カルーダが貫いた物
「何かちょっと不憫ね」
目の前に転がっている彼らを見渡しながら、ミネルヴァがそう言った。
「まぁ、惜しかったけどな。この怪物は、今までこいつらが戦った中では一番手強い相手だったはずだ。イッカクよりも強かったな」
カルーダは、少し残念そうな雰囲気でそう話しているが、表情は柔らかかった。
「マリーの発想は素晴らしかったよ」
「ええ、そうね。土魔法を軸にして、水魔法を融合させて柔軟性をだしてみたり、かなり工夫の跡が見られたわね」
リンが嬉しそうな笑顔を浮かべている。
ネイベルは、何だかちょっと胸が苦しい気がしていた。
「ショウも頑張っていたようですし、とりあえず起きるまではゆっくりさせてあげましょう」
ロンメルがそういうと、ネイベル達は前回と同じように、リンに回復を任せながらボンさんの相手をしていた。
「結局、大物の怪物は両方ともボンさんがトドメを刺しましたな」
「その度に進化してるよね」
「それで今回はこうなったわけね」
ネイベルがロンメルとミネルヴァと話す先では、カルーダと棍棒で打ち合うたびに、雷閃を走らせるボンさんの姿があった。緋色の体は、その輝きを増している。
「倒した場所には、これが残っていたのよね?」
「ああ、そうだよ」
ミネルヴァが手にしているのは、オリハルコンの塊だった。握りこぶし程度の大きさだ。
「これが核か何かになっていたのかしら」
「その他の部分は、ボンさんが吸収しちゃったのかもね」
「前回の角の話ですか……。確かにありえますな」
「吸収っていっても限度があるでしょう。それに雷鳥を倒してこの程度の量しか残らないなら、スルーレが神話級の化け物だったっていうのも、十分納得出来るわね」
「何か、緋色の体が益々輝いているような気がするし、オリハルコンまで混ざったのかな……」
「それじゃあ今度から、ボン様とでも呼ぶべきかしら」
「はっは、確かにそうするべきかも知れませんな」
ロンメルとミネルヴァは、冗談をとばしあっている。彼女は本当に表情が豊かになった。
ボンさんは、楽しそうに棍棒を振り回している。
今回は、空間内に変化は起こらなかった。
未だに大雨だし、風は強いし、雷は落ち続けている。
それでもこんな環境に数ヶ月もいれば、いよいよ慣れてしまうというものだ。
ネイベル達は、ゆっくり休憩を続けていた。
「くそ、あと一歩だったのに!」
「いやーでも、手ごたえはありましたよ」
「そうですよ、ジンさん。次は最後まで頑張りましょうよ」
「オレの補助が甘かった。すまねぇ……」
彼らが各々の想いを語る中で、リンとネイベルは、マリーを褒めていた。
「あの発想は凄い良かったよ!」
「融合も完璧だったし、マリーは上達が早いわね」
「そ、そうでしょうか。リン様に褒めていただけるなんて! それに、ネイベルにまで……」
マリーは、リンとミネルヴァの事を様付けで呼んでいる。ネイベルにも、とても丁寧な対応をする様になった。
あの鞭が、大きく人格を変えていただけなのかもしれない。
今回は、十日ほどで全員が目を覚ました。前回より回復が少し早くなっている。
「おぉし、それじゃあ出発すんぞ」
「目的地は、何かが落下したこの地点だ。みんなも確認してくれ」
カルーダの号令を合図に、ネイベルが地面に映し出した地図を見て、それぞれがいつも通りの隊列を組みながら探索を続けていった。
「カルーダさん、明らかに怪しいものがありました」
「あれで間違いないと思います」
ライズとセットは、その身軽さから基本的に斥候を務める事が多い。
二人の先導に従って進むと、大きな銀色の金属の塊が、堂々と鎮座していた。
「おお、すごい綺麗だな」
「ネイベル、何だかあの腕輪の素材に似ていないかしら」
リンが言っているのは、マトージュに操られたときに付けられた腕輪の事だろう。
「確かにそうだね。同じ物かもしれないよ」
「正確にはちょっと違うわね」
ミネルヴァが横から口を挟んできた。
「あれは魔銀と呼ばれるものよ」
「ミスリルですか?」
カドも会話に混ざってくる。
「そういう呼び方が現在では主流なのかしら」
「だとすれば、これ自体が相当なお宝ですな」
ロンメルが頷きながらそう言った。
「ただ、あれは――」
