第11話【入学式と亡国の王子クィン・ヴァトン】
◇◇◇◇第十一話【入学式と亡国の王子クィン・ヴァトン】◇◇◇◇
……今日ここに問う学園式の二度目の入学式が行われること、誠に喜ばしい。
この日を心待ちにしていたものも多いと思う、私もその一人だ……
遠くから聞こえてくる校長先生のお話が長いですわ……
学園の競技場を利用した入学式で各国来賓や、学園の講師紹介などの顔見世的なイベントなどをこなしていきます。
長いイベントで気が付くと意識がスキップして進んでいきますわ。
しかし、大体の入学生はこの式典に飽き始めていますわね、嘆かわしいこと。
……国家間の思惑の含むところは多岐にわたり、およそ境を接している国同士にいささかの問題もない場所はないといってよいだろう……
あちこちで無駄話に興じている者がいるようですの、話し声が聞こえる大きさですから普通の会話の域を超えた大きな声でお話しされているようですわ。
「おい見ろよあれ。
あのヴィクシアの紋章付けたやつ」
あら、後ろでわたくしたちのことを話題にされている方がいらっしゃいますわね。
「自分の国から出て学園に来るまでに盗賊をを襲って皆殺しにしたとか、行き会った商人を身ぐるみ剥いで奴隷にした挙句売り払ったりしたらしいぜ」
「なんという無残な……盗賊とはいえ皆殺しにせずとも捕縛すればよいものを……」
「商人の件については言語道断の暴挙、もはや貴族としての品性すら疑われる」
「学園についてからも本来入学資格がないのに金で無理やり入学を認めさせたらしいぜ」
「大国をかさに着てやりたい放題とはこのことか、断じて許すまじ」
あらあら、一つ一つはまったくもってその通りのことをやってきましたから、わたくし弁解のしようがありませんわねぇ。
別に弁解なんて致しませんけど。
……だがここにある学生諸君は国家の代表として選抜を受けてきたものである……
……それらのしがらみには関わりあっているといえるだろう……
……もちろん国によって送り込む人員の数や質をもって学内で優位ということはない。
ここに学園憲章があり述べている……
……一個の学生の出身国、身分、人種、その他もろもろの差異はこれを考慮せず、ただ成績をもって重要視する……
よりにもよって学校の理念に反することを、学園の最高責任者である校長先生がお話しされているときに話さなくてもいいと思うのですが、どうなのでしょう。
…結果でもあり過程でもある、この学園で勝ち得たものが重要とされる。
素質のあるなし関わりなく、努力するものは尊いものである。
等級の上にいるものは後進を導ける者もいるだろう……
……すべての個人はすべての個人に敬意をもって接しなければならない。
そして他人のどのような誇りにも故なくそれを蔑ろにはしないで欲しい……
……さぁ、学べよ励めよ若人よ、選んだ道をひたすらに進むがよいだろう……
入学式も終わり、学園都市内の甘味処でも探そうかしら?
などと競技場の出口がすくのを待ちながら考えていたら、何か競技場のどこかから、騒いでいる大きな声が聞こえてきます。
「俺は必ず勇者と認められてみせる!
俺の名は……」
あらあら剣を抜いちゃって、まぁ天に掲げる痛々しいポーズを決めている男の子がいるようですわね。ちょっと遠くてよくわかりませんが、何かのパフォーマンスかしら。
出口がすくまでもう少しかかりそうですわね、などと考えていたら声をかけらました。
「おい、ヴィクシアの魔王の娘、ピピルとはお前のことで間違いないか?」
「わたくしは貴方を存じ上げませんけれど、どちら様かしら。
初対面の相手を、お前呼ばわりする知り合いはいませんけれど」
「む……
俺の名はクィン・ヴァトン。
今はコングリハンド王国の者として学園に通うことになった者だ。
もともとはヴァトン王国の王子だったんだ、俺は」
「ん……ヴァトン王国といえば先の戦争で真っ先に滅んだ国だったかしら……?」
エーリュシエルに確認を取ると頷きを返してきましたので間違いはないでしょう。
「そうだ!いきなり攻め込んできたヴィクシアに飲み込まれた国だ!」
「あら?わたくしの聞いていたお話だと、先にヴァトン国が勝手に我が国の領域を侵し、開拓し始めたと聞いておりますが。
あと、あなたのお国の冒険者というのかしら、そういった人たちの略奪が先だったとされていますが」
「違う!俺たちの国はどこの国にも属していない森を開拓して、周辺の害獣を駆除して回っただけだ!」
「はぁ、そちらではそういう認識なのですね。
で?滅んだ国の王子様がわたくしに何のご用ですの?」
「いつか必ず祖国を滅ぼされた恨み、お前に向けて晴らしてやるから覚悟しておけ」
そのあとは興奮して目を充血させ、唾を飛ばして怒鳴りつけてくる元王子ですが、出てくるお話は繰り言ばかり。
要はわたくしにずっと謝罪させたいご様子。
大体狙っていることを教えにわざわざ来るとはどういう了見でしょう。
わたくしなら黙って必殺の時を待つものですが……
どう収拾を付けたものか考えつかず困っていると、
「クィン、もうおよしなさい、この方たちに何を言おうと国が帰ってこないのはあなたもお判りでしょう」
亡国の王子クィンの後ろから淡い色の髪色をした物静かそうな女性が現れました。
「ドライア姉上!しかし俺はこいつらのやったことを謝罪させなければ気が済まない!」
姉ということはヴァトンの元姫ということでしょうか、いきりたつ王子を強くいさめます。
「いいかげんになさい!
この方の申す通りもう決着はついたのです。
滅んだ国には終戦時の話の席もなかったのは、私も悔しいと思わなくはないですが、もはやそれさえも十年は過ぎた話。
あなたは校長先生のお話をちゃんと聞いていたのですか?
何をしにこの学院に来たのです。
過去はどうあれ未来をどう生きるかきちんと考えなさい」
「く……」
元王子クィンが黙ると元姉姫のドライアさんはこちらに向かって、
「ピピル様、お騒がせして申し訳ありませんでした。
私は戦を戦った世代が作った平和をきちんと保って次の世代に渡さなければならないと考えています。
弟のように考えている者も多くいますが、私のように考えるものもまた数多くいるのです。
どうかそのことをお気に留めてくださいませ」
「わかりましたわ、わたくしも将来国事の一部を預かる身。
様々な意見に聞く耳を持てるよう心掛けたいと思いますわ」
こう挨拶し、わたくしはたちはお互いにこの場を離れていきましたの。
「姉上がこのようなものに首を垂れることになろうとは……
許さん……許さんぞ……」
「クィン!今日はもう帰りましょう。
あなたの考えが本当に正しいのか、きちんと考える時間を取りなさい」
なんて元王子はブツブツ言ってましたけれども考えが平和な方向に向くのでしょうか、あの性格では難しそうですわ。
なんだか疲れてしまって甘味処巡りの気分ではなくなってしまったので、お持ち帰りのできるお菓子をあれこれ買い漁って寮に戻ったのですわ。
そのうちの焼き菓子に絶品のものがあり、わたくしの気分は高揚いたしました。
それをお兄様にもおすそ分けしたときの
「これはおいしいね、ピピル」
と、微笑むお兄様の顔を見れたことで、もうすべてがどうでもよくなってしまったのですわ。
世の中考えない方がよい話題もありますわよね。
単純にわたくしが考えるのが苦手だという事ではなくってよ、よろしくて?




