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シワ

新しい章になります

 光が収まると、周囲は再び見覚えのある小屋の中であった。


「前回も思ったけどよ、転移したってのに、小屋の中に大した変化がないのは違和感がすごいよなぁ」


「私は小屋ごと転移するって聞いていたんだけど、どうも小屋ではなくて人が転移しているようね」


 他人から聞いた話なんてあてにならないわね、と言いながらミネルヴァは周囲を確かめている。


「どの小屋も内部は同じ構造ですからね。鍵自体が大層珍しい物ですから、使われた回数も少なければ、大昔ならその様な誤解をされていても仕方ありませんよ」


 ロンメルは笑いながらそうミネルヴァに語りかける。


「それもそうね。今と昔の違いを知るのって、とてもわくわくするわね」


 彼女はそういって小屋の中を歩き出した。


 大して広くもなく、狭くもない小屋の中ではあったが、さすがにこの人数だと少し窮屈に感じる。


「ロンメルさん達が四人、マリー達が五人、そして俺達が四人。随分増えたなあ」


 全部で十三人もの大所帯だ。


「初めはネイベル一人だけだったものね」


 リンが笑顔で相槌をうってくる。


「あの……」


 ジンが恐る恐る、といった感じで会話に加わってきた。


「どうした?」


 ジンの見た目から考えると、世代は近いだろうが、若干ネイベルより年上かもしれない。口調はもう少し丁寧にするべきだろうか。そんな事を考えていると……。


「実は四人で考えたんですが、もし良ければ我々の事も鍛えて頂けないでしょうか」



 ――よろしくお願いします。



 そう言って四人は床に左膝をついた。右膝は立てている。左手はお腹へ、右手は胸に当てていた。


 ネイベルはカルーダとロンメルに視線をやった。


「カルーダ殿が適任でしょう」


 ロンメルはカルーダを見る。


「良いのか? それなら……カドはもう十分だから良いだろう。ショウと合わせて五人か。いいぜ、地上に戻るまで鍛え抜いてやる」


 食料の問題もあるしな、と言ってカルーダは豪快に笑った。


「わ、私はネイベルに教えてもらいたいのよ」


 マリーは四人の後ろから声をかけて来る。


「俺は教えたり出来ないよ。基礎は全部リンから習ったんだ」


「そ、そうなのね? なら私もリン様に――」


「ネイベル、人に教えるのも勉強になるのよ?」


 リンが優しくそう微笑んでくる。ネイベルは確かに、と思い直して、マリーに向かって言った。


「わかったよ。それじゃあ基礎から順番にやろう」


「ありがとう、うれしいわ」


 マリーはそう言って笑った。確かに素敵な笑顔なのだが、年齢不詳……この大所帯で女性がこれだけいるのに、半数以上が年齢不詳というのは、いかがなものだろうか。


 それに、ついこの間出会った時には、あんな高飛車な態度だったのに――。ジン達もそうだが、それほどダンジョン内部が衝撃的だったのかな、とネイベルは思った。


「オ、オレも……」


 アルプーリ王女が珍しく口を開いた。


 カルーダから、自身の精神的な未熟さを認められない、という心の弱さを指摘されて以降、ずっと思案顔をしていたのはネイベルも見ていた。


 カルーダはどう対応するのだろう、そう思ったネイベルはちらりとそちらを見る。


「へへ……五人も六人も大して変わらねぇからな。いいぜ」


 そして彼は、ついてきな、という風に手で全員を呼び寄せると、豪快に扉を開け放った。


 ロンメルは、またしても優しく微笑んでいるのであった。






「うわぁ、ネイベル、美しいところね」


 扉を開けると、そこは草原地帯となっていた。爽やかな風が心地良い。草は足首程度まで伸びている。所々に木々が生い茂り、冒険を始めた頃を思い出す。


 小型から大型の怪物達が、ここからでもかなり多く見られる。


「怪物達の楽園みたいだね」


 ネイベルはそんな想いを口に乗せた。


「たしかに心地良い風は吹いているけどね、あの怪物達を見て楽園だ、なんて言えるのはやっぱり正気の沙汰とは思えないわよ」


 そんな狂気も素敵だけれど……と言ってマリーはネイベルを見つめていた。


 ネイベルは、背筋がぞくっとする。


「と、とりあえず先へ進もう――」






 ネイベル達は真っ直ぐ進みながら、ある程度の所を拠点とし、そこで二手に別れる事にした。


「この辺りで良いんじゃないか」


 ネイベルはカルーダに確認をとる。道中で処理した怪物達は全て丸ごとやかんの中だ。


「そうだな、そうするか。それじゃあ俺は六人を連れて……あとはカドも欲しいな。それだけ連れて、食料の調達にいってくる」


「ああ、カドがいれば安心もできるな。こっちは大丈夫だ。半日かけて周囲を探索していく。拠点を動かしながら上層への道を探そう」


 カルーダとの話し合いで、ネイベル、リン、ミネルヴァ、ロンメル、マリーの班を組み、この五人で探索を進めていく事になった。


「よし、それじゃあ早速はじめよう。地図に全員の印と拠点の目印はつけてあるから迷う心配もないしね」


