表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/106

命がけの訓練

 ネイベル達は、一度階段の中へと戻り、あの凄まじい雷にどう対応するべきか、作戦会議をしていた。


「雷が落ちる場所を誘導する方法としては、避雷針が有名ね」


「へぇ、そうかよ。そもそも、俺はあんなの初めて見たからな。さっぱりだ」


「ああ、それもそうね。それじゃあ雷については私が知ってる事を教えてあげるから、ちょっとこっちに来なさい。すぐ終わるわ」


 ミネルヴァはカルーダをそばに呼んで、外に起きている現象について説明を始めた。


 狭い空間に二人で横並びとなるわけで、自分から呼んだくせにあたふたとしながら、実にせわしなく表情を変えている。


 リンはそれを見ながら、優しく微笑んでいた。





 カルーダの事はミネルヴァに任せておいて、とりあえずネイベルは、どうするかをみんなと相談し始めた。


「やっぱり、全員で雷を受けながら進むのが――」


「死ぬわよ」


 マリーが割と真面目な顔をして突っ込んできた。


「そ、そうだよね。じょ、冗談だから……」


「ネイベルさんが言うと、全く冗談に聞こえないですよ」


 ジンが真顔でそう言った。アルは隣で眉間にしわを寄せている。


「オレはこういうのが苦手なんだ。後は任せ――」


「アルプーリ様」


 カドが鋭い視線をアルに向けると、ピクッと体がこわばって、こちらを向いて真顔になった。


「任せようと思ったが、やっぱり自分で考えるべきだと思ったんだ」


「何よそれ」


 リンが上品にクスクスと笑う。


「しかし、あの外の様子だと、数発なんとかした程度ではどうしようも無い気がするな」


 ネイベルは外を見て呟く。


「ずっと雷が落ち続けてますもんね」


 ショウも外を見ながらそう相槌をうった。


 視界には、所々に木が生えている様子が見て取れる。足元はドロドロにぬかるんでいそうだ。


 これだけ雷が酷ければ、草も生えない大地になりそうなものだが、森林とまではいかないものの、それなりに緑が多い空間のようだ。


 ダンジョンはやっぱり良く分からない。






「よし、お前らの話してる事が、良く分からねぇ事が分かった!」


 カルーダが豪快に笑いながら会話に入ってきた。


「じゃあ何で会話に入ってきたんだよ」


 ネイベルは呆れながら言葉を返す。


「答えは出てるのに、くだらない話し合いを続けているからだ!」


 ミネルヴァをちらりと見ると、彼女も大きく目を開いていた。想定外の発言なのだろう。


 すると彼は、胸を張って、大きな声で言った。


「そのまま、雷を浴びながら進めば良いだけだろうが」


 全員が、ぽかんと口を開く。


「ネイベル、おめぇは炎土と凍土を徒歩で越えて来たな?」


「あ、ああ」


「同じ事をすれば良いじゃねぇか」


 カルーダの発言を受けて、全員が驚きの表情をネイベルへと向けた。


「ネイベルさん……本当ですか?」


「炎土と凍土を越えたんですか?」


 ライズとセットの兄弟が口をパクパクとさせている。


「いや、そう難しい事でもないよ」


 ネイベルは落ち着いて返答する。


「その認識、だいぶ間違っているわよ」


 マリーが呆れたように突っ込む。


「俺が今悩んでいるのは、俺の魔法が途切れるような事があれば、全員が一瞬で命を落としてしまうという部分なんだ。気候変動に関しては、俺一人なら、失敗しても自分の命を失うだけだから問題ない。でも今回は十三人分だからな……」


 ボンさんも入れたら十四人だったな、と呟く。


「だからさ、万が一の事があったら……ちょっと責任が重くてね。どうしようかと――」


 ネイベルがため息をつきながら、おでこに手を当てているのを見て、全員がつばを飲んだ。



 ――やっぱり最初の発言は、冗談じゃなかったんだ。



 ところで、と言ってリンはネイベルを見た。


「あなたは、もう魔法の効果を調整出来るんじゃなくて?」


 どうやら、少し助け舟を出してくれるようだ。


「ん? ああ、そうだね。たぶん出来ると思う」


「それなら、死なない程度に被害を軽減しながら、耐性を無理やり上げるという手があるわよ。雷への耐性を鍛える人類なんて、今までいなかったと思うから、あなた達が初めてね」


「なるほど、そういう考え方もあるか」


 ネイベルがうんうんと頷くのを見て、その場にいる人間は、全員顔から血の気が引いていった。



 



