草が生えている
マリーの鞭は、長年使われ続けてきた結果、呪具とも宝具とも呼べないような、何か中途半端な武器へと変貌したと言っている。
ネイベルは、てっきりマトージュの呪具だと思ったのだが、なんと違ったらしい。
あの時の狂気は、鞭を手にしている時に呼び起こされるものらしく、呪具と一緒で、一度効力を発揮し始めると、なかなか手から離れないのだと言っていた。
自分でも上手に扱いきれておらず、鞭の特性自体をほとんど理解できていないと言っていた。
なので、訓練を終えたら、ネイベルと一緒に調べて行く事になっている。
「案外、その鞭にも宝石をつけたら操作しやすくなったりするかもしれないわよ?」
ミネルヴァはいたずらっぽく、そう言って笑った。
「ほ、本当ですか、ミネルヴァ様」
マリーは、鞭から離しておけば、それなりに常人と言える範疇にはいると思う。
「知らないわよ、適当に言っただけ」
「宝石もタダではありませんからな。そう易々とは――」
ロンメルが何やら話している最中ではあったが、ネイベルはやかんから宝石箱を取り出した。
「結構あるよ。俺には価値が分からない種類ばっかりで困っているんだけどね」
商人でも分からない位、珍しいものだよ、と言ってネイベルは彼らに見せてやった。
ロンメルとマリーの二人は、アゴが外れてしまったのではないか、という位に大きく口を開いていた。
「こ、これは一体どこで……?」
ロンメルは必死の思いで言葉を紡ぐ。
「あぁ、ガルガッドのそばにあった水路っていう空間だよ。王族の為の修練場と、大切な書物の保管庫を兼ねていたんだ」
ネイベルは、ちらっとカドの表情をうかがう。
彼女は横目でちらりと見ると、また少し口角が上がった気がする。
少し楽しい遊びを見つけたネイベルは、カドという謎の多い女性に少し興味を持ち始めていた。
「宝石の価値は、見た目だけに留まらないって事は説明したと思うんだけど」
ミネルヴァはネイベルの方を見て、確認するような眼差しを向けている。
「あぁ、魔力を込められる量とか、性質とか、何かそんな事を言っていたよね」
「分かっているなら良いのよ」
彼女はほっと一息ついている。
「それじゃあ、明日からも探索を続けるから、食事を取ったらみんなしっかり休んで! 当番は交代だ。カルーダの指示に従ってくれ」
すっかり全体の指示を出すことに慣れ始めたネイベルは、なんだか少しむず痒い思いも感じている。
ただ、やっぱり仲間がたくさんいる旅は良いものだと再認識していた。
翌日以降は特に変わった事もなく、淡々と地図を埋めていく。
そして探索済みの地域が7割を超えようかという所で、ついにネイベル達の班は、壁に大きな穴があいているのを見つけた。
「これはやっぱり上層への階段ってことで良いんだよね」
「そうですな。間違いないでしょう」
少し奥を見てみたが、上へと上り階段が続いていた。
「特に扉とかないんだなあ」
「それは空間にも寄るんじゃないかしら」
リンも興味深そうに隣に来て、奥をのぞいている。
柔らかい体がネイベルに押し付けられる。たぶん、これはわざとやっているに違いない。
「リ、リン……あの――」
「初めての上り階段ね! おめでとう、ネイベル!」
そういって最高の笑みを向けられるものだから、ネイベルはたまらず目尻を下げて、一緒に笑うのだった。
「それじゃあ、さっそく戻って報告しましょうか」
ミネルヴァがそう切り出すが、ネイベルはもう少し探索がしたかった。
「せっかくここまで地図を作ったから、次はこのあたりも探してみようよ」
地図を地面に映しながら、埋まっていない部分を確かめる。
「宝箱でも探すつもりなの?」
「うん、そういう事。敵なんかが出るなら結構強い奴かもしれないだろ? カルーダ達の訓練にちょうど良いかと思ってさ」
「なるほど、それは良い考えかもしれませんな」
「確かにそうね、大した量でもないし、探索を続けましょうか」
ロンメルとミネルヴァは賛成のようだ。
ネイベルは、リンの方を振り向くと、彼女も頷きながら笑顔を返してくれた。
「じゃあここの階段は地図に印を付けておくから、つぎは拠点に戻ってこっちだね」
「そろそろ訓練組と合流してもいいかもしれないわね。食料なんて、売るほど集まったでしょう?」
ミネルヴァの提案は確かにその通りだ。
「そうだね、残りはみんなで探索しようか」
そうしてネイベル達は、いったん探索を引き上げて、拠点に戻る事にした。
訓練組は、毎日定量の怪物を食料用として狩った後に、対人訓練を開始していた。
ネイベル達が拠点に戻ると、ライズとセットの兄弟が訓練をしている。
カルーダが細かく指導をしている一方で、残りの班員は、カドの指示による基礎体力訓練をしていた。
「暑苦しくなるほど頑張ってるわね」
ミネルヴァは手で顔をあおいでいる。
