表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/106

懐かしい雑踏

この章から地上編となります。


宜しくお願いします。

 ネイベル達は現在、何者かに尾行されている。


 ダンジョンから生還した喜びを、出入り口付近で全員と分かち合い、少し騒ぎすぎたかもしれない。


 周囲の冒険者達の視線を、あらかた独占する事になってしまった。


「なぁ、さすがに気づいてると思うけどよ」


「地図に印はつけておいたよ。少なくとも人間ではあるらしい」


「ほぉ、そうかよ。まぁ大した事ない感じだけどな」


「この状態で補足されちゃう様だとね。何かあるまでは放置してよう」


 カルーダと雑談しながら、ダンジョンから一番近い街へと向かっている。


 すると後ろで、マリー達が小声で会話を始めた。


 ネイベルは聞き耳を立てている。


「ちょっと、あれが大した事ないって嘘でしょ」


「姐さ……あたっ、すみません」


 ライズが頭を叩かれたのだろう。


「マリーさん、この気配って多分……」


「裏の人間だろうな」


 ホワイトが口を挟んだ。


「イストって言えば、影法師の奴らでしょうか。追って来てるのは一人ですかね」


 セットが周りに意見を聞いている。


「あるいは俺らがいないうちに出来た組織かもしれんな。あと、俺は二方向から視線を感じる」


 ジンがそう言った。


「どちらにしろイストに根を張ってる組織なんて、そこまで知ってるわけじゃないしね。十分に注意しましょ」


 あと視線は三つよ、と言ってマリーは前を向いたまま歩いている様だ。


 この世の中には、存在を隠して行動する事に特化した人間がいる、とロンメルが注意をしていた。


 ネイベルはそれを思い出している。


「お取り込み中の所悪いけど、追っ手は五人だよ」


 ネイベルは、僅かに首を後ろへひねって、彼らに言った。


「えっ……」


 全員が絶句している。


 ただ、周囲をきょろきょろと見渡したりしない分だけ、胆力はしっかりとついているようだ。


「気にすんな、別に悪い事なんてしちゃいねぇ」


 カルーダがそう言うと、マリー達は黙ってしまった。



 ――あれ、でもマリー達って確か裏社会で生きてきたって。



 まあなるようになるか、と思ってネイベルも気にしない事にした。






 ネイベルは地上でやるべき事を、はっきりと認識している。


 ダンジョンから逃げ出したマトージュを追いかけて、大陸が騒乱の渦に巻き込まれないように、封印し直す事だ。


 それに、ケト王国の末裔を探し出して、彼らにガルガッド王国の存在を伝える事も忘れてはいけない。連綿と紡がれた言い伝えを、愚直に守って生きている人間がいるだろう。彼らを救い出すことは、ネイベルにしか出来ない。


 そして最後の一つは――。


 ネイベルはリンをちらりと見る。


 彼女は僅かに頬を紅潮させて、ミネルヴァと雑談をしている。


 久しぶりの地上は楽しみだと言っていたし、さぞ会話も弾んでいるだろう。


 彼女は顕現する際に、多くの犠牲を払ったようだ、とミネルヴァは言っていた。しかし、本人は多くを語らない。


 地上で宝具や大陸の歴史について調べ直し、彼女についての、いや、()()()()()()についての謎を、はっきりとさせることだ。


「ただの商人だったはずなんだけどなあ」


 思わず心の声が吐き出される。


「はっは、それならネイベル様は、地上で最強の商人でしょうな」


 ロンメルとカドはおかしそうに笑った。


 表情が豊かになったカドを見ながら、ネイベルは気を引き締めるのだった。






「さて、ボンさんだけはちょっと困りましたね」


 ロンメルがそう言ってボンを見た。


 ガルガッドで購入した珍しい模様の布地を、ぐるぐる巻きにしてある。


 やかんの紋様を簡易的に模した物で、独特の雰囲気があり、実にネイベル好みだと言えた。



 ――カッカッカ



 本人は何だか嬉しそうなのだが、ネイベルほどの背丈で貫禄のある音を鳴らされても、知らない人からすれば怖いだけだ。


 ぱっと見れば、ただの不審者にしか見えない。


「やかんに収納するしかないか」


 ネイベルがそう呟くと、全員が気の毒そうな顔をする。


「いや、俺だって本意じゃないけど――」


「そうですな、問題が起きても面倒になりそうですし……」


 ロンメルが仕方なく、と言った感じで賛成の意を示した。


「死角を作ろう。マリー、そっちの外れにお願い」


「岩で良いかしら」


 そう言うと、一瞬で立派な岩の壁が出来上がった。


「おお、やっぱりさすがですね、マリーさん」


「魔力量が増えて一番喜んでましたもんね」


 ライズとセットが言う通り、マリーの魔力量は既に人の域を超えていた。



 ――年齢からして本当に人間か怪しい。



「じゃあ、さっさと済ませよう」


 ごめんね、とボンさんへ声をかけると、ネイベルは一気にやかんへ彼を収納した。






「あそこが入り口ですな。王都と違ってこの辺りは検問が緩いですので、すぐに入れるでしょう」


 それと、と言ってロンメルが話を続ける。  


「門番には、ダンジョンから戻ってきたと告げれば恐らく問題ありません。収穫は特になかったと言えば、すぐに荷物の検査も終わりになるはずです」


 全員が頷いている。


 バレスト大森林の端から歩いて、まだ一日も掛かっていない。だというのに、王都から離れた所にある街にしては、結構大きい気がする。周囲一帯を囲う壁は木製で、それに沿って堀が続いている。壁は比較的新しい様だ。


