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冒険者同盟

 宿の一階では、連日賑やかな宴会が行われている。ダンジョンでの鍛錬を終えた冒険者達が、こぞって集まっているからだ。


 既に使い切れない金額を手にしているのもあって、食事代を全てネイベルが持っているのも一因だろう。しかし、タダ酒を飲みに来るだけという輩はいない。そんな人間は、そもそもカルーダの鍛錬にはついてこれないからだ。


 宿の主であるハボックさんは、豪胆な性格で、冒険者達とも仲が良い。この二月ほどの間に話し合いを済ませてあり、ここの宿は、ネイベルが完全に買い上げる形になった。


 防犯の意味も込めて、冒険者組合に、毎月一定の金額を受け取りに行ってもらう事になっている。


 左右の空き地も買い上げて、建物自体を大きく拡張する工事も進めてもらっている。今後の利用法について、ネイベルには少し考えがあった。






 カドも楽しそうに食事をしている。緋色の戦士の面々と仲良くなっている様だ。腕の立つ女性同士で、話が合うのかもしれない。


 時折、こちらに視線を投げかけてくるのだが、その度に少し恥ずかしそうな仕草を見せる。それを見ると、ネイベルも何だかムズムズとした気持ちになる。


 結局、想いを伝えられてから十日程が経過したものの、明確な返事は出来ていない。


 あれからもカドは、普段通りの態度で接してくれたので、完全にそれに甘えてしまっている。



 ――不誠実だろうか。



 ネイベルは今までの人生で、こういった経験をした事がほとんどない。正しい対応も良く分からない上に、そんな事を相談出来る相手もおらず、対応は宙に浮いたままとなってしまっている。


 それに最近では、リンの顔を見ると、少し胸騒ぎがする様になってしまった。上手に気持ちを切り替えられず、何だかチグハグな対応をしてしまう。


 ミネルヴァがたまに鋭い視線を向けるので、何か勘付かれている気がする。彼女はこういった機微に鋭いのだ。






 ぼんやりと思考の海で泳いでいると、周囲が騒がしくなった。


 どうやら、ロンメルとアルが久しぶりに帰還した様だ。それにしても、アルの人気はすごい事になっている。


 あの日以来この街では、アルプーリ王女は英雄だ、という話で持ちきりになった。少し外を歩けば、あっという間に人に囲まれる位だ。


 訓練場での一幕は、今も脳裏に焼きついている。


 舞い上がった土ぼこりは、窓から差し込む日差しを受けキラキラと輝いており、足元にひれ伏す二体の巨大な化け物は、圧倒的な存在感を放っていた。


 そんな中、霊木刀を天に掲げたアルの姿はどこか神々しくて、心を震わせるような美しさを感じたし、見る者を惹きつける何かがあった。皆が息を呑み、その芸術的な光景に取り込まれていたのを覚えている。


「ただいま戻りました」


「おぅ、元気にしてたか」


 ロンメルは満足そうな顔をしているし、アルのほうは、大勢に囲まれても、すっかりと自然体でいられるようになっている。


「ああ、こちらは変わりない。英雄たる王女様に声をかけてもらえるなんて、光栄の極みだよ」


 ネイベルがそうおどけて言うと、アルはニヤニヤしながら胸を突いてきた。


 どうやら、思ったよりもずっと肝が据わっている様だ。精神的に未熟だった過去の彼女とは、もう完全に決別したらしい。






 各々が自らの拠点へと帰って行くのを見届けると、ネイベルはいつもの部屋に全員を集めた。


「この数ヶ月はしっかりと足場を作った。俺は情報収集に努めたが、それぞれが自分の課題を克服する為に、努力を続けたと思う」


 皆とても充実した表情を見せている。ついついカドのほうを見てしまうが、彼女も優しい笑顔を浮かべている。


「それじゃあ、俺とカドが集めた情報や、今後の方針なんかを確認しよう」


 ネイベルはそう言うと、全員へ分かりやすい様に説明を始めた。






「と、いう事が現在まで分かっている事だ」


「この絵巻物は、私が詳しく調べるって事で良いのね?」


「ああ、助かるよ」


 指輪の魔道具に記録は取ってあるが、念のために現物をミネルヴァに詳しく調べてもらう。


「なるほどな。つまりイストが内部抗争でやべぇから、ここに拠点を作りながら、膿を出し切ると」


 カルーダがネイベルを見る。


「ああ。ロンメルとアルからの頼みでもあるんだけど、個人的にも、苦しむ人を見たくないという気持ちがある」


 名前を呼ばれた二人は、全員に頭を下げる。


 それに合わせてカドも頭を下げたのだが、ショウはやや遅れてしまった。カドに軽くにらまれている。


 彼もしっかり成長しているのだが、こういう抜けた所が微笑ましいというか、いかにも彼らしい。


「それは良いけどよ、意味する事は分かってるのかよ」


 周囲の雰囲気が少し緊張する。


 お酒の匂いが少し香る部屋の中で、暖炉の火がパチパチと鳴っている。


「ああ、分かってるよ」


 ネイベルはしっかりと答えた。


「ほぉ、そうかよ」


 カルーダの視線は鋭い。


 つまり、ウロ国王の後釜に誰が収まるのか、その結果どうなるのか、彼はそう言っているのだ。


 ネイベルはアルを見て、頷く。すると、彼女はゆっくりと語りだした。


「これはまだ確定じゃないし、もっと詳しく調べる必要がある。だけどな、ビソウとイザヨイの二人は、何かに操られているじゃないか、と思ってる。いくらなんでも、周囲の街がこれほど苦しむような政策をとるとは思えないんだ」