 全員、悲壮な表情をしている。


「とりあえず最初は痛みを感じないような所から、徐々に効果を薄くしていこう」


 ネイベルは全員に説明を始める。


「それにカルーダが言うには、疲れた状態で、深夜に戦闘訓練を重ねる必要があるらしい。脳の一部を覚醒したままにする訓練だそうだ」


 カドが頷いている。


「ああ、それは必要だろうな」


 ジンも頷いた。他の人間は、少し苦い顔をしている。


「というわけで、強行軍だ。壁際を歩いて地図を埋めつつ、今まで通り交代しながら護衛任務の体で探索を続ける。三日歩き続けて一日休みだ」


 ネイベルがそういうと、カルーダが足りないとばかりに付け足す。


「途中でへばったやつは、本当に置いていくからな」


 なるほど、ネイベルには全員の顔が引き締まった様に見えた。






 少し歩くたびに。


「んがぁぁ」


 男達の痺れる声が。


「うっ」


 うめく声が。


「ゥォォ」


「あぁん」


 情けない声が。


「ヒィ」


 各々が悲鳴を上げている。少し変な声も混じっているが、おおむね問題なさそうだ。


「順調だな」


 カルーダは、行軍を振り返りながら、ネイベルの隣でそう言った。


「オレの教えられた順調っていう言葉はよ、もっと人類に優しかったぜ」


 半分閉じた目でアルがこちらを睨む。


「へっ、こんなんでへばるお嬢様だったとはな。育ちが良いとこれだから困るぜ」


 カルーダが吐き捨てるようにそう言った。


 アルは顔を真っ赤にして、歩き始める。


 ロンメルは、とても嬉しそうだった。






 地図は、始点へと向かっている。


 雷を浴びながら三日三晩歩き続け、一日しかない休憩時間も、睡眠中に飛んでくる石のつぶてを弾き、常時襲ってくる怪物の処理もしっかりとする。


 雷鳴の凄まじさにも苦労する事になった。怪物の気配は探れないし、仲間の声が聞こえないからだ。


 大雨への対応は、既に各々が自分なりのやり方で解決している。


 そんな苦行をそろそろ四ヶ月は続けただろうか。 


 現在は、共通大陸暦で1195年7月上旬となっている。


 歩き始めた頃は、あまりの辛さに泣き言が多かったライズやセットも、いまや黙々と作業をこなすかのように怪物を処理している。


 ボンさんは、良く構ってくれるホワイトがお気に入りのようだ。いつもまとわりついている。


 ホワイトもまんざらではないらしい。彼の強面な表情が、その度に少し緩んでいた。最近では、カドがそれを見ながら微笑んでいるのを見かける。彼女の表情も相当柔らかくなった。


 初めから雷など一切問題にしていなかったボンさんを除くと、全員が相当な耐性を手に入れているはずだ。果たして地上には、雷に打たれながら食事を出来る人間がいるだろうか。


 おどろおどろしい雷鳴があたりに響いている。


「それにしても、上層への階段は無かったですね」


 ジンが怪物の肉を食らいながらそう言う。


 薄暗い空間に、閃光が走る。


「ネイベルさん達も、前回のあれが初めてって話しですからね」


 ライズは冷えた薬湯をがぶ飲みしている。


 すぐそばに雷が落ちているのというのに、まったく気にするそぶりを見せない。


「あんた達の訓練になったんだから、それで良いじゃない。結局、雷だって何とかなってしまったんだし」


 今となっては彼ら全員が、雷に打たれても、一瞬だけ体をピクリと動かして終わりだ。何事も無かったかの様に、淡々と行動を続けている。


 ネイベルの魔法操作が巧みだったのもあるかもしれないが、リンとやかんによる集中治療という力技も多いに役立った。それに、彼ら自身が魔力操作をしながら、ある程度被害を軽減しているようだ。


 訓練を始めてから結構な時間が経つが、彼らの魔力量は少し異常な速度で増えていた。


 思い当たる節が多すぎたので、これに関しては原因の追究を諦めている。






 結局この空間では、雷が止まない事を全員が理解していた。


「そろそろ一周が終わるからな。俺の魔法での補助はそこで終わりだ。睡眠中に脳を覚醒させる訓練は、これからも常時行っていく。その後は、中央へ進みながら小屋を探すぞ」


 ネイベルが指示を出すと、全員が大声で返事をした。






「ネイベルさん、あれ!」


 セットが指差した先には、雷雲と呼ばれる黒っぽい雲が空に浮いていた。


 ただ、常軌を逸した大きさである。


「あら、すごいものを見つけたわね。あれは多分、雷鳥の巣ね」


 ミネルヴァがそう答える。


「ほぉ、雷鳥なんて本当にいるんでしょうか」


 ロンメルが食いついた。


「確か、どこかの国の伝説だったかしら、実在するような記述はあったわね」


「確かに私も聞いた事がありますな。ただ、それを真顔で言うと、御伽噺を信じる愚か者だと馬鹿にされたりもしますが。ネイベル殿もご存知なのでは?」


「いや、知らないなあ。初耳だよ」


 ロンメルは、そうですかと言って少し残念そうな表情を浮かべた。


「伝説が本当なのか、ちょっと興味が沸きますね」


「ああ、戦ってみたいな」


 カドとホワイトもそう言って会話に混ざってくる。


「ほぉ、何やら面白そうな話をしているな」


 この雷鳴の中、どんな耳をしているのだとネイベルは思った。


「試しに巣をつついてみたらどう?」


 笑いながら冗談でそう言うと、彼は満更でもない表情をこちらへ向けた。


「良いんだな?」


 そう言うや否や、全力で剣へと魔力を込め始める。


 遺跡で見た頃よりも、確実に魔力量が上がっている。言葉では形容しきれないような膨大な魔力が、どんどんと膨れ上がっていく。


「ちょ、ちょっとカルーダさん!」


「あなた、一体それをどうする――」


 ジンとマリーの不安をさらに煽るように、剣に纏った魔力が一気に燃え上がると、ネイベル達をひと飲みで消し去れるような大きさまで広がった。


 カルーダはその炎の塊を、雷鳥の巣に向かって全力で振りぬいた。


 燃え盛る炎の龍は、そのまま雷鳥の巣へと突っ込んでいき、ど真ん中を貫き霧散していくと、おどろおどろしい鳴き声が空間中に響き渡るのだった。




いつも追いかけて読んで下さる皆様、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