃなりませんわね。
「無斬流ピピル・マ・ピピル。
尋常にねぇ……
まぁよろしいでしょう、では!」
「「勝負!」」
「ハッ!」
気合の声を上げて、ハイン様がわたくしの左後方へ勢いよく飛翔するように移動しました。
普通の人間ならばその動きで、相手の死角に入ったことでしょう。
まぁわたくしの視界は普通の方よりも死角が少ないのですけれど。
しかしなんとも素早いですわね。
すばらしいわ、この年でここまでの動きができるなんて。
確かに素振りではこれは見られませんわね。
ピギィン!
おや、そこから連撃を入れてきますか、そうこなくては。
しかしこの剣速、厄介ですわね。
すべてを『弾く』のは無理そうですわ。
今日は普段使い用の姫鎧を着こんでいますが兜はありませんし。
制服のアレンジとして認められたものですから、何より露出は普通の服と変わりありません。
仕方ありません、姫鎧とはいえドワーフのジェイコ親方謹製の品。
彼の剣も業物のようですが、受け所を選べば耐えられるでしょう。
『弾く』ことのできる攻撃は勿論『弾く』として、首より上の攻撃と手首とかの脈の大きい場所への攻撃は剣か鎧で受けましょう。
あたってもかすり傷にしかならない場所は多少切れても大丈夫な皮下脂肪で受けましょう。
あとは捕まえられかどうかですわね。
さてどうかしら。
カン!
受けましたわ。
ピギィィン!
『弾き』成功!
ガッ!
鎧で受け止めますわ。
シュッ!
む、軽く鎧で覆われていないところを切られましたわ。
まぁ皮だけですけれど。
わたくしの厚いのは面の皮だけではございません事よ?