「いや、良い事なんだけどさ……ただ、ボンさんが基礎体力訓練をしているのは、どうなんだ……」
カタカタと骨を鳴らしながら、ボンさんは楽しそう? に訓練をしている。
それを見たカドが、少し笑っている気がする。
「ま、まあ良いか――それじゃあ残りの時間は俺達も魔法の訓練にしよう。ロンメルさんも一緒にやりますか? あとはカドも連れてこないとな――」
ロンメルが嬉しそうに首を縦に振るのを見た後に、カドを呼んで、魔法の訓練を始める。
「それじゃあ、ロンメルさんとカドは基礎訓練をリンに習って下さい。俺はマリーと一緒に、融合魔法の訓練をします」
いくぞ、と言って拠点から少し距離をとって、ネイベルとマリーは融合魔法の訓練を、初歩から一緒に確認していくのだった。
翌日から、カルーダ達と合流し、十三人もの大所帯で探索を開始した。
普段はネイベルが、適当に魔法を飛ばしながら怪物の処理をしているのだが、ここ数日は訓練組が大活躍している。
「おぉ! いいぞライズ! そこで恐れを捨てるんだ。いけると思ったら強く踏み込め。怪物相手にひるんだら、その時点で負けだと思えよ」
「ショウ、腰が引けています。それでは重たい一撃が入りませんよ」
カルーダとカドが、的確に指示を飛ばしながら、サクサクと怪物達が屠られていく。
「あいつら、本当に数ヶ月で強くなったわね」
ミネルヴァがそう言って驚いている。
正直ネイベルも、こうやって怪物を倒すところを見るのは初めてなので、動きの違いに驚いている。
カルーダとカドの指導が良いのか、彼らの筋が良かったのか、それとも――。
いずれにしろ、探索は順調も順調であった。
ボンさんは、カタカタと骨を鳴らしながら付いてきていた。
「あ、ちょっとまって」
ネイベルは突然声を上げた。
「ん、どうした」
カルーダが振り返って聞いた。
「いや、少し怪しい気配だ」
ネイベルは、うっすらと妖しい光をあたりに伸ばしながら探索を続けていた。
するとついに、この空間に来て初めて、おかしい反応をする地点を見つけたのだ。
「ここだ」
ネイベルが指し示す地点には、特に何かがあるわけでもない。
普通に草が生えている。
「ここ……って言われてもな。草しか生えてねぇぞ」
「いや、このあたり一帯だけ、俺の魔力が弾かれるような感覚があるんだ。間違いない。なにかある」
ネイベルはさらに集中して魔力を広げていく。
「すごい――」
マリーは目を大きく見開いて感動しているようだった。
「私には魔力を薄くのばしている様にしか見えないのですが、どういった意味があるんでしょう」
「確かに、何か変な光が草の上に伸びているだけに見えるな」
アルプーリとジンが、ミネルヴァに意見を求めている。
「魔力を薄くのばしているだけよ」
ミネルヴァがぶっきらぼうにそう答えた。
「そ、そうですか……」
ジンは、決まりが悪いようにして立ち去ろうとしている。
「ちょっと、待ちなさいよ。結果を見てからいきなさい。あの答えだけじゃ分からないでしょう」
ミネルヴァはツンツンとしながらも、しっかりと見ていろ、と彼らに言った。
ほかの人間達も、全員がそれにならう。
ネイベルは、集中して範囲を狭めていく。
「いた、怪物だ! 地面の下で……ああ、大丈夫だ、眠ってる」
最終的に、大きい大人が横になった位の半径をした円状に、強い反応が広がっていた。
「ほぉ……地下か。で、どうするよ」
「私は戦闘できないから、離れているわね。あんた達の好きにして良いわよ」
ミネルヴァはそう言って、そそくさと距離をとり始めた。
好きにして良いと言いながら、距離を取っている時点で、もう戦う事を見越しているのだろう。
「相手の強さが分からないので、困った時にはカルーダ様とネイベル様に頼る事になってしまいますが……それでも、彼らの訓練にはなると思います」
カドは冷静に自分の意見を告げる。
「俺とアルはたたき起こす方に賛成だ」
ジンとアルプーリ王女はそういった。二人は最近仲が良すぎる気がする。
「俺達も賛成だ。カルーダさんに鍛えてもらった成果を試したい」
ライズとセットも賛成らしかった。
ホワイトは無言で頷いている。彼が戦いを拒否する理由はないだろう。
ショウも恐る恐る首を縦に振った。
「まあ……そうだね。たぶん、何とかなるよ! 今までも何とかなってきたからね!」
真っ赤な嘘だが、とりあえずそうやって鼓舞しておくべきだと思った。
「ったく、なんだそりゃ。下手糞にもほどがあるぜ」
と、アルプーリ王女は言った。そして、もうアルでいいか、とネイベルは思った。
「良いんだよ、とりあえずたたき起こすからな!」
そう言ってネイベルは、地下に向けて魔力をねじ込んでいった。
サクサク地上に向かうと言いながら、やっぱり戦闘シーン書きたいので加筆してしまいました。反省しています。