「じゃ行きましょう、ネイベル」


 リンの声に導かれるように、ネイベルは、実に十年以上ぶりに地上の街へと足を踏み入れるのだった。






「なんだか、随分とあっさりしてたんだけど」


 門番と少しやり取りをして、簡単に持ち物を調べられて終わりだった。


「もめるより良いじゃない。それに、ほら、ネイベル!」


 リンの指差す方には、待ち焦がれた景色が広がっている。


「うわあ……ついに文明の音がする場所に来たっていう実感が沸くなあ――」


 目の前には広い通路が伸びており、そのまま大きな広場に繋がっているようだ。


「それにしても……」 


 イストでは、民族衣装が発達していった様な、独特な装いをする人が多かったはずだ。


 しかし目の前には、多種多様な服をまとった人々が賑やかな雰囲気を作り出している。


 それとも、この街ではこれが普通なのだろうか。


「結構な活気よね」


 何気ない雑踏が、今のネイベルの心には深く染み入ってくるのだった。


「本当に元気な街だよ」


 視界に映る建物は木造だが、二階建ての物が多い。全体的に茶色っぽい通りになっている。


 木目を大事にした、といえば聞こえが良いが、単に壁へ色を付ける分のお金をケチったのだろう。だが、結果的に温かみのある空気が流れている気がする。


 肉を焼いた香りだろうか、空腹のネイベルには、暴力的な刺激の強さだった。


 門から左右にも太い道が続いている。きっと職人街や色街なんかがあるんだろう。はやく見て回りたい。


 ウズウズとして、はやる気持ちが抑えられない。子供に戻ったかのようだ。


「でも、ダンジョンにも意外と文明を感じられる所があったわよね。本当に不思議だけれど」


「そうだけど、やっぱり目の前にあるこの光景は本物だよ。リン、楽しみだね」


「ええ、一緒に見て回りましょうね」


 十月の風はやや肌寒いが、リンの笑顔は、十分にネイベルの体に熱を発生させた。 






 続々と他の仲間も集まってきた。


「こんなんで、本当に街に入れて良いのかぁ? 俺なんて適当に挨拶したら終わりだったぞ。初めての街で初めての会話だったってのによぉ」


「良く考えてみなさいよ。普通はきっとこの門から出て行くのよ? バレスト大森林やダンジョンに向かってね。それで、またこの門へと戻ってくるの」


 カルーダは頭を撫でながら話を聞いている。


「つまりきっと、もう既に調べ終わった人間だと思われているのよ。だから反対側の門は、逆に出入りの検問が厳しいと思うわよ」


「そんなもんかぁ」


 カルーダは元々、国を守る仕事をしていたわけだから、ちょっと気になるのかもしれない。


 ネイベル達は、想定外の道順でこの街へと侵入した、という話だ。十年以上もダンジョンの中で生活していた、だなんて信じてもらえるわけがない。


 カルーダに至っては、ダンジョンの地下出身だ。そんな事を正直に言っても大笑いされて終わりだろう。


 ややあって、ライズとセットが歩いて来る。全員の取調べが終わったようだ。






「おし、とにかく全員集まったぜ、ネイベル。さっさと行こう。俺はまず、酒が飲みてぇ」


 おぉ、良いですね、と言って口々にマリー組の面々がカルーダの元に集っている。


 酒を絶つのは辛かったんだよなぁと言って、カルーダはロンメルに何やら色々と聞いている。


 そう言えば、ネイベルも十年以上も酒を口にしていない。


 調味料で丁寧に味付けされた料理の数々……。


 たくさんの種類がある美味しいお酒……。


 喉が自然と鳴った。


 口の中に唾液が溢れ出てくる。


「よ、よし。それじゃあ――」


「待ちなさい」


 さっそくミネルヴァに捕まる。全員が彼女を見た。


「この人数が泊まれる宿を、この時間から探さないといけないのよ?」


「えっ……」


 みんな絶句する。


「楽しみなのは、私やリンだって同じなの。でも、まずは宿を確保して、飲み食いはそれからにしなさい」


 全員、少しばつが悪そうな顔色になった。


「ロンメルとカド、詳しいわよね? お願い出来るかしら。あと、私ほかにも気になる事があって――」


 残念だけど、確かにミネルヴァの言う通りだろうと思ったネイベルは、彼らが宿を見つけ出すまでにやれる事を考える……。


「あっそうだ! ショウ、これで適当にお金作ってきてよ」


 何をするにもお金が必要なのを、すっかりと失念していた。


 ダンジョン生活が長いと、こんな事すら気がつかないなんて……。


 街に入るのに必要だったお金は一体どうしたんだろう。ロンメル達が払ったのだろうか、それとも要らなかったのだろうか。少なくとも、ネイベルはビタ一文払っていない。


「あ、分かりまし――えっ、ネイベル様、これはちょっと……」


 ネイベルは、スルーレの小骨を出したのだが、まずかったらしい。手のひら程の長さしかなかったのだが……。


「確か雪虎の大きな牙が大量にありましたよね。あれを一本で十分ですよ」


 一本どころか恐らく百本単位であるはずだ。


「そんなもので良いの? まあいいや、ブランクが長すぎてね。悪いけど頼むよ」


 そう言ってショウを走らせる。


 地上に慣れたら、しっかりと目利きからやり直しだ、とネイベルは思った。






 ロンメル達が戻ってきた。表情を見るに、きっと良い報告だろう。


 ショウから換金してきたお金を受け取る。久しぶりのお金は、思ったより大きな袋にパンパンになっている。


 そう言えば、まだ街の名前を聞いていなかったな、と思ったネイベルだが、そんな事は後回しだと考えて、ロンメルとカドの後をついていった。




不穏な追っ手と賑やかな街。ネイベルは気持ちが昂ぶります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