「本来なら壁際を歩けば良いだけでしたのに」


 マリーは、カルーダが連れて行った自分の仲間達の方を見ている。


「鍛錬をしながら食料も調達できる。それに次の階層に食料が潤沢にあるかどうかは分からないんだ。結局これが一番効率が良かったりするのさ」


 そうやって気を回しながら、探索する場所を確認していく。地図を床に映しながら説明をして、ネイベル達は出発した。






「このあたりまでにしよう」


 そう言ってネイベルは、魔時計を見ながら今日の探索を終える事を告げた。


「そうね、今から戻ればちょうど良い時間になると思うわ」


 ミネルヴァも相槌をうつ。


「良い感じに地図は埋まっているから、明日は早めに出発して、別の方面に進みながら壁や小屋を探そう」


「それに、宝箱もあると良いわよね」


 マリーが少しうれしそうにそう言った。


 今日の鍛錬が楽しかったから上機嫌なのかもしれない。彼女は魔法の鍛錬をずっと独学で行っていたらしく、教えた事はあっても、教わった事はなかったそうだ。


 基本的な魔法は丁寧だし完璧だったのだが、なんというか、魔力に狂気を孕んでいるような気がした。魔力の適正を調べている間も、なぜか変な声を上げ始めるし、普段より視線を感じて背筋が冷える事が多かった。


「また、鍵が出なければいいけどね」


「あら、鍵の有用性は十分理解したでしょう?」


 ミネルヴァは不思議そうにそう言った。


「そうはいってもね、もっと違ったものを見たいよ」


「ほかの人間が聞いたら、贅沢言うなって怒られるわよ」


 そう言って彼女は、口元に少しシワを寄せながら苦笑いをした。最近、とても表情が豊かになっている気がする。リンはとても良い傾向なのだと言っていた。


 マトージュが去り際に見せた表情は、ネイベルの頭に深く刻まれている。とても切なそうな、とても寂しそうな、やるせないような――ネイベルの語彙では到底表現出来ないような、歴史の刻まれた表情をしていた。


 時の流れは確かに残酷だ。それにリンとミネルヴァだって同じじゃないか。こうやって人間を導きながら、自分達の精神を保っていたりするのかもしれないな、とネイベルは思った。


「ネイベル?」


 リンが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。


「あ、ああ。すまない。少し考え事をね」


 そう言ってネイベルも、ミネルヴァのような苦笑いを浮かべるのであった。


「では、そろそろ戻りましょうか。向こうの班が残した今日の成果を見るのが楽しみですな」


 ロンメルの笑顔に刻まれたシワを見ながら、時が刻む表情のシワには、色々な意味が含まれているなあ、と思いながらネイベル達は拠点へと戻って行った。





 拠点に戻ると、ネイベル達は驚きの声をあげた。


「カルーダ、すごいじゃない!」


 ミネルヴァは開口一番、その成果を褒め称えた。


 目の前には山積みになった怪物達の亡骸がある。ウサギなどの小動物に似た怪物や、牛や鹿などのやや大型な動物に似た怪物もいる。それらとは別にして、食料にならないであろう怪物達も横に分けて積まれていた。


「まだまだこいつらだけじゃ、中型の怪物を狩るのが精一杯だな。それだけじゃ腹の足しにならねぇだろうから、カドと二人で適当に襲ってくる怪物達を処理して、ここへ運んでおいた。素材? になるものもいるらしいぞ。横に分けてあるから、やかんに入れておいてくれ」


 カルーダは豪快な笑顔を浮かべながら、胸をはってそう言っている。


「ほぉ……これはなかなか」


「ええっ! この乱雑に積まれた山は――」


 ロンメルとマリーは食料よりもそちらが気になるらしい。


「良く分からねぇが、カドが言う通りにしといたぜ」


 カルーダはそう答える。


「カルーダ様の技術は素晴らしかったです。じぃ、貴重なものがたくさん含まれていますから、私も自力で取れるように頑張ってみます」


「気にすんな。おめぇにはこいつらの面倒も見てもらってるからな。それにネイベルはこういうモンを独り占めする様な人間じゃねぇよ。ちゃんと分けてもらえるぞ」


 カルーダがそういうと、周囲が色めき立った。


 ネイベルも詳しく見てみないと分からないが、どうやら良い物のようだ。専門は魔道具や変わった古物だったので、怪物産の素材についてはそれほど詳しくない。良い機会だから教えてもらおうと思った。


「それじゃあ、交代で番をしながら食事しよう」


 ネイベルがそう言うと、ヘトヘトの様相だった男達は少し元気が出たようだ。今日は徹底的にしごかれていたに違いない。


 火をおこして、肉を焼く。味付けは塩だけだ。それもこの人数ならすぐに無くなるだろう。しかし大勢で食べる食事は、そんな事を忘れさせるくらいに美味しかった。



 

地上を目指してどんどんと進んでいきます。

何だか気付いたら徐々にカルーダが主人公っぽく……。

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