ネイベルの背丈を倍にした程度の大きさはあるのだが、真ん中から右上のあたりにかけて、ドロドロに溶けて削れている。
「この馬鹿の魔法のせいでしょうね」
「がっはっは、すまねぇな」
カルーダは上機嫌だ。
「ミスリルはそもそも、攻撃魔法に対して圧倒的に耐性が高いはずなんですが……」
「威力がそれを上回ったという事です」
カドが引きながらそう呟くと、ロンメルは自らに言い聞かせるように、そう言った。
「とりあえず宝箱ではなかった様だけど、魔銀自体が貴重だし、これはこれで良かったね」
じゃあ収納するよ、と言ってネイベルはまるごとやかんへ吸い込んだ。
「地上にあがれば、良い武具を作れそうですね」
ホワイトがそう呟きながらこっちを見ている。
「分かってるよ、ちゃんとみんなに分配するから心配しないで」
ネイベルの言葉を聞いた彼らは、歓声をあげた。
「なんか、金属自体が雷を帯びていたように見えたのだけれど」
リンがミネルヴァとロンメルに気付いた事を尋ねている。
「属性が付与された可能性もありますな」
「魔銀はね、魔力で磨き上げると『神銀』といって神聖な銀になるのよ。だんだんと性能が良くなる武具が出来るらしいわよ。腕輪の素材はこっちね」
「真銀とも言われますが、ここまで来るともはや国宝級ですな。大陸にもあまり存在しないはずです」
ネイベルくらいの商人では、とても手が出せない装備類だ。話でしか聞いた事がない。実際、魔銀ですら近くで見るのも初めてだった。
「それじゃあ、あの腕輪はとても貴重なのね」
「そうみたいだね。ちゃんと持って来て良かったよ」
「神銀の装備までお持ちなんですね……」
カドとロンメルの後ろに隠れていたショウは、呆気に取られたように呟いていた。
「よし、それじゃあ怪物も退治できたし、お宝も手にはいったし、小屋を探そうか」
地図を映し出しながら、未探索の場所をどんどんと埋めていこうと言って、再び探索が始まった。
魔時計は、八月中旬を示している。
「で、どうするよ。鍵を使うか? 俺はそのまま訓練を継続しながら探索するのが良いと思うが」
「私もそう思うわ。マトージュを追いかけるにしろ、実力不足のままでは不安だわ」
「ただ、のんびりしている暇もそれほど無いと思うのよね。地上で活動を始めたあいつは、もう様々な影響を及ぼしていると思うわ」
「そうだなあ。宝はもう十分だし、上層へ戻るのを優先しようか。その代わり道中は、しっかり訓練を継続するという事でどうだろう」
ネイベルは全員の意見の間を取った様な提案をしてみる。
「そうですな。ネイベル殿やカルーダ殿が不在の隙に、マトージュにやられても仕方ないですし、訓練は継続しつつ、急いで地上を目指すという方針には賛成です」
周囲を見渡すと、全員が頷いている。
「じゃあこのまま進もうか」
ネイベルの声に従って、ライズとセットの兄弟を先頭に、全員で階段を下り始めた。
「…………」
一行は無言になっていた。
「俺はここを突破した事がねぇからな。楽しみだ」
カルーダはやる気に満ちている。
「炎土かぁ。大丈夫かな……」
そう言ってネイベルは、無言の集団を見つめていた。
全員が悲壮な表情を浮かべている。
「あの……」
ジンが恐る恐るネイベルに尋ねる。
「ああ、大丈夫。ちゃんと計算してやるから、そこは任せてよ」
「いえ、あの……わかりました」
肩を落としたジンを見て、全員が何かを悟ったような顔になる。
「なんだおめぇら。情けねぇ顔すんじゃねえよ。溶岩の川を泳げる機会なんて、そうはねぇぞ」
ショウが泣き出しそうな顔をしていた。
カン、カン、と金属がぶつかる音がする方を見ると、ボンさんが、楽しそうに頭蓋骨へと棍棒を下ろしながら遊んでいる。
「ミネルヴァはどうする?」
ネイベルは彼女にも話を振った。
「そうね……前回もそうだったけど、私だけやらないで楽をするっていうのが何だか気持ち悪いのよ。以前の私からは想像出来なくて、自分でも驚いているんだけどね」
「私達も一緒にやるわ」
リンはミネルヴァの手を取って笑顔でそう言った。ミネルヴァも口元を緩めながら頷いている。
「よし、それじゃあ失敗は出来ないな。みんな準備が出来たら出発しよう」
ネイベルがそういうと、準備が出来た一行は、全員で黙々と壁際を歩き始めるのだった。
文字数がアレなので、一旦切ります。




