ボンのお披露目
ネイベル達の探索は、順調に進んでいる。
あれから拠点の移動を数回繰り返しつつ、地図を埋めるように探索を進めていった。
広大な空間のうち、およそ半分以上と思われる部分の探索については、既に終了している。
カルーダ達八人は、日々壮絶な訓練を積み重ねている様だ。
初めの頃は、カルーダとカドが食料の調達をする一方で、残りの人間はほとんど戦力にならなかったという話であった。
しかし、最近ではマリー組の四人の実力が、メキメキと上達しているらしい。ショウは少し伸び悩んでいると言っていた。
アルプーリ王女については、なにやらカルーダが直々に指南しているらしい。
かき集められるだけの食料と素材は、既に十分やかんの中に収まっており、この大所帯でも数ヶ月はもつのではないだろうか。
薬湯につけておけば、食料が悪くなりにくいという効果も、やかんの評価を大きく向上させる事となった。
もはやこれひとつで、食料と水の問題は全て解決である。……ネイベルの魔力込みでの話ではあるが。
現在は、大陸共通暦で1195年の1月上旬だ。もう二月弱はここの探索を続けている。
「じゃあ、マリーの基礎訓練は終わりだね」
ネイベルとマリーは、探索の合間に魔法の基礎訓練を継続していた。
とはいっても、むしろネイベルが教わるような部分も多く、マリーも一緒に魔法を極められる良い友人を見つけたとばかりに、非常に充実した表情をしていた。
その影で、リンは少し微妙な表情をしている。
「最近のネイベルは、ちょっとマリーと仲が良すぎると思うわ」
「リン……あなたがネイベルに勧めたのよ……」
ミネルヴァも、もう聞き飽きたといった表情で、少しうんざりしていた。
「しかし、狂宴の魔女とは良く言ったものですな。狂気をはらんだ魔力を練りながらも、基礎魔法の技量は、やはり目を見張るものがあります」
ロンメルは、そういって感心している。
「それは……そうだけど」
リンは、やはり微妙な表情を浮かべるのであった。
拠点に帰ると、なにやら少し騒がしかった。
「おぉ! ネイベル、戻ったか! ちょっとこっちに来いや!」
カルーダが声を弾ませながらそう言った。
「あの男はいつもうるさいわね」
ミネルヴァは言葉とは裏腹に、やはり笑顔を浮かべている。
ネイベルが近づいてみると、そこには見慣れた怪物が一匹佇んでおり……。
「ん? なんだ。放っておいていい怪物なのか?」
敵意はまったく感じないが、ダンジョンの怪物というのは、そもそも殺気を飛ばしたりしてくる奴のほうが少ない。
「おぅ、こいつはな、ボンっていうんだ」
カルーダはその怪物の頭をなでながらそう言った。
怪物、というよりも、そこにいるのは白い骨戦士だった。骨以外は完全に何も無い。むしろ完全に骨だった。
「おし、ボン、ちょっとショウと打ち合ってみろ」
カルーダが背中を押してやると、ボンと呼ばれた骨戦士は、カコカコと頭蓋骨を鳴らしながら、棍棒を持ってショウに突撃していった。
「おし、いいぞ! ボン、やっちまえ!」
ホワイトが、ボンに声をかける。
「さっき教えた通りだ、良いな! 先手必勝だぞ、ボン!」
「ボンは本当に可愛いやつだぜ」
ジンとアルプーリ王女は、隣同士で仲良く応援している。
「よし、かかってこい!」
ショウはニコニコと笑いながら、ボンの棍棒を避けている。
カルーダ率いる訓練組は、なにやらボンを可愛がっているようだった。
「何? あれは」
ネイベルは未だに良く状況がつかめていなかった。
「ああ、そうね。あなたはまだ知らなかったわね」
ミネルヴァがそう言って説明してくれた。
「あれは恐らく宝具から生まれたばかりの御神体でしょうね」
「えっ! あれが?」
「ええ、そうよ。生まれたばかりの頃は、みんなあんなもんよ。話せるようになるのはずっと後ね」
ネイベルは初耳だった。
「ほぉーそうですか。宝具なんて滅多にお目にかかれないですからね。生まれた瞬間の御神体を見る事が出来るとは、幸運でしたな」
ロンメルはそう言ってあごを触っている。
ヒゲをそる事をやめたせいか、無精ヒゲが結構伸びている。