 少し俯き加減の彼女の表情は、影になって良く見えない。


 どうやら、ロンメルと共に周辺の街を直接見て回った結果、思うところがあった様だ。


 それにネイベルは、兄の名前を呼び捨てにしながらも、こういう結論に達するあたりに、彼女の気持ちが見え隠れしている気がした。


「俺達が力を貸せるのはその部分だ。もしかしたらマトージュや、さっき話したジャックとの繋がりが見えてくるかもしれないからね」


「なるほどな」 


 そう返事をしたカルーダを、アルはしっかりと見据えて、言葉を紡ぐ。


「父上が健在の間に、オレは様々な事を学べるだけ学ぶつもりだ。そのあたりの事は、ネイベルとも相談してある」


「へぇ、そうかよ」


 カルーダはひとまず納得しておくようだ。


「とりあえず、何やら不穏なイストを救いながら、やれる事をやろうって話だよ」


 ネイベルはそうやって話をまとめると、今日はひとまず解散にしようと言って、全員を部屋に帰した。











 翌日の朝、あらかじめカルーダに頼んでおいた通り、改装中の宿の一階に、数十人の冒険者達が集まった。


 ネイベルが彼らの前に出ると、雑談は止まり、静かになる。


「それじゃあ、話の通りだ。戦士の証を配布するので、順番に受け取りに来てくれ」


 カルーダの提案で、一緒に鍛錬をしていた冒険者達と同盟を組む事にした。その為にネイベル達も、パーティを組む必要があったので、先日、遂に冒険者組合へと申請する事になった。


 色々な案が出た中で、これからの活動を効率化したいという思いから『王国の薬缶』というパーティ名になった。結成したばかりだが、金級のパーティという事になっている。


「おぉ……なかなか奇抜な形だが、良いじゃないか」


「俺が適当に作った物だ。時間がなくてね」


 彼は希望の灯火という真銀級パーティのリーダーで、カルロスという男だ。フウロの街には試験官として来ていたらしい。


 イッカクが現れた時に見かけたあの優秀な男だと聞いて、ネイベルは、真銀級パーティというのも頷けると思った。


 カルロスはこの数ヶ月ですっかりカルーダに心酔しており、同盟の提案も、その証となる戦士証の配布も、彼が言い始めた事だ。


 鍛え始めて二月ではあるが、冒険者達はしっかりと実力が上がっている様で、何か形になる物を配布してはどうかという話だった。


 そこでネイベルは、黒鉄をやかんの形に整えて、胸に付けられる様、細工を施した物を用意する事になった。これを同盟の証にするのだ。


「これで僕もカルーダさんと同じ同盟に所属できたって事だね。宜しく頼むよ、盟主さん」


 そう言ってカルロスは、笑顔でネイベルの肩を軽く叩いた。


 黒髪で短髪であり、力強い眉をしているが、対応は柔らかくて人当たりが良い。それにとても爽やかだ。


「ああ、一緒に頑張ろう」


 ネイベルはこの同盟を大きくして、様々な活動をしていくつもりだ。


 今日はその一歩目となる。


 ちなみに真銀級の希望の灯火を差し置いて、王国の薬缶が盟主パーティとなり、ネイベルがそのまま同盟主となった。


 異論反論が全く出なかったという点で、カルーダの人望に驚かされる。






「お前がどうしてもって言うからよ、仕方なく同盟に入ってやるかってな?」


 目の前には、ネイベルに強烈な印象を残していた男がいる。


 英雄の一撃という金級パーティのリーダー、ソーマだ。


「ああ、本当に嬉しいよ」


 ネイベルは思わず笑ってしまう。


「まぁ、お前は頼りないからな。俺の力を貸してやろう」


 ソーマはそう言うと、白い歯を見せながら戦士証を受け取った。


 サラサラとした金髪で、碧眼であり、ほっそりとした見た目とは裏腹に、相当鍛え上げられた肉体をしている、とカルーダは言っていた。


 そうして戦士証を配布していると、ネイベルの前に、女性陣が近づいてきた。


「ボン様はどこかしら」


 緋色の戦士というパーティは、このキャミィという女性がリーダーで、五人組だ。誰かに守ってもらうという経験に乏しかった彼女達は、ボンの後姿を見て一目ぼれしたのだそうだ。


 同盟に加わったのも、ボンの為だというから筋金入りだろう。


「裏庭でリン達と戦闘訓練中だよ。これを受け取ったら行って来なよ」


「あら、そうなのね。それじゃあ盟主様、ごきげんよう」


 なんだかずいぶんな扱いの気がするが、ネイベルは気にしないことにした。






 やがて全員に戦士証を配り終えると、そのまま今後の方針を確認して解散となった。


「意外と時間がかかったけど、無事に終わって良かったよ」


 そうですね、と言いながらカドが話しかけてくる。


「ところでこの宿は、フウロで活動する者達の為に買い取ったのですよね?」


「ああ、そうだよ。困った人を助けたり、魔獣の駆除をしたり、そういう活動を続けていって、影響力を高めていくんだ。きっと情報も集まりやすくなるはずさ」


「承知致しました。私の手の者を数名、ここに常駐させておきます」


「本当に? それは助かるよ」


 ネイベルがそう言うと、カドは笑顔で応えて、すぐに宿から出て行った。


「イストが少しでも良い方向へ進んでくれればと思います」


 ショウは隣でそう呟いた。


「いよいよ明日は王都へ出発だよ。忙しくなる。ショウの希望に応える為に、俺も頑張るさ」


 ネイベルは、妖しく光り続けるやかんを撫でながらそう言った。




フウロ編はここまでとなります。

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