「リンとミネルヴァも、生まれたばかりの頃は、人型じゃなかったの?」
ネイベルは、単純に疑問だったので、直接聞いてみた。
するとリンは、ボンの戦いから視線を外し、髪を揺らしながらネイベルの方へと振り向いた。
「ふふっ、そんな大昔のことなんて、覚えていないわ――」
女性にそんな事を聞くなんて失礼よ、と言って、彼女はいたずらっぽく笑った。
「私の場合は、生まれた時に――」
ネイベルは、リンがあまりにも素敵だったので、ミネルヴァの話が耳に入ってこなかった。
ボンさんのお披露目は終わったようだ。
「と、いうわけでな。俺の剣がどうやら宝具になったらしい」
カルーダは、ネイベルのあげた黒鉄の剣を使い続けている。
パッと見では大した違いは分からない。違いと言えば――。
「そういえば、柄にあの宝石をつけたんだね」
「おぉ、ちょっと飾り気が無くて寂しいってアルが言ってな、ちょうど良いからこないだお前ん所にもらいにいったろ、あれを付けたんだ」
アルというのは、アルプーリ王女だろうか。仮にも一国の王女だというのに、随分と親しくなったものだとネイベルは思った。
「爺共はな、芸術性を理解する能力が致命的だからよ。オレが考えてやったんだ。なかなか良い塩梅だろうが」
ああ、やっぱり、アルと呼ぶくらいで丁度良いのかもしれない、とネイベルは思った。
「あら、あの宝石を使ったのね」
ミネルヴァはすぐに気が付いたようだ。
「どうせ使い道ないしね」
ネイベルは素っ気無く返す。
「まぁあんたはもう宝具なんて要らないでしょうから、良いと思うわ」
「宝具が要らないなんて、贅沢な話よねぇ」
マリーはカルーダの剣を見ながら羨ましそうにしている。
「いくら良い宝具を持っていても、魔力量が十分でないと、しっかり能力を発揮しきれないわよ?」
ミネルヴァが結構痛烈な事を言っている。
「この中だと、マリーくらいかしらね。ロンメルは少し足らないわ。カドも大分不足気味でしょうね。他は全くだめね。宝の持ち腐れっていうやつよ」
言葉の感じだけで意味がわかる位に、酷い事を言っている気がする。
訓練組の男達は、ミネルヴァの話を聞きながら、少し肩を落としていた。
「まぁ希望は捨てねぇことだ。俺みたいな奇跡もある。今度話してやるよ」
本当ですか! という声に包まれながら、カルーダはとても嬉しそうに笑っていた。
「しかし、宝石を簡単に人に与えられるとは、ネイベル様はやはりすごい方なんですね」
カドが抑揚の無い声でそう言った。ただ、どこか少しだけ、声に興奮が混じっている様な気がする。
「カドもやっぱり、将来は宝具が欲しいの?」
「ええ、そうですね。いつか巡り会えれば、その時は、と思っています」
美しい姿勢を保ちながら、拠点の外にも注意を飛ばしつつ、カドはいつも隙が無い。研ぎ澄まされた刃物のような美しさがある。
「そっか。それじゃあ今から魔力量を上げる訓練をしないとね。あとは操作の方も大事だよ」
ネイベルは、ちょっと偉そうに言ってみた。
リンは少し顔を背けて、口に手を当てている。ミネルヴァは、普通に笑っていた。
「私にも、今度魔法の手ほどきをお願い致します」
カドはそう言って頭を下げながら、ほんの僅かだけ口角をあげた。
ほかの人は気付いただろうか。
カドの笑う場面なんて、とても珍しいものを見る事が出来た。
「マリーなんかは、結構上達しているんだ。もともと基礎魔法は俺より上手なくらいでね」
ネイベルはマリーに話を振ってみた。
「宝具はちょっと憧れるんだけどねぇ。私にはこれがあるから――」
そういって鞭を取り出そうとしたので、ネイベルは急いで止めた。
「だめだ! それは訓練が終わるまで触らないって約束だろ!」
「そ、そうだったわね」
面倒な事態にならずに済んだネイベルは、そっと冷や汗を拭うのだった。
白骨の戦士、ボンが仲間に加わりました。随分前に書いたプロットには、全く別の名前がのっていたんですが、分かりやすい名前にしました。骨です。ネーミングセンスはゴミ箱に捨てました。
20日の9時に短編小説も一つ上げているので、良かったらご覧ください。




